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3スーラのパン屋
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「ここら辺のはずなんだけど…」
庁舎を勢いよく飛び出し、地図を見ながら何とか西区のキンセル通りまで辿りついた。
しかし、初めての場所だ。紙に書いてある住所だけでは、実際建物が並んでいる中から一軒のお店を見つけることは難しかった。
(誰かに聞いた方がいいかな。
あっ、あの買い物籠もってる人に聞いてみよう)
エマが、すみませんと声をかけ振り返ったのはふくよかな気の良さそうな四十代半ばくらいの女性だった。
「ん?なんだい?」
「道をお聞きしたいのですが、この辺りに、『スーラのパン屋』さんはありますか?」
女性は、大きな旅行鞄を持った明らかに田舎から出てきたとわかるエマを見て、少し驚いた顔をする。
「あんた、ここのもんじゃないねえ。店に買い物かい?」
「い、いえ」
首を振るエマに女性は怪訝な顔になった。
慌てたエマが「じつは、庁舎の戸籍係のミ…ミルドさんと言う方からパン屋さんでの住み込みのお仕事を紹介頂いてっ!えっと、それで行くところでっ」と、つっかえながらも説明すると、女性はふっと笑ったかと思うと、あはははは、と大きな声で笑った。
(何、何?いきなりどうしたの!?)
「私がスーラだよ。すごい偶然だねぇ。
そうかい、ロイがあんたを。……ふむ、いいよ。おいで」
ホントこんな偶然あるだろうかと、エマはほうけてしまった。
「あんた、名前は?」
「エ、エマです。エマ・ハーストといいます」
サバサバとした雰囲気で大らかに笑うスーラに好感を持ったエマは勢いよく一礼した。
『スーラのパン屋』は、石組みと木造の三階建てだった。
パン屋の入り口と、住居の入り口に分かれている。
店のあるキンセル通りは大通りから少し入ったところにあって、エマの足で庁舎から20分ほどかかった。
大通り沿いの建物は石造りばかりだったが、この通りは生活感があった。
木と石をつかった造りの町並みが連なっていておとぎ話に出てくる建て物みたいで可愛らしいと思った。
スーラが、木のドアの鍵を開けて、「さあ、どうぞ」と中に入れてくれた。
一階はリビングとダイニングがあり、その奥がキッチンになっているようだ。
裏庭に出れそうな勝手口も見えた。
キッチンは、丸見えにならないように壁で隠れているがドアが無いため、一階全体が奥行きがあり広く感じられる。
特にエマの目を引いたのが、可愛らしいインテリア類だ。
木枠の窓辺を飾る小さな花の咲いた植木鉢たち。
大きな一枚板のダイニングテーブルには存在感のある木製の椅子が六脚置かれ、飾り棚には手作り感溢れるマグカップが並ぶ。
壁にかけられたたくさんの絵皿も趣味良く飾られ部屋の雰囲気によく合っていた。
エマは鞄を床に置くと、青年から預かった手紙をスーラへ差し出した。
スーラは封を切り一読すると「へえ、読み書きに計算もできるのかい」と感心しながらエマの顔をまじまじとみた。
「確かに。エマ、これからよろしく頼むよ。
私はスーラ、パン職人の旦那と二人暮しさ。
結婚して以来二十年以上ここでパン屋をしてるんだよ。
庁舎にいたロイは私の甥さ」
「こちらこそよろしくお願いします。
王都から三日かかるテューセック村というところから今日王都に着きました。
ミルドさんのお言葉に甘えて突然押しかけてすみませんでした。
一生懸命働きますのでよろしくお願いします」
「はははは、丁寧な挨拶をありがとう。
さ、それじゃエマの部屋へ案内するよ。二階へおいで」
二階の部屋もとても可愛らしかった。
スーラは、可愛い物好きの女性のようだ。
小花柄模様の壁紙、オフホワイトのキルトのベッドカバー、小さなテーブルセット、植物の装飾があしらわれた洋服タンスやチェストなど、5畳ほどの部屋に配置されている。
(うわー、すごく可愛い部屋!)
「素敵なお部屋ですね!」
「ありがとう。荷物を置いたら下に行こうか。
買い物帰りでちょうど休憩するから、一緒お茶でも飲まないかい」
スーラに誘われダイニングに戻ったエマは、今日はお客さんでいいよと言われて、温かいミルクと自慢のパンを食べさせてもらった。
お昼を食べてなかったエマがパクパク食べると食べっぷりをスーラに笑われてしまった。
翌日の夕方、ロイ・ミルドが店に訪ねてきた。
「やあ、お疲れ様」
「ミルドさん!昨日はお世話になりました」
窓越しに軽く手を上げ合図して入ってきたロイを満面の笑みで出迎える。
エマは今朝から早速パン屋のカウンターを任されていた。
いきなり接客と言われ、かなり慌てたが、覚えなければならないパンの種類はそれほど多くなく、売られているパンはバケットや山形パンなど全て主食用ばかりだった。
カウンター奥の作業場にいたスーラもエマ達の声を聞きつけて、顔を出した。
「ロイ、よく来たね。
昨日はエマを紹介してくれてありがとうね。
それにしても、あんたもなかなかやるじゃないか」
スーラが最後にニヤリと笑ってロイを見やる。
「おっ、おばさんっ!」
ロイは一つ咳払いし、「違いますよ、何言っているんですか。僕は純粋に仕事が合っていると思ったから紹介しただけですよ」と真面目な顔で言ったが、スーラは堪えるように、クククと笑っていた。
「ロイ、今日の夕飯はうちで食べな。
エマの歓迎会をしようじゃないか。
エマ、そう言うことだから付き合っておくれよ」
「私の歓迎会を?!もちろんです!ありがとうございます!」
エマは弾む声で元気よく返事をした。
庁舎を勢いよく飛び出し、地図を見ながら何とか西区のキンセル通りまで辿りついた。
しかし、初めての場所だ。紙に書いてある住所だけでは、実際建物が並んでいる中から一軒のお店を見つけることは難しかった。
(誰かに聞いた方がいいかな。
あっ、あの買い物籠もってる人に聞いてみよう)
エマが、すみませんと声をかけ振り返ったのはふくよかな気の良さそうな四十代半ばくらいの女性だった。
「ん?なんだい?」
「道をお聞きしたいのですが、この辺りに、『スーラのパン屋』さんはありますか?」
女性は、大きな旅行鞄を持った明らかに田舎から出てきたとわかるエマを見て、少し驚いた顔をする。
「あんた、ここのもんじゃないねえ。店に買い物かい?」
「い、いえ」
首を振るエマに女性は怪訝な顔になった。
慌てたエマが「じつは、庁舎の戸籍係のミ…ミルドさんと言う方からパン屋さんでの住み込みのお仕事を紹介頂いてっ!えっと、それで行くところでっ」と、つっかえながらも説明すると、女性はふっと笑ったかと思うと、あはははは、と大きな声で笑った。
(何、何?いきなりどうしたの!?)
「私がスーラだよ。すごい偶然だねぇ。
そうかい、ロイがあんたを。……ふむ、いいよ。おいで」
ホントこんな偶然あるだろうかと、エマはほうけてしまった。
「あんた、名前は?」
「エ、エマです。エマ・ハーストといいます」
サバサバとした雰囲気で大らかに笑うスーラに好感を持ったエマは勢いよく一礼した。
『スーラのパン屋』は、石組みと木造の三階建てだった。
パン屋の入り口と、住居の入り口に分かれている。
店のあるキンセル通りは大通りから少し入ったところにあって、エマの足で庁舎から20分ほどかかった。
大通り沿いの建物は石造りばかりだったが、この通りは生活感があった。
木と石をつかった造りの町並みが連なっていておとぎ話に出てくる建て物みたいで可愛らしいと思った。
スーラが、木のドアの鍵を開けて、「さあ、どうぞ」と中に入れてくれた。
一階はリビングとダイニングがあり、その奥がキッチンになっているようだ。
裏庭に出れそうな勝手口も見えた。
キッチンは、丸見えにならないように壁で隠れているがドアが無いため、一階全体が奥行きがあり広く感じられる。
特にエマの目を引いたのが、可愛らしいインテリア類だ。
木枠の窓辺を飾る小さな花の咲いた植木鉢たち。
大きな一枚板のダイニングテーブルには存在感のある木製の椅子が六脚置かれ、飾り棚には手作り感溢れるマグカップが並ぶ。
壁にかけられたたくさんの絵皿も趣味良く飾られ部屋の雰囲気によく合っていた。
エマは鞄を床に置くと、青年から預かった手紙をスーラへ差し出した。
スーラは封を切り一読すると「へえ、読み書きに計算もできるのかい」と感心しながらエマの顔をまじまじとみた。
「確かに。エマ、これからよろしく頼むよ。
私はスーラ、パン職人の旦那と二人暮しさ。
結婚して以来二十年以上ここでパン屋をしてるんだよ。
庁舎にいたロイは私の甥さ」
「こちらこそよろしくお願いします。
王都から三日かかるテューセック村というところから今日王都に着きました。
ミルドさんのお言葉に甘えて突然押しかけてすみませんでした。
一生懸命働きますのでよろしくお願いします」
「はははは、丁寧な挨拶をありがとう。
さ、それじゃエマの部屋へ案内するよ。二階へおいで」
二階の部屋もとても可愛らしかった。
スーラは、可愛い物好きの女性のようだ。
小花柄模様の壁紙、オフホワイトのキルトのベッドカバー、小さなテーブルセット、植物の装飾があしらわれた洋服タンスやチェストなど、5畳ほどの部屋に配置されている。
(うわー、すごく可愛い部屋!)
「素敵なお部屋ですね!」
「ありがとう。荷物を置いたら下に行こうか。
買い物帰りでちょうど休憩するから、一緒お茶でも飲まないかい」
スーラに誘われダイニングに戻ったエマは、今日はお客さんでいいよと言われて、温かいミルクと自慢のパンを食べさせてもらった。
お昼を食べてなかったエマがパクパク食べると食べっぷりをスーラに笑われてしまった。
翌日の夕方、ロイ・ミルドが店に訪ねてきた。
「やあ、お疲れ様」
「ミルドさん!昨日はお世話になりました」
窓越しに軽く手を上げ合図して入ってきたロイを満面の笑みで出迎える。
エマは今朝から早速パン屋のカウンターを任されていた。
いきなり接客と言われ、かなり慌てたが、覚えなければならないパンの種類はそれほど多くなく、売られているパンはバケットや山形パンなど全て主食用ばかりだった。
カウンター奥の作業場にいたスーラもエマ達の声を聞きつけて、顔を出した。
「ロイ、よく来たね。
昨日はエマを紹介してくれてありがとうね。
それにしても、あんたもなかなかやるじゃないか」
スーラが最後にニヤリと笑ってロイを見やる。
「おっ、おばさんっ!」
ロイは一つ咳払いし、「違いますよ、何言っているんですか。僕は純粋に仕事が合っていると思ったから紹介しただけですよ」と真面目な顔で言ったが、スーラは堪えるように、クククと笑っていた。
「ロイ、今日の夕飯はうちで食べな。
エマの歓迎会をしようじゃないか。
エマ、そう言うことだから付き合っておくれよ」
「私の歓迎会を?!もちろんです!ありがとうございます!」
エマは弾む声で元気よく返事をした。
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