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『では、こちらにお着替えください!私は後ろを見ていますので安心してくださいね!』

小部屋の隅っこで着替えた私にお手伝いさんはそっとおしぼりを差し出した。

『・・・道中なかなか大変だったようですね。何があったのかは聞きませぬが・・・時継様とこれからお話になるのでしょうか?大変失礼を承知でお伝えしますがなかなか・・・その・・・お身体が汚れております。誰にも見つからずにお風呂に入るのはかなり難しいかと存じますので・・・。』

申し訳なさそうに深くお辞儀されてガラス越しに改めて今の自分の姿を見た。

・・・これは酷い・・・。

出発してからはお風呂には入れなかったし、ぬかるみの中を歩いたり、転んだり・・・浅いとはいえ川を渡ったりしたんだよね・・・。秋道さんは気を遣って何も言わなかったのかな・・・。

ボサボサの髪の下の自分の頬には泥が乾いてついていた。着ていた物もかなり汚れていた状態だったけど手も足も身体中に泥が飛び散っていた。爪には奥深く土が残っている。

『すいません、ありがとうございます。』

おしぼりを受け取り顔だけ拭いた後とりあえず自分の部屋に急ぐことにした。

お手伝いさんが時継様の見張りに戻らないと時継様と秋道さんが会えないもんね・・・。

お手伝いさんは静かに屋敷の中を先導してくれて廊下を曲がったり襖を開けたりするたびに最新の注意を払ってくれた。そしてそのかいあって私は無事に屋敷の自分の部屋にたどり着く事ができた。

『よし、ここまで無事に誰にも見つかっておりませんね・・・ってゆき様、お怪我をなされているじゃありませんか!早く手当てをしないと!』

そういえば身体のあちこちを擦りむいてしまってはいる・・・いや、でも今はそれどころではない!

『いえ、本当におきになさらず!これくらい全然大丈夫ですから!それよりもすみません、時継様の元へ戻ってもらいたいです・・・。』

『はっ!そ、そうでしたね・・・では、え、えーっと・・・よければこちらをお召し上がりください!』

お手伝いさんはそう言って胸元から何かを差し出した。

『大福でございます!おやつで食べようと思っていたのですがなかなか食べる暇が無く・・・甘いものは疲れを吹き飛ばしてくれますので是非!』

『大福・・・いいんですか?』

『ええ!どうぞどうぞ!では私はお役目をしっかり果たして参りますね!』

お手伝いさんが去った後にそのもらった大福をジーッと見た。まさかこんなに屋敷に到達するまで時間がかかるとは思わなかったから丸一日は何も食べていない。というか食べる事さえ忘れて無我夢中で歩いたんだなあ・・・。

大福を見ながら唾液が出てきた私は部屋の隅に隠れてかぶりついた。食べながら思う・・・大丈夫、私はまだ生きてる・・・ここにちゃんと存在しているんだ。

そして時継様がやってくるその時をじっと待った。
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