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襖が開く音が聞こえ、私は静かに音のした方を覗き込んだ。

『時継様・・・。』

会いたかった人にやっと辿り着いた・・・。時継様の姿を見て念願叶ったと気持ちが昂った途端、一気に視界が霞み身体がよろけた。

『ゆき!大丈夫か!?』

限界なんかとっくに超えている身体は思っているよりもずっとボロボロだった。

いつもより煌びやかな着物を着た時継様が慌てて駆け寄り身体を抱えこんでくれた。結婚式だもんね・・・千代もさぞ綺麗にめかしこんでいるんだろうな。それに引き換え私はというと顔は拭いたとはいえ身体中汚れが取れていなくてみすぼらしい・・・そう考えると恥ずかしくもなった。

『時継様・・・会いたかったです・・・よかった、また会えて。本当はもっと早く屋敷に戻りたかったんですがなかなか上手くいかなくて・・・。』

『ゆき・・・相当辛い道のりだったのだろう。よく戻ってきてくれた。すまない・・・私はゆきが元の世界に戻ってしまったかと思い流されるまま祝言を止める事が出来なかった。』

『いえ・・・突然いなくなった私も悪いので・・・気にしないでください。』

『宴はすぐに止めさせよう。千代との祝言はなかった事にする。とにかくみんなに頭を下げてくる。千代には本当に酷な事で申し訳ないし謝るだけではどうにもならないかもしれない。屋敷のみんなについては信頼を裏切る結果になり・・・霧島家の繁栄が途絶えてしまう事も考えられる。だがゆきがここにいる今、千代と夫婦になっても私は千代を幸せにはしてやれない・・・それに私も・・・幸せにはなれないだろう。これについてはこれからどんな罰でも受けよう。全てを失い無一文になるかもしれない・・・それでもゆき、私の隣にいてくれるか?』

『時継様・・・。』

時継様と目を合わせ、私は小さく頷いた。

『ゆき、愛している・・・。』

時継様は優しく手をとって冷たい私の手を温めてくれた。温もりを感じる事でだんだんとこれは夢じゃなくて現実だと実感出来た。

きっとこれから沢山の困難が待ち受けている事だろう。だけど、隣に時継様がいてくれるのならこの先何が起きてもどんな事だって乗り越えていけるはず。

時継様の顔がゆっくり近づいてきたのを感じて私はゆだねるように静かに目を閉じた。

そして、まさにその瞬間だった。

ガタンと強く襖が開く音がしてそこには私を鬼の形相で睨む千代が立っていた。

『ち、千代・・・いつからそこに・・・。』

『時継様・・・。』

千代は私から時継様に視線をずらした。千代が時継様に向ける視線は相変わらず優しいものだった。
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