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76 【秋道視点】
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『秋道様、時継様が席を立たれました!今の内に御手洗い前の廊下へお隠れください!ささ、こちらです!』
『そうか・・・わかった。手を煩わせたな。本当に助かった、いろいろありがとう。』
『な、何をおっしゃいます!これしきの事、なんて事はありません!ほ、他には何かご要望はございませんか?』
『ああ、今のところは大丈夫だ。じゃあ行ってくる。』
なんだか焦っているようにも見える手伝いをよそに私はひっそりと廊下の近くに隠れた。
そしてしばらく待つとその時が来たのだ。
『・・・時継様!』
名前をお呼びした最初はだいぶ警戒しているように見えた。
『・・・・・秋道?秋道なのか?』
だがすぐに私だと気付くと信じられないという面持ちでこちらに近づいてきた。
『時継様、お久しぶりです。』
『あ、ああ・・・秋道、そなた今まで一体何処へおったのだ?心配したぞ・・・ゆきは・・・ゆきは一緒ではなかったのか!?』
長い事一緒にいる時継様がこんなにも取り乱しているのを見るのは初めてだった。
『時継様、みなの目もあります。声を静かに、落ち着いて聞いてください。ゆきも無事でございます。今は屋敷の自分の部屋に潜んで隠れています。』
『お、おお!そうか!!そうか・・・やっぱり生きていたか・・・良かった・・・本当に良かった・・・こうしてはおれん。早速部屋に』
そう言ってゆきが待つ部屋に急ごうとしている時継様を見て身体が勝手に動いた。
『・・・秋道?』
このような形で時継様に触れる日が来るとはな・・・。
『時継様。久しぶりにお会い出来たのにも関わらず、無礼をお許しください。今、はっきりと時継様に聞いておかなければならない事があります。』
ゆきと長い道中歩いているときもずっと疑問に思っていた事があった。そういえば私は時継様の率直な気持ちを聞いた事が無かったのだ。
『・・・ふむ。どうしたのだ?』
『時継様・・・ゆきが戻ってきた今、この先どうするおつもりなのですか?』
『・・・・・。』
しばらく二人共沈黙していた。
『千代様と祝言をお挙げになったのですよね?ゆきは無事です・・・が今は宴の最中でもあります。』
『ああ・・・私は、情けないな。恥ずかしい限りだ。ゆきが急にいなくなり帰って来なくなった。そんなはずはないと思いながらも迫る祝言を止める決断を出来なかったのだから。周りに流されてしまった・・・弁解の余地もないだろう。しかし、ゆきがまだこの世界で生きているとわかった今、千代と一緒には生きていけない。千代には申し訳ないが・・・私は千代とは夫婦にはならないしなれない。ゆきが、好きだからな!』
【ゆきが、好きだからな!】
そう私に笑顔で伝えてくれた時継様の顔は久しく見ていなかった晴れやかな顔に見えた。
そうか・・・二人が想い合う姿を確認した私は心底安心した。諦めなければならないこの気持ちの先には二人の幸せが確約されていなければ割にあわない。
『そう・・ですか。それを聞けて安心致しました。ゆきも私と一緒にかなり大変な目にあって参りました。どうぞ労ってやってください。』
そう言ってそっと時継様の腕を離した。ゆきへの自分の想いは心の中にしまっておくことにした。きっとゆきも時継様には言わないのではないかという気がしていた。まあ・・・千代様と共謀してあの離れにゆきと暮らす事になったわけだが・・・それももはや墓場まで持っていこうではないか。
ゆきの部屋へと急ぐ時継様の後ろ姿を見送りふと空を見上げるとそこには綺麗な満月の光が降りそそいでいた。
『そうか・・・わかった。手を煩わせたな。本当に助かった、いろいろありがとう。』
『な、何をおっしゃいます!これしきの事、なんて事はありません!ほ、他には何かご要望はございませんか?』
『ああ、今のところは大丈夫だ。じゃあ行ってくる。』
なんだか焦っているようにも見える手伝いをよそに私はひっそりと廊下の近くに隠れた。
そしてしばらく待つとその時が来たのだ。
『・・・時継様!』
名前をお呼びした最初はだいぶ警戒しているように見えた。
『・・・・・秋道?秋道なのか?』
だがすぐに私だと気付くと信じられないという面持ちでこちらに近づいてきた。
『時継様、お久しぶりです。』
『あ、ああ・・・秋道、そなた今まで一体何処へおったのだ?心配したぞ・・・ゆきは・・・ゆきは一緒ではなかったのか!?』
長い事一緒にいる時継様がこんなにも取り乱しているのを見るのは初めてだった。
『時継様、みなの目もあります。声を静かに、落ち着いて聞いてください。ゆきも無事でございます。今は屋敷の自分の部屋に潜んで隠れています。』
『お、おお!そうか!!そうか・・・やっぱり生きていたか・・・良かった・・・本当に良かった・・・こうしてはおれん。早速部屋に』
そう言ってゆきが待つ部屋に急ごうとしている時継様を見て身体が勝手に動いた。
『・・・秋道?』
このような形で時継様に触れる日が来るとはな・・・。
『時継様。久しぶりにお会い出来たのにも関わらず、無礼をお許しください。今、はっきりと時継様に聞いておかなければならない事があります。』
ゆきと長い道中歩いているときもずっと疑問に思っていた事があった。そういえば私は時継様の率直な気持ちを聞いた事が無かったのだ。
『・・・ふむ。どうしたのだ?』
『時継様・・・ゆきが戻ってきた今、この先どうするおつもりなのですか?』
『・・・・・。』
しばらく二人共沈黙していた。
『千代様と祝言をお挙げになったのですよね?ゆきは無事です・・・が今は宴の最中でもあります。』
『ああ・・・私は、情けないな。恥ずかしい限りだ。ゆきが急にいなくなり帰って来なくなった。そんなはずはないと思いながらも迫る祝言を止める決断を出来なかったのだから。周りに流されてしまった・・・弁解の余地もないだろう。しかし、ゆきがまだこの世界で生きているとわかった今、千代と一緒には生きていけない。千代には申し訳ないが・・・私は千代とは夫婦にはならないしなれない。ゆきが、好きだからな!』
【ゆきが、好きだからな!】
そう私に笑顔で伝えてくれた時継様の顔は久しく見ていなかった晴れやかな顔に見えた。
そうか・・・二人が想い合う姿を確認した私は心底安心した。諦めなければならないこの気持ちの先には二人の幸せが確約されていなければ割にあわない。
『そう・・ですか。それを聞けて安心致しました。ゆきも私と一緒にかなり大変な目にあって参りました。どうぞ労ってやってください。』
そう言ってそっと時継様の腕を離した。ゆきへの自分の想いは心の中にしまっておくことにした。きっとゆきも時継様には言わないのではないかという気がしていた。まあ・・・千代様と共謀してあの離れにゆきと暮らす事になったわけだが・・・それももはや墓場まで持っていこうではないか。
ゆきの部屋へと急ぐ時継様の後ろ姿を見送りふと空を見上げるとそこには綺麗な満月の光が降りそそいでいた。
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