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第四十五話 長き戦いの終結
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己との戦いに終止符を打った。だが、まだ私の戦いは終わっていない。まだ、やるべきことが残っている。
「────」
私は───を助けるために、分離した影に近づく。
意識が朦朧としている。体が鉛のように重い。五感も辛うじてでしか機能できていない。
弱々しく動く右腕で触れるが、影を取り込むことはできなかった。いくら触れても掴めないし、触った感触すらない。
『魂を、認知していない……?』
───の言葉を聞き、私は納得した。あれだけ自分の生命力を削ったのだから、残っている生命力は僅か。生命力とは魂である為、言い方を変えれば私という存在は世界から認知されないほどにまで弱々しくなっている。それ故に、この影もまた私を認知していない。
このままでは、───を助けられない。
──だが、まだ方法はある。
「……後、何回分くらい予備魔力、残ってる?」
『……結合と分離、合わせて一回分です。予定では、その魔力で私に結合させ、消滅と同時に浄化となっています』
「それ、結合させる対処、私に変えられない?」
『………』
私の発言に───は驚かない。何となく、そんな気はしていたのだろう。
この影と私が再び合わさることで、───を救える。それに今回は無理矢理結合させているから、影のコントロールは多少強引ながらもコントロールできるはずだ。治療の際に入ってしまった影は、また浄化すればいい。精神が持つかは、わからないが。
多少リスクがあろうとも、私にはこの方法しかない。───を救って、私はこの影達と一緒に死ぬ。そうすれば、少なくともしばらくは妖の脅威にさらされることはなくなる。
しかし、未だに人間と魔族達は争っている。また、この神殿にあるような巨大な妖になるまでに、そう時間はかからない。ここの妖を浄化するなんて、それはほんの気休め程度にしかならない。
だけど、それが罪滅ぼしになるのなら。一時的とはいえ、幸せが訪れるのであれば、私は喜んでこの身を捧げよう。
『……それが、貴方を救うことになるのでしょうか』
「……うん」
──嘘だ。結果的に自分が死んで救われるなんて、それは真に救われるとは言わない。だが、もしも結合してしまえば、もう戻れない。
それでも、やらなければならない。できれば、命ある限り他の方法を試したい。だが、それらの方法では時間が足りない。だから、これ以外に方法はない。
誰もが救われるなんてそんな都合のいい話はない。何事にも、犠牲は付き物。それが偶然自分だった、それだけのことだ。
『ならば、私は貴方に従います。それが私の果たすべき使命ですから』
「……ありがとう」
私は刀の剣先を持つ手を前に出す。そして、刀から光が放たれ、物質結合が発動──
「その必要はないよ、神子」
──声が聞こえた。刹那、私の隣から白い誰かが通る。すると、刀の光が消えた。第三者の介入によって、やむを得ず中断したのだろう。
誰なのだろうか。わからない……だが、何処かで会ったことがある。それが何処だったのか、思い出せない。
「アレの片付けは私の役目。神子が代わる必要はないよ」
その声からは温かさを感じた。心優しい、癒されるような温かさを。
その白い人は、私の目の前にあった影をすくい上げる。すると、その影は白く染まりながら浄化されていった。
「……誰?」
率直な質問を投げかける。何故か、聞かなければらないと思った。
「私は白狐。人間達の良性から、この姿を得て蘇った妖狐だよ」
人間達の良性から生まれた存在、そんなものは聞いたことがない。だけど、この温かさから、それは事実なのだろうと思わされる。
「──神子は、生きたいって思う?」
その質問に私は、死ぬべきだと言おうとした。だが、その言葉は喉元で止まる。
「……たい」
本当は死にたくなんてない。死ぬ事が怖い。死ぬ事で罪から逃げられるとも思っていない。まだ、私は生きていたい。
「いき……たい……」
まだ、やりたいことは沢山ある。約束したことも沢山ある。しなくちゃいけないことも沢山ある。
「私は、生きたい……!」
今更死にたくないだなんて我侭なことを言っているのはわかってる。だけど、これが私の本心だ。
「──その言葉が聞けて安心した。だって、死にたい人を無理に生かしたくはないし、まだ神子を必要としてくれてる人はいるからね」
彼女は前へと進む。それを止めなければと、何故か思ってしまった。だが、膝を着きそこから体が動かない。
「私は今、この妖とは対になる存在。私が蘇った理由は、この妖を止める為だった。そして今、それを果たすことができる」
「まっ……」
手を伸ばす。しかしその手は届かず、余計に体勢を崩す。頭がグラグラする。
「神子の魂は、私が何とかする。少し時間がかかるけど、それくらいは許してね仙狐……」
白い彼女が手を広げる。その瞬間に優しい光が彼女の中から溢れ出す。そしてそれは、巨大な妖を包み込んでいく。
「───、」
彼女を呼ぶが、何故か声にならない。私は彼女のそれを止めたい。それはきっと、彼女自身が永遠に縛られるような、自身の運命に枷を付けるようなものだ。
もう誰からも幸せを奪いたくない。私の代わりに彼女が縛られる必要ない。
「──違うよ。これは私の意思で私の本来の役割で、一番良い形の終わり方。この役割に枷だなんて私は感じていない。それに……」
彼女は振り返る。
「色々あったけど、私はこれでも幸せだったよ」
そう、今までに見たことの無いほどの優しい笑顔で言って見せた。嘘偽りのない、心の奥底から。
──私はその言葉に対して、何も言うことができなかった。
そして彼女は再び妖を見上げ、さらに光を放出した。──刹那、地響きと共に神殿が崩れ落ちて行く。
「貴方達も、もう休んで……」
光が強くなる。反射的に目を閉じた途端、今まであった地面の感触が無くなる。目を開けようとすると、突然の浮遊感に襲われた。まるで水の中を漂っているかのようだ。
目を開ける。しかし、そこにあるのは巨大な妖を包み込んだ白い光のみ。そしてその光は大きくなっていき、私を包み込む。
──とても暖かい。
「大丈夫、死にはしないから。ただ、もう妖が出てこないようにするために留まるだけ」
彼女は笑顔で私にそう言い、光の中へ入る。同時に光が大きくなっていき、私はその光に飲み込まれた。
──決して、嫌な気分ではなかった。むしろ、とても落ち着いた。
私のギリギリ繋げていた意識は、眠るように促され途切れた。
「────」
私は───を助けるために、分離した影に近づく。
意識が朦朧としている。体が鉛のように重い。五感も辛うじてでしか機能できていない。
弱々しく動く右腕で触れるが、影を取り込むことはできなかった。いくら触れても掴めないし、触った感触すらない。
『魂を、認知していない……?』
───の言葉を聞き、私は納得した。あれだけ自分の生命力を削ったのだから、残っている生命力は僅か。生命力とは魂である為、言い方を変えれば私という存在は世界から認知されないほどにまで弱々しくなっている。それ故に、この影もまた私を認知していない。
このままでは、───を助けられない。
──だが、まだ方法はある。
「……後、何回分くらい予備魔力、残ってる?」
『……結合と分離、合わせて一回分です。予定では、その魔力で私に結合させ、消滅と同時に浄化となっています』
「それ、結合させる対処、私に変えられない?」
『………』
私の発言に───は驚かない。何となく、そんな気はしていたのだろう。
この影と私が再び合わさることで、───を救える。それに今回は無理矢理結合させているから、影のコントロールは多少強引ながらもコントロールできるはずだ。治療の際に入ってしまった影は、また浄化すればいい。精神が持つかは、わからないが。
多少リスクがあろうとも、私にはこの方法しかない。───を救って、私はこの影達と一緒に死ぬ。そうすれば、少なくともしばらくは妖の脅威にさらされることはなくなる。
しかし、未だに人間と魔族達は争っている。また、この神殿にあるような巨大な妖になるまでに、そう時間はかからない。ここの妖を浄化するなんて、それはほんの気休め程度にしかならない。
だけど、それが罪滅ぼしになるのなら。一時的とはいえ、幸せが訪れるのであれば、私は喜んでこの身を捧げよう。
『……それが、貴方を救うことになるのでしょうか』
「……うん」
──嘘だ。結果的に自分が死んで救われるなんて、それは真に救われるとは言わない。だが、もしも結合してしまえば、もう戻れない。
それでも、やらなければならない。できれば、命ある限り他の方法を試したい。だが、それらの方法では時間が足りない。だから、これ以外に方法はない。
誰もが救われるなんてそんな都合のいい話はない。何事にも、犠牲は付き物。それが偶然自分だった、それだけのことだ。
『ならば、私は貴方に従います。それが私の果たすべき使命ですから』
「……ありがとう」
私は刀の剣先を持つ手を前に出す。そして、刀から光が放たれ、物質結合が発動──
「その必要はないよ、神子」
──声が聞こえた。刹那、私の隣から白い誰かが通る。すると、刀の光が消えた。第三者の介入によって、やむを得ず中断したのだろう。
誰なのだろうか。わからない……だが、何処かで会ったことがある。それが何処だったのか、思い出せない。
「アレの片付けは私の役目。神子が代わる必要はないよ」
その声からは温かさを感じた。心優しい、癒されるような温かさを。
その白い人は、私の目の前にあった影をすくい上げる。すると、その影は白く染まりながら浄化されていった。
「……誰?」
率直な質問を投げかける。何故か、聞かなければらないと思った。
「私は白狐。人間達の良性から、この姿を得て蘇った妖狐だよ」
人間達の良性から生まれた存在、そんなものは聞いたことがない。だけど、この温かさから、それは事実なのだろうと思わされる。
「──神子は、生きたいって思う?」
その質問に私は、死ぬべきだと言おうとした。だが、その言葉は喉元で止まる。
「……たい」
本当は死にたくなんてない。死ぬ事が怖い。死ぬ事で罪から逃げられるとも思っていない。まだ、私は生きていたい。
「いき……たい……」
まだ、やりたいことは沢山ある。約束したことも沢山ある。しなくちゃいけないことも沢山ある。
「私は、生きたい……!」
今更死にたくないだなんて我侭なことを言っているのはわかってる。だけど、これが私の本心だ。
「──その言葉が聞けて安心した。だって、死にたい人を無理に生かしたくはないし、まだ神子を必要としてくれてる人はいるからね」
彼女は前へと進む。それを止めなければと、何故か思ってしまった。だが、膝を着きそこから体が動かない。
「私は今、この妖とは対になる存在。私が蘇った理由は、この妖を止める為だった。そして今、それを果たすことができる」
「まっ……」
手を伸ばす。しかしその手は届かず、余計に体勢を崩す。頭がグラグラする。
「神子の魂は、私が何とかする。少し時間がかかるけど、それくらいは許してね仙狐……」
白い彼女が手を広げる。その瞬間に優しい光が彼女の中から溢れ出す。そしてそれは、巨大な妖を包み込んでいく。
「───、」
彼女を呼ぶが、何故か声にならない。私は彼女のそれを止めたい。それはきっと、彼女自身が永遠に縛られるような、自身の運命に枷を付けるようなものだ。
もう誰からも幸せを奪いたくない。私の代わりに彼女が縛られる必要ない。
「──違うよ。これは私の意思で私の本来の役割で、一番良い形の終わり方。この役割に枷だなんて私は感じていない。それに……」
彼女は振り返る。
「色々あったけど、私はこれでも幸せだったよ」
そう、今までに見たことの無いほどの優しい笑顔で言って見せた。嘘偽りのない、心の奥底から。
──私はその言葉に対して、何も言うことができなかった。
そして彼女は再び妖を見上げ、さらに光を放出した。──刹那、地響きと共に神殿が崩れ落ちて行く。
「貴方達も、もう休んで……」
光が強くなる。反射的に目を閉じた途端、今まであった地面の感触が無くなる。目を開けようとすると、突然の浮遊感に襲われた。まるで水の中を漂っているかのようだ。
目を開ける。しかし、そこにあるのは巨大な妖を包み込んだ白い光のみ。そしてその光は大きくなっていき、私を包み込む。
──とても暖かい。
「大丈夫、死にはしないから。ただ、もう妖が出てこないようにするために留まるだけ」
彼女は笑顔で私にそう言い、光の中へ入る。同時に光が大きくなっていき、私はその光に飲み込まれた。
──決して、嫌な気分ではなかった。むしろ、とても落ち着いた。
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