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それからしばらくして黒い小さなテーブルに高そうな小鉢が沢山乗ったご飯をお手伝いさんらしき人が持ってきてくれた。

まるで高級旅館に泊まりに来たみたいだ。ご飯が出されるんだったら薬は後で飲めば良かったかな。そんなことを考えているとガラッと襖が開いた。振り向くと目が覚めた時後ろの方に立っていた女性が私を見下ろしていた。

『わらわは千代と申す。そなた、名は何という?』

おぬしのつぎはわらわか・・・本当になんなんだろうかこの世界は。

『失敬な!わらわを無視するというのか!』

すぐに返答しなかったのが随分癇に障ったのか千代は酷く怒鳴りだした。

『だいたいいきなり現れた身分も分からぬ女を時継様は何故このようにもてなすのか!気が知れん!』

『千代!』

すると奥から慌てたように時継様が走ってきた。

『千代、落ち着きなさい!先程話しただろう。きっと何か事情があるのだ。怪我もしている。明日私が詳しい事情を聞く、今日はゆっくりしてもらえ。』

『時継様は何故この女を庇うのですか!時継様の命を狙う忍びでもあったらどうするのです!いい年をした女なのに髪も短いし、名前も名乗らぬ。このような怪しい女を一晩でもこのお屋敷においていただきたくありません!』

そうか、この時代の女性は髪を結うから皆髪が長いもんなのか。かたや私は肩につかないくらいのボブヘアーだった。

名前、言った方がいいのかな?

『あの、私ゆきっていいます。』

『おお、そうか、ゆきというのか!』

『時継様!』

千代は私と時継様が話すのがとても嫌なようだ。

『そなたが怪しい者ではないという証拠を見せてみよ!』

千代は吊り上がった目で私を威圧してくる。

証拠と言われても、証明のしようがない。

『あの・・・簡単に理解してもらえるような話ではないのかなと思います。なにせ私自身よく分かっていない事が多すぎて・・・でも、私はその忍び?っていうのではないです。断言出来ます。こんなパーカーとか目立つ服装なんてしないだろうしそもそも本当に忍びとして屋敷に来たのであれば派手に足を怪我して手当してもらってたらまずいですよね?』

『うっ、そ、それは・・・。』

私の正論が千代に少しは効いたようだ。

『慌ただしくしてすまなかったな。この者は私の許嫁でお千代という。いきなりそなたが現れて少しびっくりしたようだ。悪気は無い。許してやってほしい。』

時継様は優しく私を諭す。

そうだったのか。許嫁って事は婚約者みたいなものだよね?そりゃあいきなり目の前に現れた知らない女をお姫様抱っこするのを間近で見たら、私に殺気立ってしまうのも分からなくもないな・・・。

『なんか、いろいろとすみません。』

助けてもらっていて話をややこしくしているのは間違いなく自分の存在だったので私は素直に頭を下げる事にした。

でもそれが千代には私が時継様の前でアピールをしたという事に変換されてしまったらしい。気付いた時にはますます関係が悪化していた。



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