15 / 88
15控えの部屋
しおりを挟む
昼食会が始まる時間まで、一旦控えの部屋で待たされることになった。
一人案内されたエマは、侍女らに髪と化粧を整えてもらった。
でも、当然侍女らは庶民の娘に対してビジネスライクに作業するだけ。取りつく島もなく、侍女たちは仕事を終えるとさっさと部屋を出て行ってしまいエマは一人残された。
コンコンコン
「エマ?」
扉を開け遠慮がちに顔をのぞかせたのはアルベルトだった。
不安でそわそわと落ち着かなかったエマは座っていたソファから弾かれたように立ち上がる。
「アルベルト様っ!」
(うわーん!どこ行ってたんですか!)
「大丈夫だったか?心配してたんだ、よかった」
アルベルトにエマは縋り付く勢いで詰め寄った。
「昼食会なんて無理ですっ!どうしたらいいですかっ!」
なんとかならないだろうかと言ってみるが、アルベルトは
「すまない…昼食会が終わったら迎えにいくから」
と、気の毒そうに眉を寄せるだけだ。
(そうですよね。王子様が決めたことをアルベルト様に言ってもどうにもならないですよね。)
分かってはいたがエマは落胆をかくしきれない。そんなエマをアルベルトは努めて明るく励ます。
「そ、それにしても、謁見の間では素晴らしい作法だったな!感心したぞ!
最上級の礼は腰を低くしたまま静止し続けるのが難しい。
妹も未だにふらつくことがある。
あれができたエマなら大丈夫!
昼食会もナイフとフォークさえ使って食べられれば、王子様方にも寛大にみて頂けるはずだ」
アルベルトの空元気のような励ましに、どうせ私は田舎者のお目汚しですもんね、とエマは力なく卑屈に笑った。
ところで、アルベルトの言った「王子様方」の言葉が引っかかる。
「あの王子様の他にも誰かいらっしゃるんですか?」
「ああ、多分謁見の間におられた王子付き宰相補佐ジークヴァルト・フォン・ホランヴェルス様だろう。
世継ぎの王子、ルイス・フォン・シュタルラント王子様と同じお年の23歳で、ホランヴェルス公爵家のご嫡男だ。
お父上は宰相をされている。
あと、もしかすると王子様の三人のご側室候補の方々もご一緒されるかも知れない。
ミーナ・フォン・グラン侯爵令嬢、カトリーヌ・フォン・マス伯爵令嬢、ジーナ・フォン・クルド子爵令嬢。
彼女たちはルイス王子様がご正妃とご結婚後に入れられるご側室の候補なんだ。
一応の名目は宮殿での行儀見習いと言うことになっている」
(あのひとは公爵家のご嫡男なのかぁ。
やっぱり高貴な人なんだ。ジッと見ちゃったから睨まれてちょっと怖かったけど、素敵な人だったなぁ~
………いや、ちょっと待って。
あの男が一緒かも?さらに貴族のご令嬢が三人も?
勘弁してよ~そんなの無理だって~宮殿の独特のマナーなんて知らないって。)
悲壮な顔でアルベルトをみるが、今度こそかける言葉も見つからずエマの肩をぽんぽんとたたき慰めるだけだ。
コンコンコン
そこへ半分開いていた扉の片扉をノックして来訪を告げたのは、謁見の間で会ったあの男だった。
扉は、女性と同じ部屋に二人っきりになる場合のマナーとしてアルベルトによって開けられてあった。
いつからそこにいたのか、男性はノックした片手を軽く扉に置いたまま無表情でこちらを見ていた。
「貴方様が、わざわざ?!」
アルベルトが恐縮し頭を下げるが、それに何も答えず
「行くぞ」
と、一言告げるとそのまま背を向けて歩きだしてしまった。
冷たいまでの素っ気なさにエマが不安げにアルベルトを見るが、特に気にしていないようだ。
むしろ、「くれぐれも粗相のないようにっ」と先程とは真逆のことを言い、早く後を追うようにと困惑するエマを部屋の外へ追いやるのだった。
一人案内されたエマは、侍女らに髪と化粧を整えてもらった。
でも、当然侍女らは庶民の娘に対してビジネスライクに作業するだけ。取りつく島もなく、侍女たちは仕事を終えるとさっさと部屋を出て行ってしまいエマは一人残された。
コンコンコン
「エマ?」
扉を開け遠慮がちに顔をのぞかせたのはアルベルトだった。
不安でそわそわと落ち着かなかったエマは座っていたソファから弾かれたように立ち上がる。
「アルベルト様っ!」
(うわーん!どこ行ってたんですか!)
「大丈夫だったか?心配してたんだ、よかった」
アルベルトにエマは縋り付く勢いで詰め寄った。
「昼食会なんて無理ですっ!どうしたらいいですかっ!」
なんとかならないだろうかと言ってみるが、アルベルトは
「すまない…昼食会が終わったら迎えにいくから」
と、気の毒そうに眉を寄せるだけだ。
(そうですよね。王子様が決めたことをアルベルト様に言ってもどうにもならないですよね。)
分かってはいたがエマは落胆をかくしきれない。そんなエマをアルベルトは努めて明るく励ます。
「そ、それにしても、謁見の間では素晴らしい作法だったな!感心したぞ!
最上級の礼は腰を低くしたまま静止し続けるのが難しい。
妹も未だにふらつくことがある。
あれができたエマなら大丈夫!
昼食会もナイフとフォークさえ使って食べられれば、王子様方にも寛大にみて頂けるはずだ」
アルベルトの空元気のような励ましに、どうせ私は田舎者のお目汚しですもんね、とエマは力なく卑屈に笑った。
ところで、アルベルトの言った「王子様方」の言葉が引っかかる。
「あの王子様の他にも誰かいらっしゃるんですか?」
「ああ、多分謁見の間におられた王子付き宰相補佐ジークヴァルト・フォン・ホランヴェルス様だろう。
世継ぎの王子、ルイス・フォン・シュタルラント王子様と同じお年の23歳で、ホランヴェルス公爵家のご嫡男だ。
お父上は宰相をされている。
あと、もしかすると王子様の三人のご側室候補の方々もご一緒されるかも知れない。
ミーナ・フォン・グラン侯爵令嬢、カトリーヌ・フォン・マス伯爵令嬢、ジーナ・フォン・クルド子爵令嬢。
彼女たちはルイス王子様がご正妃とご結婚後に入れられるご側室の候補なんだ。
一応の名目は宮殿での行儀見習いと言うことになっている」
(あのひとは公爵家のご嫡男なのかぁ。
やっぱり高貴な人なんだ。ジッと見ちゃったから睨まれてちょっと怖かったけど、素敵な人だったなぁ~
………いや、ちょっと待って。
あの男が一緒かも?さらに貴族のご令嬢が三人も?
勘弁してよ~そんなの無理だって~宮殿の独特のマナーなんて知らないって。)
悲壮な顔でアルベルトをみるが、今度こそかける言葉も見つからずエマの肩をぽんぽんとたたき慰めるだけだ。
コンコンコン
そこへ半分開いていた扉の片扉をノックして来訪を告げたのは、謁見の間で会ったあの男だった。
扉は、女性と同じ部屋に二人っきりになる場合のマナーとしてアルベルトによって開けられてあった。
いつからそこにいたのか、男性はノックした片手を軽く扉に置いたまま無表情でこちらを見ていた。
「貴方様が、わざわざ?!」
アルベルトが恐縮し頭を下げるが、それに何も答えず
「行くぞ」
と、一言告げるとそのまま背を向けて歩きだしてしまった。
冷たいまでの素っ気なさにエマが不安げにアルベルトを見るが、特に気にしていないようだ。
むしろ、「くれぐれも粗相のないようにっ」と先程とは真逆のことを言い、早く後を追うようにと困惑するエマを部屋の外へ追いやるのだった。
2
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
重要ミッション!悪役令嬢になってバッドエンドを回避せよ!
バッドエンドを迎えれば、ゲームの世界に閉じ込められる?!その上攻略キャラの好感度はマイナス100!バーチャルゲームの悪役令嬢は色々辛いよ
<完結済みです>
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

縁の鎖
T T
恋愛
姉と妹
切れる事のない鎖
縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語
公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。
正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ
「私の罪は私まで。」
と私が眠りに着くと語りかける。
妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。
父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。
全てを奪われる。
宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。
全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる