上 下
20 / 89

19

しおりを挟む
時継様が部屋まで送ってくれて私はとりあえず布団に横になった。

抱きしめられた感覚がまだ身体に残っている。時継様の胸の中にいた時とても優しい温もりを感じてしまった。そう思うといてもたってもいられなくなってギュッと布団に抱きついた。

何考えてるんだろうか私は。さっきまで青い光と落とし穴の恐怖にビクビクしていたというのに。

考えてみれば時継様にはお姫様抱っこしてもらったり寄りかかってお地蔵さんまで案内してもらったり今考えると恥ずかしい事ばかりしてもらっていた。

穴があったら入りたい。

今度は布団の中にガバッと潜り込んだ。

落ち着け、私。この状態で恋なんてしてどうするんだ!しかも相手は婚約者持ち、これからどうにかなんてなるわけないんだから。それに時継様は私の事なんてなんとも思ってないはずだ。一人ぼっちの私が可哀想だからいろいろ優しくしてくれているんだろう。

好きになればなる程傷つく事がわかっている恋なんてこんなに悲しいものはない。

そう考えるとこれから時継様にはあんまり関わらないようにしていかないとな・・・それにしても。

あの青い光がまた現れてくれる事はあるんだろうか?何かのきっかけがあって現れたのだとしたらそのきっかけは一体なんなんだろうか?

今日・・・特別な事なんてあったっけ?

考えてみても特に頭には何も浮かんでこない。いずれにせよ私がこの世界に来た事象にあのお地蔵さんは必ず何か関わっている。確信が持てただけでも一歩前進ではある。これから、どうなってしまうんだろうか・・・一日でいろいろありすぎて疲れた私はそのまま卒倒するように眠りについた。

◇ ◇ ◇

『君、この締切は急遽明日になったから。宜しく頼むよ。』

懐かしい会社の風景。上司は日常的に無謀な仕事を次々と私に振ってきた。

『あ、はい。かしこまりました・・・。』

ああ、また残業確定。せっかく今日は定時に帰れそうだったのに。

非正規で生活が苦しい人も多い中で私は正社員として雇われ責任ある仕事も任されていた。

多少の無理は当たり前。自分は恵まれている。そう思っていないと自分自身が保てなかった。休みの日も仕事の事を考えてしまい、ずっとずっと年中仕事に縛られている気がして心が休まる暇が無かった。

そんな中で本当は少しずつ精神をすり減らしていたんだ。それでも生きていかなくちゃいけなかったから無理ですとか辞めたいとか口に出す事は出来なかった。

はっと翌朝目が覚めた時瞳から涙が溢れていた・・・夢か。

苦しかった夢を見た事で神社で悩んでいた事に一つの答えが見つかった。ああ・・・帰りたくないな、元の世界には。

もしいつか帰らなきゃいけない時が来たとしても、もう少しだけはこの世界にいたい。

そう強く思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

獅子騎士と小さな許嫁

yu-kie
恋愛
第3王子獅子の一族の騎士ラパス27歳は同盟したハミン国へ使いで来た。そこで出会った少女は、野うさぎのように小さく可愛らしい生き物…否、人間…ハミン国の王女クラン17歳だった! ※シリアス?ほのぼの、天然?な、二人の恋がゆっくり始まる~。 ※不思議なフワフワをお楽しみください。

処理中です...