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『では、参るぞ!』

『はい、お願いします!』

祝言前日の早朝に千代のお父さんとお母さんが屋敷に向かうという事で朝日が登る前の深夜から千代の実家に向かいみんなで隠れて待機していた。

千代の実家は時継様の屋敷と同じくらい広くて大きい屋敷だった。千代ってなんとなくはわかってたけどお嬢様なんだな・・・。

空が明るくなり始めた頃、千代の家の家臣達が出発の準備を始めてザワザワし出した。そしてその準備に混ざって仲間のお侍さんがその時を伺っていた。

『ゆき殿はあちらの荷物をどかして籠を空にするのでもう少し近くまで進んで待っていてください。用意が出来たら合図を出します。秋道殿は目立たぬ服を盗んで参りましたのでこれに着替えてしばし待機を。』

『はい、わかりました。秋道さん!』

秋道さんと目を合わせる。

『ああ、しばらくは別行動だな。ゆきが入っている籠の後ろから着いていく。誰も近づかないように常に見張っておこう・・・ゆき、大丈夫だとは思うが最悪の事態も考えておかねばならぬ。もし見つかってしまった場合はみんなが時間稼ぎしてくれる事になっている。そのような事が起きた際は私と一緒に後ろは振り向かずとにかく逃げるのだ。』

『そんな・・・。』

『そうですぞ。秋道殿と同じく多数の人間が変装して紛れております。もしもの事があれば私達は私達で協力して逃げる事が出来ます故有事の際は気になさらずお逃げください!ゆき殿と秋道殿が無事に屋敷に着く事こそがみんなの願いなんですから!』

そう言われて見渡すとお侍さん達はみんな笑顔で頷いていた。

『・・・ありがとうございます。わかりました、必ず、屋敷に辿り着きましょう!』

その後みんなと別れ祝い品が沢山入っているという荷物が積まれている場所に隠れてスタンバイしていた。しばらくすると荷物の前が一瞬仲間のお侍さんだけになった時間があった。お侍さんは周りを見渡すと籠の中から荷物を取り出して素早く森の中に隠した。視線が合い手でおいでとアクションされ、私は荷物があるところまで一心不乱に走った。

『ゆき殿、ささ、こちらの中に入って下さい。狭いですが今日一日の辛抱ですぞ。なるべく動かず、声を出さないように気をつけてください。』

『わかりました!』

そう言って蓋がゆっくり閉められた。辺りは真っ暗で何も見えない。籠に入ってからすぐに千代の家臣達が戻ってきて荷物の整理をし始めた。周りで声が聞こえてきて私はドキドキしながら自分の口を強く押さえ、目を閉じた。

どうか、見つかりませんように・・・。

『よし、出発するぞ!』

そして大きな掛け声と共に荷物が持ち上げられ、運び始められた。一瞬大きな衝撃があったもののなんとか無事に出発出来たようだ。この後方には秋道さんもいてくれる。

周りが見えなくて時間の感覚もわからないまま私はとにかく時継様の事だけを考えて暗闇の中を過ごした。
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