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第二十話 ちょっとした昔話

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 私は刀を振るった。そして、目の前の妖をぶった斬った。

「ふぅ……」

 目の前にいた妖を倒したことによって緊張が解ける。やはりいつまで経っても戦いは好きにはなれない。
 数日前に行方不明になったレーナさん含め猫族やエルフの人達は未だに見つかっていない。それどころか、日に日に行方不明者が増えている。そう仙狐様は言っていた。

「いつまで一人で戦えばいいんだろ……」

 一昨日から何故か仙狐様は私に妖を任せてどこかに行ってしまった。「このままでは埒が明かない」と言い残して。きっと何か考えがあると思ってはいるが、こうも帰って来ないとなると何かあったのではと思ってしまう。
 最初は私も不安だった妖を倒すことも、三日も経てば少し慣れてしまった。精神的には楽になったが、同時にこのまま何かを倒すことに喜びを得てしまうのではないかと思ってしまう。私にもまだ、アイツらに対しての憎しみは残っているから。

「神子様」
「……ウルさん」
「はい」
「どうして、仙狐様は帰って来ないんですか?」

 この三日間聞いてこなかった仙狐様のことをついにウルに聞く。ウルさんは仙狐様との付き合いが私よりも長い。きっと何か知っているはずだ。

「……少し、昔話をしてもよろしいですか?」

 ウルさんは今まで見せなかったような真剣な表情をして私にそう言った。そこまで重要な話なのだろう。

「別にいいですけど……」
「ありがとうございます」

 そして、ウルさんは心を落ち着けるために深呼吸をした後、その昔話を話し出した。


 ──むかしむかし、あるところに一人の人間がいました。その人間は周りの人間からとても嫌われており、毎日が苦痛でした。
 とある日、その人間は国から逃げ出しました。もう限界だったのです。自分を嫌う生き物がいる場所よりも自分を愛してくれる生き物がいる場所に行きたかったのです。しかしそんなことは国が許しません。その時の国には無断で国を抜け出すことは大罪。女、子供であろうと容赦なく捕まえ蹂躙し、最後は国の中心地で首を跳ね落とす。そんな国だったのです。
 その人間は必死に逃げました。靴が脱げても拾いに行かず、転けてとしてもすぐに立ち上がり、ボロボロになったとしても決して足を止めることはしませんでした。
 しかし、人間には限界があります。ついにその人間は追い付かれてしまい捕らえられてしまいました。国に戻される途中、何度も殴られ爪を剥がされ骨を折られました。その時、その人間には一つの感情が芽生えました。それは『憎しみ』でした。そして国に戻された人間は拷問のような、本当に人がすることなのかを疑うような行為をされました。
 そして処刑当日。その人間が歩かされている街には沢山の人達がいました。そしてその人達はその人間を見てとても笑顔でした。知り合いも、裏切り者も、両親も、全ての人間がとても笑顔でした。悲しんでいる人なんて、一人もいませんでした。
 そして首が跳ねられる直前にその人間は言いました。

「お前ら全員、呪ってやる」

 そして人間は首を跳ねられ、人々に喜びを与えて誰にも救われないまま死に至りました。


 ウルさんが話し終えた時、私はとても心が痛かった。まるで自分のようだ、と思ってしまったが私のなんて比にならないくらいに、その人間は苦しい目にあっている。

「この話は私がまだ幼い頃に仙狐様が聞かせてくれたものです。まだ話には続きがあるようなのですが、そこまでは話してくれませんでした」
「その話って、作り話……ですか?」
「それはわかりません。しかし、仙狐様はいずれ話す時が来るかもしれないと言っていました」

 一体その時がいつなのかはわからない。だが、その昔話と仙狐様の行方とは一体何が関係しているのだろうか。

「そして仙狐様の行方ですが、恐らく『真実の泉』に向かったと思われます」
「真実の泉?」
「ものの真実を透かすこの森のどこかにある泉です。きっとその泉で行方不明者が増える原因を掴みに行ったのでしょう」
「でも、それと昔話ってどう関係があるんですか?」
「……数百年前に今回と似たようなことが起きたんです。そしてその原因が人間だったのです。当時はあの昔話通りの制度の国が多く、同時に妖も多くいました。今よりかは弱いですけど」

 だから昔のように今回も人間なのではと思い、仙狐様は確信を得るために真実の泉へと向かったということのようだ。出て行く前に行っていた「埒が明かない」とはそういう事だったのか。

「でも、わかったとしてもどうやって解決するんですか?」
「妖を地道に倒して行くしかないです。人間から危害を加えて来なければ人間には危害を加えない。この森の皆はそう決めていますから」
「そうですか……」
「まあ、仙狐様は一週間以内には帰って来ると思います。いつもそうでしたから」

 そう聞くと安心した。私にとってこういう事態というのは初めてだから凄く焦ってしまった。でも、帰って来ることがわかると、私も仙狐様が帰ってくるまでに妖を倒しておかないといけない。それが、仙狐様が私を信頼して頼んだことなのだから。

「ウルさん、帰ろ?」
「わかりました。……いい表情です」
「何か言いました?」
「いえ、何も」

 そして私はウルさんの背中に乗って、仙狐様の家に帰って行った。
 私は私なりに頑張る。戦いは嫌いだけど、戦わないとこの森の人達がもっといなくなってしまう。もう孤独は嫌だ。やっとできた守りたい人達を私は守る。


────────────────────────


 わしは刀を振るう。そして目の前にいた妖を斬る。どうしてこんな所にも出没しているのじゃろうか。

「何か異様じゃな……」

 以前わしがここに来た時は自然に囲まれ様々な生き物が生活していたが、今はまるで別の場所なのかと思ってしまうほどに豹変していた。

「ニーナ、アリマ……」

 わしの目の前には先程の妖に殺られたこの森に住まう生き物を見る。この二人だけじゃない。そこら一体に生き物の死体がある。
 この森は昔わしがあの家を持つ前に住んでいた場所。ニーナとアリマとは仲良く遊んでいたような仲じゃった。この二人だけじゃない、その他の生き物達もじゃ。ニーナとマリアは人間達が小動物と呼んでいる生き物。とてもか弱い存在じゃ。だからそこ、もう少しわしが早く来て助けるべきじゃった。

「……恨んではならん。憎しみは己を傷つけるだけじゃ……」

 わしはこの先にある真実の泉に向かって前へと進む。時々妖の邪魔が入るが、わしは素早く妖を倒して先へと急ぐ。
 こんな事態は未だかつて起きたことがなかった。妖の数が増えることは多々あるが、妖が強くなり森の中でも神聖なこの泉に近づくことはなかった。どうしてここまで力を増しているのじゃ……。

「神子……無事でいてくれ……」

 わしはあの辺の妖を任せた神子を心配するが、今はこちらに集中しなければならない。少しでも気を抜いて傷を負えばたちまちボコボコにされてお終いじゃ。

「『大雷電光』!」

 妖に囲まれた時には広範囲に攻撃できる妖術を使い万が一の退路を絶たれることは阻止していた。幸いあの時の妖とは違い全員妖術が効く。こやつら相手にわし一人でも負けることは有り得ない。
 そしてついに泉の前に辿り着いた。しかし、泉の前には泉には近づけさせまいと言わんばかりに人型の妖が一体立ち塞がっていた。見た感じ、先程倒して行った妖よりも強そうじゃ。中々の殺気を感じる。

「『狐火』!」

 まずわしが妖術による先制攻撃を仕掛けると、妖は姿を犬に変えて妖術を回避した。どうやらあの妖に妖術は効くが、様々な姿に変えているところを見ると当てるのは少々苦労しそうじゃ。
 そして犬に姿を変えた妖はそのままわしに接近してき、直前で人型に戻りどこで手に入れたのか銀の剣を振り下ろしてくる。わしはその攻撃を刀で受け流し、そのまま胴体を斬ろうとする。しかし、またも姿を変えられ攻撃を外してしまう。

「厄介な奴じゃな……」

 あまり使いたくはないのじゃが、今回ばかりは仕方があるまい。早く決着をつけないとまだまだ残っている妖がここに来るかもしれない。

「『拘束術式地の型』!」

 わしは腕に拘束術式のお札を貼り付け、そのまま地面に手を付ける。すると、わしが手を付けた場所から稲妻のようなものが走り回る妖に向かって行き命中する。稲妻に命中してしまった妖は、まるでその稲妻によって拘束されるように纏わりつかれる。

火水氷風地雷光かすいひょうふうちらいこう『混合術式七色』!」

 わしは拘束され動けない妖に向かって今わしが出せる最高の妖術を放つ。
 この妖術は火、水、氷、風、地、雷、光の七属性を全て合体させて単体では出せなかった攻撃力と破壊力を生み出し、一直線に放つものだ。まるでその妖術は全てを浄化する虹のようじゃ。まあでも、世に言うびーむとかいうやつに似ておるから、虹とはかけ離れている。
 そしてその妖術をまともに受けた妖はしばらくその場に立ち、しばらくするとすぅーっと姿が消えて行った。

「ハァ……ハァ……やはりきついの……」

 先程の妖術は魔力をかなり消費する。それに加えて拘束術式も使った。真実の泉を見てからは少し休もう。でなければ、帰り際に妖に襲われた時に十分な対応ができない。
 わしは引きずるように足を進めて真実の泉の前に立つ。

「真実の泉よ、この事態が起こってしまった原因を知らぬか」

 わしがそう言うと、真実の泉は薄らとその原因を泉の水面に写し出した。そしてはっきりと写し出された水面を見て、わしは唖然とした。

「嘘……じゃろ……?」

 これを見るまではずっと原因は人間だと思っていた。しかし、原因は人間ではなかった。それどころか、この森の外側ではなく内側の生き物の仕業だった。

「嘘じゃ……どうして、また、こんな……!」

 膝をついて涙を流した。これは悲しみの涙ではなく悔し涙だ。前にも同じようなことが起きた。一度起きていたからこそ学んだはずなのに、結局は何も学んではいない。早く気がついていれば、事態を収めることは簡単だった。
 じゃが、もう簡単には収まらないところにまで来てしまった。何故ならば、泉の水面に写し出されたのが……、

「……神子」

 一昨日までわしのすぐ側にいた、結城神子だったからじゃ。現実を受け入れられないまま、わしは酷く絶望した。
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