80 / 89
79 【千代視点】
しおりを挟む
『ち、千代・・・いつからそこに・・・。』
『時継様・・・。』
顔色の悪い時継様がそこにいた。
『時継様、まだ夢から覚めないのですか?』
自然と瞳から涙が出た。
『小さき頃から時継様、あなたのそばにおりました。そして近くにいながら時継様にずっと恋心を抱いていました。楽しい時も、悲しい時も一緒に気持ちを共有してきたではありませんか。祝言を挙げる事でやっとこの想いが成就する、そう考えていました。なのに何故、何故ある日突然屋敷に現れたゆきに・・・大切な時継様をとられなければいけないのですか?何故・・・千代には愛してると・・・言ってくれないのですか?』
『千代・・・本当にすまない。』
時継様は千代に土下座する形になった。隣でゆきも静かに同じ形をとっている。
『言葉で伝えた事はなかったかもしれないが千代が大切な存在だったという事は嘘ではないし、大切な存在という事に対しては今だって変わらない。ついこないだまで千代と祝言を挙げる事になんら迷いはなかったのだ。』
時継様の言葉が身体の中に入ってきてはすぐにボロボロになって抜けていった。大切な存在?大切な存在なのにこんなに傷つけるのですか?それに・・・一番大切じゃなきゃわらわにとっては意味がないのに・・・。
『だがゆきと出会って私の中の世界が変わった。たわいもない話をする日々の中で、少しずつゆきに惹かれていく自分に気付いたのだ。そんな自分に気付きながらもすぐに周囲に伝える事もせず過ごしてしまった私に全ての否があると思っている。』
ゆきと出会って・・・世界が変わったのはわらわも同じです、時継様。きっとわらわの知らない所でのやりとりでもあったのでしょうね。
『すまない・・・どんな罰だって受け入れるつもりだ。全てを失っても構わない。どうか・・・私との祝言はなかった事にしてくれ・・・。』
頭を下げ続ける時継様は客観的に見てとてもみっともなかった。だがそんな事より嫌だったのはこれがあの女、ゆきの、ゆきとの未来のために頭を下げているとわかっていたからだ。そしてそれよりも嫌だったのは時継様に対して嫌悪感を持ってしまっている自分自身にだった。
あんなに好きだった時継様も、わらわ自身の想いも全て巻き込んでバラバラにしてしまったゆき。そのゆきが今目の前で頭を下げ続けてじっとしていた。
なんだか頭を下げているにも関わらずゆきがわらわをバカにしているような錯覚に襲われた。
泥だらけの身体に痩せた身体。確かに千代はそなたに対して酷い事をした。でも、結局一番大切な人を奪っていくんだから千代もそなたに心を殺されたといっても過言ではない。身体の傷は見えるけど心の中は見えない。残酷だな。
わらわの心が殺されたのであれば・・・それと引き換えにゆきの身体も死ぬべきであろう。
深呼吸をした。
小さき頃からずっと護身用として胸元に小さな刀を忍ばせるよう教えられていた。
まさかこのような場所で使う時が来るとはな。
『・・・もう・・・いいです・・・時継様・・・これ以上会話を続けても・・・何も解決しないと思いますので・・・頭を上げて下さい。』
そう言った瞬間、わらわは小さな刀を握りしめながらゆきに向かって行った。
『時継様・・・。』
顔色の悪い時継様がそこにいた。
『時継様、まだ夢から覚めないのですか?』
自然と瞳から涙が出た。
『小さき頃から時継様、あなたのそばにおりました。そして近くにいながら時継様にずっと恋心を抱いていました。楽しい時も、悲しい時も一緒に気持ちを共有してきたではありませんか。祝言を挙げる事でやっとこの想いが成就する、そう考えていました。なのに何故、何故ある日突然屋敷に現れたゆきに・・・大切な時継様をとられなければいけないのですか?何故・・・千代には愛してると・・・言ってくれないのですか?』
『千代・・・本当にすまない。』
時継様は千代に土下座する形になった。隣でゆきも静かに同じ形をとっている。
『言葉で伝えた事はなかったかもしれないが千代が大切な存在だったという事は嘘ではないし、大切な存在という事に対しては今だって変わらない。ついこないだまで千代と祝言を挙げる事になんら迷いはなかったのだ。』
時継様の言葉が身体の中に入ってきてはすぐにボロボロになって抜けていった。大切な存在?大切な存在なのにこんなに傷つけるのですか?それに・・・一番大切じゃなきゃわらわにとっては意味がないのに・・・。
『だがゆきと出会って私の中の世界が変わった。たわいもない話をする日々の中で、少しずつゆきに惹かれていく自分に気付いたのだ。そんな自分に気付きながらもすぐに周囲に伝える事もせず過ごしてしまった私に全ての否があると思っている。』
ゆきと出会って・・・世界が変わったのはわらわも同じです、時継様。きっとわらわの知らない所でのやりとりでもあったのでしょうね。
『すまない・・・どんな罰だって受け入れるつもりだ。全てを失っても構わない。どうか・・・私との祝言はなかった事にしてくれ・・・。』
頭を下げ続ける時継様は客観的に見てとてもみっともなかった。だがそんな事より嫌だったのはこれがあの女、ゆきの、ゆきとの未来のために頭を下げているとわかっていたからだ。そしてそれよりも嫌だったのは時継様に対して嫌悪感を持ってしまっている自分自身にだった。
あんなに好きだった時継様も、わらわ自身の想いも全て巻き込んでバラバラにしてしまったゆき。そのゆきが今目の前で頭を下げ続けてじっとしていた。
なんだか頭を下げているにも関わらずゆきがわらわをバカにしているような錯覚に襲われた。
泥だらけの身体に痩せた身体。確かに千代はそなたに対して酷い事をした。でも、結局一番大切な人を奪っていくんだから千代もそなたに心を殺されたといっても過言ではない。身体の傷は見えるけど心の中は見えない。残酷だな。
わらわの心が殺されたのであれば・・・それと引き換えにゆきの身体も死ぬべきであろう。
深呼吸をした。
小さき頃からずっと護身用として胸元に小さな刀を忍ばせるよう教えられていた。
まさかこのような場所で使う時が来るとはな。
『・・・もう・・・いいです・・・時継様・・・これ以上会話を続けても・・・何も解決しないと思いますので・・・頭を上げて下さい。』
そう言った瞬間、わらわは小さな刀を握りしめながらゆきに向かって行った。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

人質王女の恋
小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。
数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。
それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。
両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。
聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。
傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

【完結】べつに平凡な令嬢……のはずなのに、なにかと殿下に可愛がれているんです
朝日みらい
恋愛
アシェリー・へーボンハスは平凡な公爵令嬢である。
取り立てて人目を惹く容姿でもないし……令嬢らしくちゃんと着飾っている、普通の令嬢の内の1人である。
フィリップ・デーニッツ王太子殿下に密かに憧れているが、会ったのは宴会の席であいさつした程度で、
王太子妃候補になれるほど家格は高くない。
本人も素敵な王太子殿下との恋を夢見るだけで、自分の立場はキチンと理解しているつもり。
だから、まさか王太子殿下に嫁ぐなんて夢にも思わず、王妃教育も怠けている。
そんなアシェリーが、宮廷内の貴重な蔵書をたくさん読めると、軽い気持ちで『次期王太子妃の婚約選考会』に参加してみたら、なんと王太子殿下に見初められ…。
王妃候補として王宮に住み始めたアシュリーの、まさかのアツアツの日々が始まる?!

最強退鬼師の寵愛花嫁
桜月真澄
恋愛
花園琴理
Hanazono Kotori
宮旭日心護
Miyaasahi Shingo
花園愛理
Hanazono Airi
クマ
Kuma
2024.2.14~
Sakuragi Masumi

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる