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籠の中に入ってからどれくらい時間が経ったのだろう。

『よし、少し休憩にしよう!』

千代の家臣達は休憩をとるようだった。

『荷物の見張りは私達に任せて下さい。』

秋道さんの声が聞こえた。

『おお、そうか。すまないな、助かるよ。』

沢山の足音が遠ざかって行く。そしてその後真上がガタガタと音が鳴り籠の蓋が開けられた。

『ゆき、大丈夫か?』 

『はい、大丈夫です!』

『誰もいなくなった。立てるか?』

秋道さんに手を差し伸べられ立ち上がり眩しい太陽の光を浴びた。

『実はまずい事になった。この先の関所で荷物の検問があるらしい。このままこの籠の中にはいられなそうだ。』

『そんな・・・。』

『籠の中自体は他の荷物を詰め込む事で誤魔化そう。ゆき、検問でもし見つかって身分を調べられる事があれば今のゆきでは立場上説明がつかぬ。面倒な事になりかねない。真っ直ぐ行けないとなると峠を越える事になり遠回りにはなってしまうが・・・着いて来れそうか?』

そっか・・・この世界の中で私の身分を証明する事は無理だよね・・・それに捕まってしまったらいつ出てこれるか、どうなるのかでさえ定かではない。

『はい、覚悟は出来てます!』

『ではゆき殿、ここでお別れですね。』

熱を出したお侍さんが手を差し出してきた。

『屋敷でどのような目的があるのかは存じませんがゆき殿、秋道殿の幸せを願っております。』

『はい・・・本当に色々と助けて貰いありがとうございました!』

私は迷わず両手を出してお侍さんと握手をした。

『よし、時間が無い。家臣達が戻ってくる前に出発しよう!』

名残り惜しかったけどお侍さん達にお別れをして私達は山道を登り始めた。

『ゆき・・・一行は今日の夜にでもお屋敷に着くだろうが・・・峠を越えるとなれば私達の到着はおそらくどう頑張っても祝言当日になってしまうだろう。』

『そうなんですね・・・でも、諦めません。私は出来る事を精一杯頑張ります!』

どうなるかなんてわからなくても、とにかく時継様に伝えたい。この世界にまだ私という存在が生きているという事を。消えてなんか無い・・・ちゃんと生きてる。

山道を登れば登るほど息が上がり苦しくなった。でもそれと同時に強く感じたのは私は間違いなく、この世界で生きているという事だった。

途中ぬかるみにはまって転び着物が泥だらけになったり膝に擦り傷を負ったりした。それでも前を歩いてくれる秋道さんを必死に追いかけながら夜には峠の頂上まで辿り着いた。

頂上から眺めると遠く下の方には街の明かりが小さく見えている。あの光の何処かに、時継様はいるんだ。

戻ってきた安心感でふっと腰が抜けてしまった。

『ゆき!身体が悲鳴をあげているのだろう。ここまでよく頑張った。この辺で少しだけ休もう!』

『いえ、全然大丈夫です!まだ歩けます!』

一刻も早く時継様の元へ辿り着きたい。

『ゆき、しっかりするのだ!辿り着いたとてその場で倒れてしまっては目的は果たせぬ。時継様に伝えたい事があるのだろう?ならば今は少し休憩して身体を休め明日万全の状態で屋敷へ戻ろうではないか!』

『秋道さん・・・。』

この場においても時継様や私の事を一番に考えてくれる秋道さんの言葉が胸に刺さり、私は素直に少し休む事にした。

『わかりました・・・私が休んだら秋道さんもちゃんと休んでくださいね!』

『ああ・・・わかった。』

その後交代で仮眠をとりまた歩き始める頃には辺りが明るくなり始めていた。

日付が変わった。

今日が時継様と千代の・・・祝言の日。
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