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第十六話 楽しい夢
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妖を倒した翌日。私は日頃動かさない体を無理に動かしすぎたのか、朝から体調を崩していた。
「あたまいたい……」
「我慢せい。そのうち薬が効いてきおるわ」
朝からまるで体が動かない。もしも仙狐様が態々薬を買いに行ってくれなければこうやって話すことさえままならなかっただろう。ここまで酷い体調不良は初めてだ。
熱はある。とても高熱だ。咳は出ない。このことから熱風邪かと思ったが、仙狐様曰くそうでは無いらしい。ただ魔力を慣れないうちに大きく使ったのと疲労が限界とのことだった。
「まあ、今日はゆっくりしておくといい。わしは少し用事があるから外出するんじゃが大丈夫か?」
「はい……心配は無用です。……こういう時は寝るのが一番ですからね。今日は一日中寝ておきます」
布団に寝転がりながらふと思う。私のこれまでの人生は、休日なんて関係なしに勉強を強要され、この世界に来てからも限界ギリギリまで体を動かさざるを得ない状況だった。だから、こうやって一日中寝ていられる日なんて今までになかった。
しかし、まだ心の中は休めていない。ずっと、世界という名の苦痛が私の中を喰らっている。
「それじゃあ行ってくるぞ。出来るだけ早く戻れるようにはするから、まあ気長に待っといとくれ」
「はい……」
仙狐様は笑顔でそう言った後に少しある荷物を持って玄関から外に出て行った。
「……何しよう」
先程も言った通り、私にはこんな一日中寝ていられる日なんてなかった。それ故にこれから何をすればいいかがわからない。というかそもそも考えたこと自体がない。
このまま大人しく寝るのがいいのか、それとも昨日洗濯した衣服を干すなど家事をした方がいいのか。
「……ふぁ~」
何をするかと考えているとあくびが出てきた。体が睡眠を求めている。
そういえば、昨日の夜からこんな感じだ。ウルさんに乗っている時もあくびと共に睡魔が襲ってきた。まだ昨日の疲れが取れていないのだろうか。そうならば、やはり今日は寝た方がいい。
「明日には……よくなって……」
体を横に倒して布団を被り、襲い来る睡魔に身を委ねて目を閉じる。それからそう時間も経たないうちに私の意識はなくなった。
──森の中。私はひたすら歩いている。
さっきまで仙狐様の家にいたはずだ。ということは、これは紛れもない夢。夢を見るということは十分な睡眠状態に入っていないということだ。早く終わらないだろうか。
『ぁ……ぃゃ……』
「ん……?」
どこかから声が聞こえる。とても楽しんでいるようには聞こえないが、苦しんでいるようにも聞こえない。
声の正体と出している意味が気になった私は声の聞こえた方向に歩く。
『きゃははは』
『こっちこっちー!』
声の方に歩くと幼い声が聞こえた。とても楽しそうに遊んでいるのだろう。
──羨ましい。
『今日は■■■■よー』
『ありがとう! 大好き!』
『そう?』
度々聞こえるこの声はどれも楽しそうで平和だ。そう、とても幸せそうだ。
──羨ましい。
「ほら、お姉ちゃんも来て!」
「………」
「おーい」
「え、あ、私?」
「そう。ほら、早く早く!」
突然現れた女の子に手を掴まれて歩かされる。女の子の目は前髪で隠れているのでよく見えない。隠れているからこそ気になってしまう。
あの子の目は、どんな目なのだろうかと。
「みんなー! 連れて来たよー!」
「あーおかえりー! 僕達も作り終えたよ!」
女の子に連れて行かれた先にあったのは、女の子の友達であろう子供達が沢山の料理を作っている所だった。まるでおとぎ話のような光景だ。いや、夢なのだからこれくらいは当たり前だ。
それにしても、子供達は皆仲がいいのかハグまでしている。とても愛おしくなる。
「ほら、お姉ちゃんも! ギューッ!」
「……えっと、ぎゅー?」
子供の一人が私にハグを求めてきたので私はそれに応じる。きっとこれがこの子達にとっての挨拶なのだろう。
「フフ、これで友達!」
「とも……だち……?」
「そう! それじゃあ一緒にご馳走を食べよ?」
「いいの?」
「もちろん! 友達だもん!」
そうか、友達。なる度なる度裏切られてきた最悪の言葉だけど、今だけは心が落ち着く。この落ち着きは恐らく、自分を思ってくれている人がこんなにもいるということに嬉しさを感じているからだ。
いつものような悪夢ではなく、ここまでいい夢を見たのもまた久しい。
私は女の子に連れられるまま、ご馳走が乗せられている机の前の椅子に座らせられる。とても香ばしい匂いが漂ってくる。
「美味しそう……」
机に乗っているのは焼かれた七面鳥のような肉に新鮮な果実など。全ていえばきりがないが、どれも美味しそうだ。
「いただきまーす」
がりっと肉にかじりつく。とても歯ごたえがあり味もしっかりしている。少し苦味があるが、それを除けば私の食べた肉の中で一番美味しい。
「あっ……」
机の向こう側にもっと美味しそうな果実がある。あれも食べてみたい。でも、少し遠いな。
「んんー……」
精一杯手を伸ばすがやっぱり届かない。椅子から立って手を伸ばそうとするが、そうする前に突然果実がこっちに近づいていてきた。
「こんにちは!」
「わっ!?」
突然果実に絵に描かれたような目と口が現れた。そうだ、夢なんだからこれくらいは普通に起こる。それに、これはこれで面白い。何も知らなかった子供の頃を思い出す。
「ほら、僕を食べたかったんでしょ?」
「でも、大丈夫?」
「僕はおやつ! 食べた生き物の美味しいっていう気持ちが好物なんだ!」
「……それじゃあ」
私は食べられることを望んでいる果実を口に運ぶ。そして歯でかじると「あはは」という不気味な笑い声を最後に声は聞こえなくなり、目もなくなった。
肝心の味は、とても美味しかった。今までで食べたことの無いくらいに美味しかった。きっとジュースにしても美味しくなる。
「そうだ。夢なんだから、出そうと思えば出せるよね」
ここは夢の中。どんなことだってできるし、どんなものだって想像すれば現れる。例えば……、
「さっきの果実をジュースに……」
私がどんなものなのかを想像すると、想像通りのカップに入ったジュースが出てくる。出てきたジュースは私の想像通りでとてもいい匂いがする。飲めばそれも想像通りの味だ。
「何それ? 私にもちょうだい!」
「あー、僕にも!」
「はいはい、わかったわかった」
自然と笑みが出る。夢だからこそ、自分にとって幸せなことが起きて不幸なことは起きない。自分が好きなことが起きて嫌なことは起こらない。
──それなら、今見ているのは私の理想?
よく見れば、周りにいる子供達は人間ではない。人形だったりエルフだったり同じ妖狐もいる。まるでおとぎ話のようなメルヘン世界に入ったみたいだ。
「美味しい!」
「この料理と合うね」
「ホントだ!」
子供達が笑顔でジュースを飲む。何故だろう、私まで嬉しくなってくる。初めてだ、こんな心温まる気持ちになったのは。
「そうだ。次はソースを出そう!」
いつもとは違う明るさが出てきたところで、先程かじった肉に合うソースを出そうと想像する。すると先程のジュースと同様にポンっと机の上に現れる。そしてそのソースに肉をぐりっと押し付けるように漬けて口へと運ぶ。
「……美味しい」
口元に付いたソースを舌で舐め取りながら肉をゴクリと飲み込む。まだまだ食べられる。だって、夢なのだから。
それから私はご馳走を皆と一緒に全て食べきり、そこから色々な話をした。
今までのこと、人間だった時のこと、仙狐様のこと、少しだけレーナさんのこと、市場のこと。たまに愚痴を挟んでしまったが、そんなことは誰も気にしていなかった。なんていい子達なんだろう。
まるで日常系のアニメのような都合のいいくらいに優しい子達。この一緒にいたいという気持ちは、所詮夢の中で生まれた偽物の気持ちでしかないのだろうか。
「そう言えば、昨日の夜も悪夢を見なかったなぁー」
ずっと気になっていたことだ。一昨日まではずっと悪夢を見ていたのに、昨日からそれがぱったり止んだ。
きっと、仙狐様と過ごしているうちに心に余裕が出来てきたのだろう。それ以外考えられない。
「ふぁ~……」
あくびが出てきた。夢の中だと言うのにあくびをするなんて中々に珍しい。もしかして、もう目覚める時間なのだろうか。
「お姉ちゃん眠たいの?」
「あ、うん。ごめんね」
「うんん。そろそろ私達もお昼寝の時間だから、一緒にお昼寝しよ?」
「……そうだね」
私は子供達と一緒に木に背中を預けて座り、隣に寝転がる子供達を抱き寄せる。一度でいいから、こうやって友達と一緒に寝てみたかった。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
私が眠るよりも早くに子供達がすぅーすぅーという寝息を立てて眠り始める。その姿は愛くるしく、とても可愛らしい。
自然な笑みを零すと私も目を閉じて眠りについた。
──とても楽しい夢だった。
────────────────────────
時間は午後三時。私はゆっくりと目を覚ました。
「………」
とてもいい夢を見ていた気がする。私の黒い心が安らぐくらいのいい夢を。
「あれ?」
目が覚めて体を起こすときに、自分の体がやけに軽いことに気がついた。それだけじゃない。寝る前にあったダルさが綺麗さっぱりなくなっている。
私は布団を出て立ち上がり、自分の体を確認してみる。
「……そりゃまあ、変わらないよね」
体に変化はない。ということは、この回復は私自身の治癒力がもたらした結果ということだ。意外と私はこういう体調不良には強いようだ。
──喜びたくない事実だ。
「……変な味がする」
覚醒したことで脳の動きが活発になってくると、口の中から変な味がし始める。恐らく唾液の臭いだろうから、私は洗面所に向かい水で口をゆすいだ。
「体調も回復したことだし、昨日干した洗濯物を取り入れて今朝のを干しておこう」
私は洗面所に置かれている今朝の洗濯物をまとめて持ち、そのまま玄関に向かって歩いて行く。
何故だろう、今はとても気分がいい。いつもとは違っていい夢を見たからだろうか。それならば、今後もいい夢を見れるといいな。
「そう言えば、お昼過ぎてる割にはお腹が空かないなぁー……」
これも夢の影響だろうか。どうもお腹が膨れたような感じがして食欲が湧かない。
「ま、いいか。別に夜までには空くと思うし」
そんなことは別に気にすることではないと判断し、私は玄関の扉を開けて外に出た。
「あたまいたい……」
「我慢せい。そのうち薬が効いてきおるわ」
朝からまるで体が動かない。もしも仙狐様が態々薬を買いに行ってくれなければこうやって話すことさえままならなかっただろう。ここまで酷い体調不良は初めてだ。
熱はある。とても高熱だ。咳は出ない。このことから熱風邪かと思ったが、仙狐様曰くそうでは無いらしい。ただ魔力を慣れないうちに大きく使ったのと疲労が限界とのことだった。
「まあ、今日はゆっくりしておくといい。わしは少し用事があるから外出するんじゃが大丈夫か?」
「はい……心配は無用です。……こういう時は寝るのが一番ですからね。今日は一日中寝ておきます」
布団に寝転がりながらふと思う。私のこれまでの人生は、休日なんて関係なしに勉強を強要され、この世界に来てからも限界ギリギリまで体を動かさざるを得ない状況だった。だから、こうやって一日中寝ていられる日なんて今までになかった。
しかし、まだ心の中は休めていない。ずっと、世界という名の苦痛が私の中を喰らっている。
「それじゃあ行ってくるぞ。出来るだけ早く戻れるようにはするから、まあ気長に待っといとくれ」
「はい……」
仙狐様は笑顔でそう言った後に少しある荷物を持って玄関から外に出て行った。
「……何しよう」
先程も言った通り、私にはこんな一日中寝ていられる日なんてなかった。それ故にこれから何をすればいいかがわからない。というかそもそも考えたこと自体がない。
このまま大人しく寝るのがいいのか、それとも昨日洗濯した衣服を干すなど家事をした方がいいのか。
「……ふぁ~」
何をするかと考えているとあくびが出てきた。体が睡眠を求めている。
そういえば、昨日の夜からこんな感じだ。ウルさんに乗っている時もあくびと共に睡魔が襲ってきた。まだ昨日の疲れが取れていないのだろうか。そうならば、やはり今日は寝た方がいい。
「明日には……よくなって……」
体を横に倒して布団を被り、襲い来る睡魔に身を委ねて目を閉じる。それからそう時間も経たないうちに私の意識はなくなった。
──森の中。私はひたすら歩いている。
さっきまで仙狐様の家にいたはずだ。ということは、これは紛れもない夢。夢を見るということは十分な睡眠状態に入っていないということだ。早く終わらないだろうか。
『ぁ……ぃゃ……』
「ん……?」
どこかから声が聞こえる。とても楽しんでいるようには聞こえないが、苦しんでいるようにも聞こえない。
声の正体と出している意味が気になった私は声の聞こえた方向に歩く。
『きゃははは』
『こっちこっちー!』
声の方に歩くと幼い声が聞こえた。とても楽しそうに遊んでいるのだろう。
──羨ましい。
『今日は■■■■よー』
『ありがとう! 大好き!』
『そう?』
度々聞こえるこの声はどれも楽しそうで平和だ。そう、とても幸せそうだ。
──羨ましい。
「ほら、お姉ちゃんも来て!」
「………」
「おーい」
「え、あ、私?」
「そう。ほら、早く早く!」
突然現れた女の子に手を掴まれて歩かされる。女の子の目は前髪で隠れているのでよく見えない。隠れているからこそ気になってしまう。
あの子の目は、どんな目なのだろうかと。
「みんなー! 連れて来たよー!」
「あーおかえりー! 僕達も作り終えたよ!」
女の子に連れて行かれた先にあったのは、女の子の友達であろう子供達が沢山の料理を作っている所だった。まるでおとぎ話のような光景だ。いや、夢なのだからこれくらいは当たり前だ。
それにしても、子供達は皆仲がいいのかハグまでしている。とても愛おしくなる。
「ほら、お姉ちゃんも! ギューッ!」
「……えっと、ぎゅー?」
子供の一人が私にハグを求めてきたので私はそれに応じる。きっとこれがこの子達にとっての挨拶なのだろう。
「フフ、これで友達!」
「とも……だち……?」
「そう! それじゃあ一緒にご馳走を食べよ?」
「いいの?」
「もちろん! 友達だもん!」
そうか、友達。なる度なる度裏切られてきた最悪の言葉だけど、今だけは心が落ち着く。この落ち着きは恐らく、自分を思ってくれている人がこんなにもいるということに嬉しさを感じているからだ。
いつものような悪夢ではなく、ここまでいい夢を見たのもまた久しい。
私は女の子に連れられるまま、ご馳走が乗せられている机の前の椅子に座らせられる。とても香ばしい匂いが漂ってくる。
「美味しそう……」
机に乗っているのは焼かれた七面鳥のような肉に新鮮な果実など。全ていえばきりがないが、どれも美味しそうだ。
「いただきまーす」
がりっと肉にかじりつく。とても歯ごたえがあり味もしっかりしている。少し苦味があるが、それを除けば私の食べた肉の中で一番美味しい。
「あっ……」
机の向こう側にもっと美味しそうな果実がある。あれも食べてみたい。でも、少し遠いな。
「んんー……」
精一杯手を伸ばすがやっぱり届かない。椅子から立って手を伸ばそうとするが、そうする前に突然果実がこっちに近づいていてきた。
「こんにちは!」
「わっ!?」
突然果実に絵に描かれたような目と口が現れた。そうだ、夢なんだからこれくらいは普通に起こる。それに、これはこれで面白い。何も知らなかった子供の頃を思い出す。
「ほら、僕を食べたかったんでしょ?」
「でも、大丈夫?」
「僕はおやつ! 食べた生き物の美味しいっていう気持ちが好物なんだ!」
「……それじゃあ」
私は食べられることを望んでいる果実を口に運ぶ。そして歯でかじると「あはは」という不気味な笑い声を最後に声は聞こえなくなり、目もなくなった。
肝心の味は、とても美味しかった。今までで食べたことの無いくらいに美味しかった。きっとジュースにしても美味しくなる。
「そうだ。夢なんだから、出そうと思えば出せるよね」
ここは夢の中。どんなことだってできるし、どんなものだって想像すれば現れる。例えば……、
「さっきの果実をジュースに……」
私がどんなものなのかを想像すると、想像通りのカップに入ったジュースが出てくる。出てきたジュースは私の想像通りでとてもいい匂いがする。飲めばそれも想像通りの味だ。
「何それ? 私にもちょうだい!」
「あー、僕にも!」
「はいはい、わかったわかった」
自然と笑みが出る。夢だからこそ、自分にとって幸せなことが起きて不幸なことは起きない。自分が好きなことが起きて嫌なことは起こらない。
──それなら、今見ているのは私の理想?
よく見れば、周りにいる子供達は人間ではない。人形だったりエルフだったり同じ妖狐もいる。まるでおとぎ話のようなメルヘン世界に入ったみたいだ。
「美味しい!」
「この料理と合うね」
「ホントだ!」
子供達が笑顔でジュースを飲む。何故だろう、私まで嬉しくなってくる。初めてだ、こんな心温まる気持ちになったのは。
「そうだ。次はソースを出そう!」
いつもとは違う明るさが出てきたところで、先程かじった肉に合うソースを出そうと想像する。すると先程のジュースと同様にポンっと机の上に現れる。そしてそのソースに肉をぐりっと押し付けるように漬けて口へと運ぶ。
「……美味しい」
口元に付いたソースを舌で舐め取りながら肉をゴクリと飲み込む。まだまだ食べられる。だって、夢なのだから。
それから私はご馳走を皆と一緒に全て食べきり、そこから色々な話をした。
今までのこと、人間だった時のこと、仙狐様のこと、少しだけレーナさんのこと、市場のこと。たまに愚痴を挟んでしまったが、そんなことは誰も気にしていなかった。なんていい子達なんだろう。
まるで日常系のアニメのような都合のいいくらいに優しい子達。この一緒にいたいという気持ちは、所詮夢の中で生まれた偽物の気持ちでしかないのだろうか。
「そう言えば、昨日の夜も悪夢を見なかったなぁー」
ずっと気になっていたことだ。一昨日まではずっと悪夢を見ていたのに、昨日からそれがぱったり止んだ。
きっと、仙狐様と過ごしているうちに心に余裕が出来てきたのだろう。それ以外考えられない。
「ふぁ~……」
あくびが出てきた。夢の中だと言うのにあくびをするなんて中々に珍しい。もしかして、もう目覚める時間なのだろうか。
「お姉ちゃん眠たいの?」
「あ、うん。ごめんね」
「うんん。そろそろ私達もお昼寝の時間だから、一緒にお昼寝しよ?」
「……そうだね」
私は子供達と一緒に木に背中を預けて座り、隣に寝転がる子供達を抱き寄せる。一度でいいから、こうやって友達と一緒に寝てみたかった。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
私が眠るよりも早くに子供達がすぅーすぅーという寝息を立てて眠り始める。その姿は愛くるしく、とても可愛らしい。
自然な笑みを零すと私も目を閉じて眠りについた。
──とても楽しい夢だった。
────────────────────────
時間は午後三時。私はゆっくりと目を覚ました。
「………」
とてもいい夢を見ていた気がする。私の黒い心が安らぐくらいのいい夢を。
「あれ?」
目が覚めて体を起こすときに、自分の体がやけに軽いことに気がついた。それだけじゃない。寝る前にあったダルさが綺麗さっぱりなくなっている。
私は布団を出て立ち上がり、自分の体を確認してみる。
「……そりゃまあ、変わらないよね」
体に変化はない。ということは、この回復は私自身の治癒力がもたらした結果ということだ。意外と私はこういう体調不良には強いようだ。
──喜びたくない事実だ。
「……変な味がする」
覚醒したことで脳の動きが活発になってくると、口の中から変な味がし始める。恐らく唾液の臭いだろうから、私は洗面所に向かい水で口をゆすいだ。
「体調も回復したことだし、昨日干した洗濯物を取り入れて今朝のを干しておこう」
私は洗面所に置かれている今朝の洗濯物をまとめて持ち、そのまま玄関に向かって歩いて行く。
何故だろう、今はとても気分がいい。いつもとは違っていい夢を見たからだろうか。それならば、今後もいい夢を見れるといいな。
「そう言えば、お昼過ぎてる割にはお腹が空かないなぁー……」
これも夢の影響だろうか。どうもお腹が膨れたような感じがして食欲が湧かない。
「ま、いいか。別に夜までには空くと思うし」
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