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第58話 変化する街並み

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 レジェンドドラゴンに乗ったアスカはそのまま森の上空を飛び、同時に周りの景色を見ていた。
 この森はほぼ無限に続いている。何故ならば、この森自体が別空間にあるからだ。アスカが元いた世界を『人界』と称するならば、この空間は『魔界』と言ったところだろう。
 こちら側に入る術は両世界に存在するが、知るのはほんの一部の人間。それ以外ではそんな別世界があるとすら思わない。

「そろそろかな……」

 ある程度進んだところで、アスカは何かの紋章が刻まれた首飾りを取り出し、それを前に突き出した。すると突然その首飾りが光を放ち、その瞬間に数メートル先にが出現した。門と言っても、空間をねじ曲げたようなただの入口だ。想像しているであろう門とは形そのものが違う。
 アスカとレジェンドドラゴンはその門を通った。そして門から出てくると、そこはアスカにとっては約半年ぶりの人界であった。
 出てきたのは人界のとある森の上空。その森の中には遺跡や荒廃した町などがあった。その中には、一年前に燃やされたあの村も。

「……うっ」

 ──大丈夫か?

「……大丈夫。けど、やっぱり辛い」

 アスカにとって全てが変わった場所。最初は突然この世界に転移されてただ生きることを目的としていた。他人なんてどうでもいいと、そう思っていた。しかしこの世界で出会った人々と交流をしていく中で徐々に人を信じるようになっていた。大切な人達になった。
 そしてあの時、アスカにとって一番思い入れが深い村の住民達が殺された。自分という、ただ一人の人間のせいで。
 恐らく、村を襲い住民達を殺した集団はまだこの世界にはわんさといる。それはもう、殺しても殺しても湧いて出てくる虫のように。

「とりあえず、あのギルドとは反対に向かって」

 アスカは自分を乗せるレジェンドドラゴンにお願いする。反対側に行く理由としては、やはりギルドに戻りたくないという意思があるからだ。ギルドの規約を破り、一年間も姿をくらましたところに戻るなんて、そんな堂々とした事は出来ない。

 ──反対側なんて何がある。ギルドにとっては未知も同然。貴様自身も行ったところで何になる?

「わからない。でも、だから行く」

 未知のところに行くのはそれなりに危険でもある。しかし、アスカは自分の決めた目標を破るつもりはない。
 未知なるは場所には未知なる魔獣がいる。『この世界の全種類の魔獣を討伐する』という目標を達成するには未知なる大地に足を踏み入れなければならない。それに、アスカはあの事件が起こらなくてもいずれはこう判断するつもりであった。

「それじゃあレジェ、おねが」

 ──待て。

 アスカがレジェンドドラゴンにお願いしようとしたところに邪悪なる竜は静止の声をかける。

「どうした?」

 ──未知の大地に行くのなら勝手にしろ。しかし、いくらなんでも物資が足りない。

 そう言われてアスカは自分の持つ少し大きめのポーチを開ける。中にはほんの少しの食料と一年前に貯めていたお金だけが入っている。ちなみに食料については食べたら絶対にお腹を壊すだろう。なんせ一番新しいものでも半年前に採った果実だ。ハエも集っていてとても臭い。
 このポーチの現状を見れば、今から未知の大地へと向かっても餓死する可能性が高い。ここは言う通りに物資をいくつか調達するしかない。そしてその調達する場所が……、

「セヴィオルナしかないか……」

 アスカの知る中では、この辺りで一番物資を満足に補充できるのはギルド本部があるセヴィオルナだけだ。あまり近づきたくはない街ではあるのだが、この先のことを考えると行かざるを得ない。

「仕方ないか。ごめんレジェ、向こうの大きな町に向かって」

「グルゥ」

 いいってことだと言ったようにレジェンドドラゴンは返事をする。そしてレジェンドドラゴンはそのままセヴィオルナがあるケントロの町へと飛んで行った。
 それから間もなくケントロの町がやっと見えるくらいの距離に到着する。レジェンドドラゴンはこのままセヴィオルナへと向かおうとするが、その行動をアスカが静止し、そのまま降ろすようにお願いする。
 何故このまま向かわないのかと疑問に思うレジェンドドラゴンだが、とにかくアスカに何か考えがあるのだろうと言う通りに高度を下げていく。

「ここで待ってて」

 いつも通っていた平原とは真逆の方向にある森にレジェンドドラゴンを降ろし待機するように言う。

「…………」

「ごめんね。流石に近づきすぎると目立っちゃうから。町の上に突然ドラゴンが飛んでいるなんてことになったら物資の補充どころの話じゃなくなるから」

 レジェンドドラゴンを撫でながら理由を説明する。するとその理由を理解したレジェンドドラゴンはゆっくりと姿勢を低くしてそのまま座り込んだ。

「ありがとう」

 理解してくれたレジェンドドラゴンにアスカは感謝する。そしてアスカは町へと体を向けて歩き始めた。


***


 ケントロ町に着くとそのまま持っていたローブを着て中へと入った。アスカが今持っているのは全財産が入った巾着袋のみ。あのポーチと中にあった腐った食べ物などは全て捨ててきた。その際にはちゃんと燃やしたので自然を自分以外の誰からも絶対に守るマンの人以外からは何も言われないはずだ。

「どうだい旅の方、リルスにしかない果物だよ!」

「どうだ、採れたて新鮮の魚だ!」

「い、いえ、結構です……」

 アスカが入った入口からはセヴィオルナの真反対にあるリルスの町。そこはいつものように色々なものが売っており賑わっていた。しかし、リルスの町に売っているのは全て果実や魚介類などの生物で腐りやすいものばかりだ。

 ──全て保存するには悪いものばかりではないか。

「生物とかが流通してる街だからね。ケントロ内にある街は流通してるものが色々と別れてるから」

 ──では、腐りにくい食料はギルドのある貴様が向かっている街にあるのか。

「そういうこと」

 ケントロの町は10個の街から構成されている。その分街で売っているものが違ったりする。例えばこのリルスなら生物などの食材を中心に。セヴィオルナは長旅に必要な保存食や武器、防具などを売っている。
 そしてアスカはリルスをまっすぐ進み、全ての街へと入れるケントロの町の中心、通称『セントラルロード』に入る。

「……変わったなぁ」

 アスカは幾度だけこの場所に来たことがある。その時はまだ『中心』としての場所でしかなかったが、今では建物も建ち人々の数も多くなりアスカの知るセントラルロードとは似て違うものになっていた。それもう、ここもまた1つの街のようだった。
 アスカはそんなことを考えながらセントラルロードからセヴィオルナへと入り、そのままギルドの前辺りまで歩いて行く。アスカ自身あまり近づきたくはないが、求めるものを売っているのはギルド周辺にある店だ。

「あったあった」

 店の名前は『旅のお供に』と変わった名前だ。店の中に入ると、その名前通りに旅のお供に持って行くキャンプ用品などが多く売っていた。
 ここで買う物は保存食だけだ。それ以外で必要なものは暗くなった時のためのライトくらいだ。

「すみません、これとそこの棒状の明かりを1つ買います」

「おう、銀貨1枚だ」

 アスカは自分の持っていた金貨を1枚渡す。そしてお釣りに店主から1枚の銀貨を返される。
 金貨は1枚で千円。そして銀貨は恐らくは500円と同じ扱いだろう。アスカ自身まだこの世界の小さい額の貨幣をイマイチ理解していない。一体どれか100円なのか50円なのかは未だにわかっていない。
 支払いを終えたアスカは店を出て、そのまま街の外へ向かって歩き始める。しかし、途中見つけた店にてその足を止めた。その店の名前は……、

「『ガンショップ』って……」

 その店の看板にはそう書かれていた。こんな店は1年前にはなかった。もしもこれがアスカの想像するものならば、この1年の間に銃についても技術的にかなり進歩しているということになる。いや、1年もあればそれくらいのことが起きても何もおかしくはない。
 アスカは出口に向かっていた足をその店に向けてそのまま中に入った。店の中にはよく海外のアクション映画で見るような並び方で銃が大量にあった。

「一体どこでこれだけの数を……」

 中にある銃を見ながら店の中を歩く。どれも元いた世界に存在しているのと同じ銃で、カスタムパーツも同様。銃弾については魔力で生成するため販売はしていない。恐らく、この世界では『銃とは魔力の弾を撃つ武器』として存在しているようだ。

「む、珍しいな客なんて」

 銃を見ていると、突然誰もいなかったはずのカウンターから男の人がニョキっと出てきた。欠伸をしている限り、恐らく床に寝転がって眠っていたのだろう。
 そして、アスカは今までならこんなことにも驚いていたのにこの瞬間は驚かなかった自分に対し、少し成長を感じていた。

「あ、どうも。ここは銃を売っている店でいいんですよね?」

「ああ、間違いない。ここは俺が今までに集めた発掘武器だ。そのうちの銃だけを専門的に販売している」

「剣とかは売らないんですか?」

「剣なんてそこらの店で売ってるだろ。同じような商売したって無駄だ」

 男は椅子に座りカウンターの上に足を乗せる。なんて行儀の悪い男なんだとアスカは思ったが、同時にただの商人では無いとそんな雰囲気を感じていた。

「それで、何の用だ? 依頼か何かか?」

「依頼? いえ、まあ、珍しい店だなと少し立ち寄っただけです」

「そうか、なら客ってわけだ。何をお求めだいお嬢さん?」

 男は座っていた椅子から立ち上がり、そのままアスカの方へと歩いて行く。

「銃は初めてか?」

「い、いえ。何回かは……」

 自分がスナイパーライフルをメイン武器としていることを隠して会話を進める。これは正体を隠すためだ。1年が経過したとしてもこういった銃を専門的に販売している店はできても客がいない。それはつまり、やはり剣などの近接武器をメインで戦う人が多いということだ。
 そんな中で「スナイパーライフルを使ってます」なんて言えば自分のことを連想してしまうかもしれない。そうアスカは考えている。

「そうか。なら、銃はハンドガンかサブマシンガンがいいな。ちなみに聞くが、その数回使った銃は何だ?」

「えっと、ハンドガン……です」

「なるほど。これなんてどうだ?」

 男は並べられているハンドガンの中から1つだけを掴み、それをアスカに手渡してくる。そのハンドガンをアスカは受け取ると、試しにグリップを握り構えてみる。

「そいつはソーコムMk23。作動方式はダブルアクション、ティルトバレル式ショートリコイル。変な改造なしにサプレッサーの装着が可能で銃口の下にあるレールには可視レーザー、赤外線レーザー、フラッシュライトなどが付けられる。少々重いが2重のリコイルスプリングのお陰で反動は軽減されている。命中精度も他のハンドガンに比べて高い方だ」

 ソーコムMk23は日本では『ソーコムピストル』と呼ばれているハンドガンだ。そして、レンが持つUSPを元にカスタムしたものである。
 この男の話だけを聞けばとても便利なハンドガンだと思うだろうが、アスカは微妙な表情をした後に構えるのをやめて男に突き返した。

「何だ、ご不満か?」

「少しサイズが大きいです。私の手の大きさで持つといくら反動が抑えられてるからって言われても間違いなく吹っ飛びます」

 そう、ソーコムピストルとは他のハンドガンに比べて一周りサイズが大きいのだ。その大きさはかの有名なマグナム銃──デザートイーグルに匹敵する。サプレッサーを付けるとそれはもうサブマシンガンかって程の大きさになる。
 それに加えてほかのハンドガンよりも重い。そこにフラッシュライトなどを付ければそれはもう構えるだけでも精一杯なほどの重さになってしまう。発砲以前の問題だ。
 もしもアスカがスナイパーライフルの経験と反動軽減スキルの代わりにハンドガンの経験と反動軽減スキルがあれば扱えないこともないが、残念なことにアスカはそんなものを持っていない。そのため、扱えるハンドガンの種類にはいくつか制限がかかる。今回のようなMk23みたいな大型銃ではダメだ。

「ならこれなんてどうだ」

「これは?」

「バレッタ92だ。作動方式はダブルアクション、プロップアップ式ショートリコイル。性能の良さはMk23よりかは劣るが重さは遥かに軽くなっている。扱いやすさはピカイチだと思うが……」

 バレッタ92はアスカのいた世界では法執行機関や軍隊で幅広く使われている銃だ。M9と言う名称でも呼ばれている。
 バレッタ92の装填数は15発。使用銃弾は9×19mmパラベラム弾。重量はおよそ950グラムとハンドガンにしては軽め。先程のMk23の重さがおよそ1210グラムなので重さの違いは実際に持てばすぐにわかる。それに加え、Mk23の銃身長が149mmなのに比べてバレッタ92の銃身長は125mmなのでアスカの手にも充分収まっていた。

「そいつならどうだ?」

「………」

 アスカはベレッタ92を普通に構えてみたり、ワンステップを挟んで構えたりと様々な状況に対しての構え方をする。そして手に握られたベレッタ92を見た後に微笑む。

「いい銃。これ貰います」

「決まったようで何よりだ。さて、そいつの値段は大金貨1枚だ。値引きはしてやりたい所だが、あいにく客が少なくてな。こういう所できっちり貰わないと生きていけないわけだ」

「そう言わずとも払いますよ。物を無料で貰うなんてことはするつもりないですから」

 そしてアスカは持って来ていた巾着袋を開けてその中から大金貨を1枚取り出し、男の手に置く。大金貨を受け取ると、男は「少し待ってな」と言った後に店の奥へ入って行った。
 それからほんの30秒くらいが経過し後、男は何かを手に持って店の奥から出てきた。そしてその手に持つ物をアスカに手渡した。その手渡した物とは、バレッタ92のマガジンであった。

「元々1本中に入ってるが、もう1つやる。所謂予備ってやつだ」

「予備……確かに必要ですね。それじゃあありがたく貰っておきます」

 予備のマガジンをしまい込み、店の出入口に向かった。出入口の扉を開けると男が「そうだそうだ」と何かを付け足すようにアスカに話しかけた。

「銃がぶっ壊れたら持ってこい。金はとるが直してやる」

 それに対してアスカは少し顔を俯かせた後に口を開いた。

「……また機外があったら寄ります」

 そしてアスカは店の外に出て行った。
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