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Symbiosis
しおりを挟む「行けー!仮面ラ○ダー!」
僕は子供の頃、こういうヒーローに憧れていた。悪いものはやっつけなければならない。本気でそう思っていた。
どんな手段を使っても──。
例えば、学校。
友達の悪口や、友達に対する悪さを見る。
僕はそれに耐えられない。
僕はボスを呼んで忠告したが、暴力によって、あっけなく破れた。
そして、僕は両親に言った。
「柔道がやりたい。」
父も母も、反対はしなかった。むしろ、今までまともにスポーツをしてこなかった僕が、こう言ったことを喜んだ。
そして、数ヶ月後──。
僕は、友達をいじめていたボスを再び呼び出した。
「なんだよお前。懲りない奴だなぁ。」
彼は僕のことを嘲笑いする。
「今日もコテンパンにしてやるよ!」
そう言って彼は、僕に殴りかかってきた。
しかし、柔道という武器を手にいれた僕には敵わなかった。
彼は一目散に逃げて行った。
僕がここまでしたのに彼は、いつまでも友達をいじめ続けた。
僕は、彼が友達をいじめる度に、彼に『制裁』を与えた。毎回、毎回、友達に見えないところで、彼が僕に謝るまで殴り続けた。
そのうち彼は、友達に悪さをしなくなった。
しかし僕は、彼を殴ることを止められなかった。
それが友達への怒りからなのか、僕の自己満足からなのかはわからない。
ただ、彼を殴る続けた。
そのうち、それを知った友達から、「もうやめてくれ。」と言われた。
「お前は僕に、『悪』を見逃せって言っているの?」
僕は彼の言葉を無視してしまった。
彼は段々、僕から離れていくようになった。
そしてついに、『その日』が来た。
ある日、僕はいつものようにボスを殴っていた。抵抗しないから、いつもより多めに殴った。
「つまんねーの。」
泣きわめくこともない獲物を、その場に残して、僕は去った。
彼が動かない理由も知らずに。
その日の夜、僕の家に警察が来た。
「君が、彼を殺した『悪魔』だね?」
僕は可笑しいと思った。
なぜなら、僕がしたことは、『正義』だからだ。
「あなたは、そんなことのために柔道を始めたの?」
しかし、母は泣きながらそう言った。
「お前とは絶縁だ。」
しかし、父はそう吐き捨てた。
両親も兄弟も親戚も、僕の話すら聞いてくれなかった。
唯一、僕の話を聞いてくれたのは、仲の良い、叔父さんだけだった。
彼は僕の話を最後まで聞いてくれた。何を言っても、否定せず、頷いてくれた。
そして、僕が話を終えると、こう言った。
「君がやったことは、確かに『正義』だったかもしれない。だけど君はやりすぎた。きっと君は、自分の中の『悪』に勝てなかったんだよ。それを人のせいにしてはいけない。」
そして、僕の手を取って、こう言った。
「君が更正したら、僕が君のことを引き取るよ。たとえ君の親が、君を見捨てたとしても。君の中の『正義』と『悪』を共生させてごらん。」
そうして、僕の中の『正義』と『悪』を共生させるための生活が始まった。
僕が変わるのは、世界が変わるのと同じくらい難しい。
僕はそれを知らなかった。
ある日、僕は叔父さんの言葉を思い出していた。
今更になって、僕はこの事件のことを『悪い』と思った。
戦うべき『悪』は、心の中にいる──。
それを心の支えにして、僕は少年院で更正に励んだ。
ここを出るまでには、どんなことがあっても、『悪』を出さないように。
それから、五年。僕は刑務所を出た。
僕を迎えに来た叔父さんは、僕を見てこう言った。
「たくましくなったなぁ。」
それから無言で、僕達はある場所に向かった。
──僕が彼を、殺してしまった場所に。
叔父さんはそこに、写真を置いた。殺してしまった彼の、顔写真を。
僕の頬にはいつの間にか、涙が流れていた。
「本当にごめんなさい。僕は、許されないことをしてしまった……。」
そんな僕を見て叔父さんは、「お前は変わったな。」と言った。
「確かに犯罪歴は残る。だとしても、お前は立派な人間だ。そうなったんだろう?」
それから叔父さんは、僕の面倒を見てくれた。犯罪者の親族と言われても、いつか僕に殺されるぞと脅されても、屈しなかった。叔父さんは、様々な場面で、僕のサポートをしてくれた。
『僕は今、僕がしてしまったことを、ここに書き残す。
過去を振り返りながら。僕にとって、いや、殺してしまった彼にとって、一番辛いことを。
反省は大いにしているつもりだ。
僕と同じ人生を、誰かが歩まないために、そして、叔父さんに笑ってもらうために。今更、反省の色を表に出した。
しかし叔父さんは、二年前に亡くなっていた──。』
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