【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ

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15控えの部屋

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 昼食会が始まる時間まで、一旦控えの部屋で待たされることになった。

 一人案内されたエマは、侍女らに髪と化粧を整えてもらった。
 でも、当然侍女らは庶民の娘に対してビジネスライクに作業するだけ。取りつく島もなく、侍女たちは仕事を終えるとさっさと部屋を出て行ってしまいエマは一人残された。


コンコンコン

「エマ?」

 扉を開け遠慮がちに顔をのぞかせたのはアルベルトだった。
 不安でそわそわと落ち着かなかったエマは座っていたソファから弾かれたように立ち上がる。

「アルベルト様っ!」

(うわーん!どこ行ってたんですか!)

「大丈夫だったか?心配してたんだ、よかった」

 アルベルトにエマは縋り付く勢いで詰め寄った。

「昼食会なんて無理ですっ!どうしたらいいですかっ!」

 なんとかならないだろうかと言ってみるが、アルベルトは

「すまない…昼食会が終わったら迎えにいくから」

と、気の毒そうに眉を寄せるだけだ。

(そうですよね。王子様が決めたことをアルベルト様に言ってもどうにもならないですよね。)

 分かってはいたがエマは落胆をかくしきれない。そんなエマをアルベルトは努めて明るく励ます。

「そ、それにしても、謁見の間では素晴らしい作法だったな!感心したぞ!
最上級の礼は腰を低くしたまま静止し続けるのが難しい。
妹も未だにふらつくことがある。
あれができたエマなら大丈夫!

昼食会もナイフとフォークさえ使って食べられれば、王子様方にも寛大にみて頂けるはずだ」

 アルベルトの空元気からげんきのような励ましに、どうせ私は田舎者のお目汚しですもんね、とエマは力なく卑屈に笑った。

 ところで、アルベルトの言った「王子様方」の言葉が引っかかる。

「あの王子様の他にも誰かいらっしゃるんですか?」

「ああ、多分謁見の間におられた王子付き宰相補佐ジークヴァルト・フォン・ホランヴェルス様だろう。
世継ぎの王子、ルイス・フォン・シュタルラント王子様と同じお年の23歳で、ホランヴェルス公爵家のご嫡男だ。
お父上は宰相をされている。

あと、もしかすると王子様の三人のご側室候補の方々もご一緒されるかも知れない。
ミーナ・フォン・グラン侯爵令嬢、カトリーヌ・フォン・マス伯爵令嬢、ジーナ・フォン・クルド子爵令嬢。
彼女たちはルイス王子様がご正妃とご結婚後に入れられるご側室の候補なんだ。
一応の名目は宮殿での行儀見習いと言うことになっている」

(あのひとは公爵家のご嫡男なのかぁ。
やっぱり高貴な人なんだ。ジッと見ちゃったから睨まれてちょっと怖かったけど、素敵な人だったなぁ~
………いや、ちょっと待って。
あのひとが一緒かも?さらに貴族のご令嬢が三人も?
勘弁してよ~そんなの無理だって~宮殿の独特のマナーなんて知らないって。)

 悲壮な顔でアルベルトをみるが、今度こそかける言葉も見つからずエマの肩をぽんぽんとたたき慰めるだけだ。


コンコンコン

 そこへ半分開いていた扉の片扉をノックして来訪を告げたのは、謁見の間で会ったあのひとだった。

 扉は、女性と同じ部屋に二人っきりになる場合のマナーとしてアルベルトによって開けられてあった。
 いつからそこにいたのか、男性はノックした片手を軽く扉に置いたまま無表情でこちらを見ていた。

「貴方様が、わざわざ?!」

 アルベルトが恐縮し頭を下げるが、それに何も答えず

「行くぞ」

と、一言告げるとそのまま背を向けて歩きだしてしまった。

 冷たいまでの素っ気なさにエマが不安げにアルベルトを見るが、特に気にしていないようだ。
 むしろ、「くれぐれも粗相のないようにっ」と先程とは真逆のことを言い、早く後を追うようにと困惑するエマを部屋の外へ追いやるのだった。
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