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『す、すみませんでした・・・。』

会社の人にはいつもの光景でも私にとっては数ヶ月ぶりの出社。

職場の雰囲気は懐かしい光景ではあるけど、特にこれといった感動はなかった。不思議なもので人は必死になって身につけた事はすぐには忘れないらしい。自分のデスクに座った途端、自分のやるべき事をスムーズに思いだしテキパキと仕事をこなした。

『なんだ、出来るじゃない。本当に具合悪かったのかい?新しい仕事も溜まってるからこの調子で夜まで頼むよ。』

心からの愛想笑いも数ヶ月ぶりだった。相変わらず無茶ぶりをする上司にはイラついたけど私は文句も言わず黙々と仕事をこなした。

悟ったのだ。

ああ、お母さんがいないこの世界には私は未練などこれっぽっちもないんだな。どこに行きたいとか、何か欲しいとか特に思いつく事はなかった。唯一頭の中に浮かんだのは子供の頃の夢。仕事終わりいつもは買わない高級なケーキ屋さんのケーキを沢山買った。そして家に帰ってからそれを口いっぱいに頬張りお腹がいっぱいになるまで食べ続けた。

◇◇◇

一人の時間が出来てしまうといつも思う事があった。

一体何のために、私は生きてるんだろう。

一体誰の人生と比べ安心してるんだろう。

苦しいと言葉にしてしまったら、今まで無理やり止めていた気持ちが一気に溢れてきてしまいそうで自然と自分の気持ちに蓋をする。

このまま、歳とっていくのかなあ・・・。

何が幸せかわからないまま。

欲しい幸せが何かでさえわからないまま。

◇◇◇

・・・あれから時が経って私は今自分が欲しいと思う幸せの形を見つけた。

千代が私に言った事を全て理解できたわけではない。でも、未来がループする事がもしあるなら私は迷わず自ら落とし穴に落ちるだろう。

きっと目が覚めたのが一週間前だったのにだって何か意味があるはずだ。

そして迎えた満月の夜、私は前と同じグレーのパーカーとスウェットのパンツを履いてゆっくりとコンビニまで歩いていった。

お風呂場で傷跡を見た時、きっとまた満月の日に落とし穴が現れるだろうというというどこから来たかわからない自信が生まれた。でも、落とし穴の先が必ず時継様のいる世界かは定かではない。全く違う別の世界の可能性だってある。

それでも、私に迷いはなかった。

時継様に会いたい。

それに・・・もし全然知らない世界だったとしても・・・この世界で生きるよりは欲しい幸せが見つかる人生をきっと歩める。

目を瞑りその時間になるまでお地蔵さんの前で待機していた。

そしてしばらくすると周りが明るくなるのを感じた。私は目を閉じたまま力強く手と手を合わせお祈りする。

【神様、どうかまた時継様のいる世界へお送りください。】

フワッと浮く感じがあった後自分の身体が急降下していくのがわかった。ジェットコースターを直角で降りていくような感覚。目を開けても真っ暗だと思うと怖くて開けられなかった。そして身体を硬らせたまま私はゆっくりと意識を失った。





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