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第二十八話 唯一の手掛かり
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一体、何がどうなっているんじゃ……。
一度死した者が生き返るというのは自然の摂理に反している。命を蘇らせるなんて、もはやそれは神の領域。わしらのような守り神と呼ばれる程度の力しか持たない者にはできない芸当じゃ。
「うっ……」
「白狐!」
何故生きているのかということを考えていると、突然白狐がふらっとし始め膝を着く。よく見れば靴を履いておらず裸足で、かなり歩いたのかかすり傷や泥が大量に付着している。
となれば、白狐のこれはただの疲労じゃろう。じゃが、疲労にしてはやけに苦しそうにも見える。他に何か理由があるのじゃろうか。
わしはとりあえず白狐を近くの木まで連れていき、幹を背もたれにして座らせる。
「……ありがと」
「……もう一度聞いとく、一体どうして生きているんじゃ?」
たった一言の簡単な質問。理由さえわかっていればすぐに答えられるようなものじゃ。
しかし、この質問に対して白狐は顔を下に向ける。
「わからない。気が付いたら川にいて、仙狐の声が聞こえたから走って来たってだけだから……」
「うーむ……」
白狐自身がわからないとなれば本当に真実が不明じゃ。それに、妖が消えた今回のことに関係しているとは思えない。
「……それより、これはどういう状況?」
「人間が攻めてきたんじゃ。外側から結界に穴を開けての」
「だからこんなに人間が……」
「そうじゃ、ここに来る途中で神子……あーいや、わしに似た妖狐を見なかったか?」
「ごめん、見てない」
「……そうか」
ここにもいないともなれば、本当に何処に行ってしまったのじゃ神子……。
「大切な人なの?」
「……うむ」
わしがあの時にもっと周りを見ていれば、こうなることはなかった。神子がいなくなったのは完全にわしのせいじゃ。
「感動の再会、というところかな?」
「っ!?」
「誰じゃ!」
突然聞こえた声の方を向くと、そこには先程の白狐のようにローブを被った何者かがいた。そしてその手には黒い短剣を握っている。
「その黒い短剣……さては、ぬしが妖の味方をしている者じゃな」
「いかにも。流石は仙狐、察しがいい」
その者は木の影から出てき、そのままローブを取る。姿があらわになったその者は、あの時ルフが言った通りの黒い妖狐であった。
正直な話、わしはこの世に生きる妖狐達のほとんどは把握しているつもりじゃ。じゃが、あの者だけは完全に初対面じゃ。
「先程の人間を殺したのはぬしか?」
「そうだ、と言って欲しいのか?」
「……何が目的じゃ」
「そこまで疑うな。一つ朗報だ」
「……場合によってはここでぬしを斬る」
刀の柄に手を置き、いつでも抜刀できるよう準備する。この状況でおかしな行動をするとは思えんが、万が一の為じゃ。
「……神子」
「──!」
「彼女は今、全てを食らう化け物と化した。誰も手を出せない程の」
瞬間、わしは刀を抜き黒い妖狐の首元に突き付ける。少しでも足を踏み込めば首に突き刺さる。それくらいに近い距離で。
「化け物、という言葉を撤回するんじゃ」
「事実だ。彼女は既に生き物としての域を出ている。それを化け物と言わず何と言う?」
「神子は、れっきとした生き物じゃ。わしらと何も変わらない、一人の妖狐じゃ!」
「人間であることをやめさせた本人が言うか」
「ぬしこそ、神子の何を知っとるんじゃ!?」
剣先が喉元に触れ、つーっと黒い妖狐の喉から血が流れてくる。今にもその喉元に刀を突き刺し、殺してやると言わんばかりの殺気をぶつける。じゃが、その殺気に黒い妖狐は何も反応しない。気味の悪いやつじゃ。
「くっ……」
結局、わしは刀を降ろす。こやつを今殺したところで何も変わりはしない。むしろ、やっと見えた神子の情報を手放してしまう。
「結局刀を降ろすか」
「今ぬしをやったとしても無意味じゃ。まあ、神子の元に案内するというのを条件にじゃ」
「脅しか?」
「その短剣を見ればすぐにわかる。ぬしはわしには勝てん」
黒い短剣に黒いローブ。その装備から考えられるのは、影からの不意打ちによる目標の刺殺を得意としているに違いない。そしてそれは同時に、真っ向勝負ではかなり弱いということを意味する。
殺されたくなければ神子の元に案内しろ、なんて脅しは使いたくはなかった。じゃが、事態は時間をかける程に悪化している。迷っている時間なんてないんじゃ。
「フン、いいだろう。たが、公平な取引を望む故、案内した後は自由ということで手を打とう」
「わしだってそこまで鬼畜ではない。その条件くらいは了承する」
「取引成立だ。時間が惜しい、すぐに案内しよう」
黒い妖狐はローブを被り、森の奥深くへと歩いて行く。そして、その跡を仙狐はついて行くが、それを白狐が呼び止める。
「仙狐、本当に信用していいの、あいつ」
「信用なんてしておらん。わしはただ、ほんの少しの可能性に賭けてるだけじゃ。それに、この森にはまだまだ強い奴らがおる。わし一人がいなくなっても問題はなかろう」
「……そう。じゃあ、私も行く」
「なに!?」
わしは白狐の言葉に驚く。こんな、今にも気を失って倒れそうな状態でついて来るなんて自殺行為に等しい。
「私は、なんて言うか、その子に会わないといけない気がする。うまく説明出来ないけど……」
「……わかった。じゃが、無理はするな。わしを頼れ」
「そうさせてもらう」
こんなボロボロなのに、どうしてかわしは了承した。今の白狐は衰弱していて、正直いつ死んでも不思議に思わない。できれば、安全なところでゆっくり休んでいて欲しい。
じゃが、わしは白狐から決意を感じた。何かをやり遂げる、という強い決意を。そんな彼女を前に休んでいろというのは、逆に申し訳ない。白狐の意思を尊重すべきじゃ。
そして、わしは白狐の様子を適度に見ながら黒い妖狐の後について行った。
一度死した者が生き返るというのは自然の摂理に反している。命を蘇らせるなんて、もはやそれは神の領域。わしらのような守り神と呼ばれる程度の力しか持たない者にはできない芸当じゃ。
「うっ……」
「白狐!」
何故生きているのかということを考えていると、突然白狐がふらっとし始め膝を着く。よく見れば靴を履いておらず裸足で、かなり歩いたのかかすり傷や泥が大量に付着している。
となれば、白狐のこれはただの疲労じゃろう。じゃが、疲労にしてはやけに苦しそうにも見える。他に何か理由があるのじゃろうか。
わしはとりあえず白狐を近くの木まで連れていき、幹を背もたれにして座らせる。
「……ありがと」
「……もう一度聞いとく、一体どうして生きているんじゃ?」
たった一言の簡単な質問。理由さえわかっていればすぐに答えられるようなものじゃ。
しかし、この質問に対して白狐は顔を下に向ける。
「わからない。気が付いたら川にいて、仙狐の声が聞こえたから走って来たってだけだから……」
「うーむ……」
白狐自身がわからないとなれば本当に真実が不明じゃ。それに、妖が消えた今回のことに関係しているとは思えない。
「……それより、これはどういう状況?」
「人間が攻めてきたんじゃ。外側から結界に穴を開けての」
「だからこんなに人間が……」
「そうじゃ、ここに来る途中で神子……あーいや、わしに似た妖狐を見なかったか?」
「ごめん、見てない」
「……そうか」
ここにもいないともなれば、本当に何処に行ってしまったのじゃ神子……。
「大切な人なの?」
「……うむ」
わしがあの時にもっと周りを見ていれば、こうなることはなかった。神子がいなくなったのは完全にわしのせいじゃ。
「感動の再会、というところかな?」
「っ!?」
「誰じゃ!」
突然聞こえた声の方を向くと、そこには先程の白狐のようにローブを被った何者かがいた。そしてその手には黒い短剣を握っている。
「その黒い短剣……さては、ぬしが妖の味方をしている者じゃな」
「いかにも。流石は仙狐、察しがいい」
その者は木の影から出てき、そのままローブを取る。姿があらわになったその者は、あの時ルフが言った通りの黒い妖狐であった。
正直な話、わしはこの世に生きる妖狐達のほとんどは把握しているつもりじゃ。じゃが、あの者だけは完全に初対面じゃ。
「先程の人間を殺したのはぬしか?」
「そうだ、と言って欲しいのか?」
「……何が目的じゃ」
「そこまで疑うな。一つ朗報だ」
「……場合によってはここでぬしを斬る」
刀の柄に手を置き、いつでも抜刀できるよう準備する。この状況でおかしな行動をするとは思えんが、万が一の為じゃ。
「……神子」
「──!」
「彼女は今、全てを食らう化け物と化した。誰も手を出せない程の」
瞬間、わしは刀を抜き黒い妖狐の首元に突き付ける。少しでも足を踏み込めば首に突き刺さる。それくらいに近い距離で。
「化け物、という言葉を撤回するんじゃ」
「事実だ。彼女は既に生き物としての域を出ている。それを化け物と言わず何と言う?」
「神子は、れっきとした生き物じゃ。わしらと何も変わらない、一人の妖狐じゃ!」
「人間であることをやめさせた本人が言うか」
「ぬしこそ、神子の何を知っとるんじゃ!?」
剣先が喉元に触れ、つーっと黒い妖狐の喉から血が流れてくる。今にもその喉元に刀を突き刺し、殺してやると言わんばかりの殺気をぶつける。じゃが、その殺気に黒い妖狐は何も反応しない。気味の悪いやつじゃ。
「くっ……」
結局、わしは刀を降ろす。こやつを今殺したところで何も変わりはしない。むしろ、やっと見えた神子の情報を手放してしまう。
「結局刀を降ろすか」
「今ぬしをやったとしても無意味じゃ。まあ、神子の元に案内するというのを条件にじゃ」
「脅しか?」
「その短剣を見ればすぐにわかる。ぬしはわしには勝てん」
黒い短剣に黒いローブ。その装備から考えられるのは、影からの不意打ちによる目標の刺殺を得意としているに違いない。そしてそれは同時に、真っ向勝負ではかなり弱いということを意味する。
殺されたくなければ神子の元に案内しろ、なんて脅しは使いたくはなかった。じゃが、事態は時間をかける程に悪化している。迷っている時間なんてないんじゃ。
「フン、いいだろう。たが、公平な取引を望む故、案内した後は自由ということで手を打とう」
「わしだってそこまで鬼畜ではない。その条件くらいは了承する」
「取引成立だ。時間が惜しい、すぐに案内しよう」
黒い妖狐はローブを被り、森の奥深くへと歩いて行く。そして、その跡を仙狐はついて行くが、それを白狐が呼び止める。
「仙狐、本当に信用していいの、あいつ」
「信用なんてしておらん。わしはただ、ほんの少しの可能性に賭けてるだけじゃ。それに、この森にはまだまだ強い奴らがおる。わし一人がいなくなっても問題はなかろう」
「……そう。じゃあ、私も行く」
「なに!?」
わしは白狐の言葉に驚く。こんな、今にも気を失って倒れそうな状態でついて来るなんて自殺行為に等しい。
「私は、なんて言うか、その子に会わないといけない気がする。うまく説明出来ないけど……」
「……わかった。じゃが、無理はするな。わしを頼れ」
「そうさせてもらう」
こんなボロボロなのに、どうしてかわしは了承した。今の白狐は衰弱していて、正直いつ死んでも不思議に思わない。できれば、安全なところでゆっくり休んでいて欲しい。
じゃが、わしは白狐から決意を感じた。何かをやり遂げる、という強い決意を。そんな彼女を前に休んでいろというのは、逆に申し訳ない。白狐の意思を尊重すべきじゃ。
そして、わしは白狐の様子を適度に見ながら黒い妖狐の後について行った。
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