上 下
79 / 89

78 【千代視点】

しおりを挟む
暗くなってきて空にはくっきりと綺麗な満月が見えてきた。その周りにも美しい星達が輝いており今日の宴を彩ってくれているようだ。

父上や母上が祝い酒に酔い楽しそうにしているのを見ながらとても幸せな気持ちになった。千代も時継様と父上や母上のようになれる時が来るのだろうか・・・そう考えてふと時継様の方を向くといつの間にか時継様がいなくなっていた。

『時継様はどうした?』

『御手洗いに行かれました。私も着いていきますとお伝えしたのですが今夜は無礼講だから気を使うな、一人で行くとおっしゃいまして・・・。』

『そうか・・・ではわらわも御手洗いに行ってこよう。付き添いはいらん、夫婦2人で話したい事もあるしな。』

一人で御手洗いに向かう廊下の途中に何気なく庭を見た。すると一瞬誰かの後ろ姿が見えた気がした。

・・・あれは・・・・・秋道??

そんな・・・まさかな。秋道がここにいるはずないのだし、私も少し祝い酒を飲み酔っているのかもしれない。きっと、見間違いだろう。そう思い目を擦った。

・・・・・。

でも、もし、見間違いじゃなかったら?

夜風が静かに頬を掠めた後、不思議とすごく嫌な予感がした。

御手洗いに着きどうしたものかと右往左往した。女が男の御手洗いに入るなどなんてはしたないことか・・・しかし、ここは背に腹はかえられない。
夫婦になったのだからと勇気を出して人生で初めて男の御手洗いに足を踏み入れた。

・・・・・誰もいないのか。

はて・・・では、時継様は何処に?

頭の中に先程の人影がよぎった。秋道・・・もし屋敷に秋道がいるとなればあの女も来ているんではないだろうか?だとしたら・・・!!

女の勘というべきか頭にピンときた場所があった。沢山の人が来ている屋敷の中で人目につかない場所はなかなかない。だが今は使われてない部屋があった。そう、元はあの女が使っていた部屋だ。

足早にその部屋に向かい襖に手をかけた時、丁度中から時継様の声が聞こえてきた。

『宴はすぐに止めさせよう。千代との祝言はなかった事にする。とにかくみんなに頭を下げてくる。千代には本当に酷な事で申し訳ないし謝るだけではどうにもならないかもしれない。屋敷のみんなについては信頼を裏切る結果になり・・・霧島家の繁栄が途絶えてしまう事も考えられる。だがゆきがここにいる今、千代と夫婦になっても私は千代を幸せにはしてやれない・・・それに私も・・・幸せにはなれないだろう。これについてはこれからどんな罰でも受けよう。全てを失い無一文になるかもしれない・・・それでもゆき、私の隣にいてくれるか?』

急に思いもよらない時継様の言葉を聞き、頭が真っ白になった。途端にドクドクと心臓の鼓動が身体中に鳴り響いた。

時継様・・・一体、何をおっしゃっているのですか?

『時継様・・・。』

中から聞こえてきたのはやはり一番聞きたくないあの声だった。わらわは混乱した。離れにいるはずのあの女が何故今ここにいるんだろうか?

『ゆき、愛している・・・。』  

そしてその言葉を聞いてハッと我にかえった。

震える手をもう一方の手で支え、力を込めて襖を開けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

処理中です...