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第26話 悪夢
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「……ここは、どこだ?」
ふと気がつくと、アスカは辺り一面が暗闇の場所にいた。自分の姿を確認することができないくらいに暗い。
「……夜にしては、少し暗過ぎないか?」
馬車の荷台で寝る前に明かりを消したことは覚えている。しかし、明かりを消しても星の光でほんの少しだけ明るく、ここまで暗くはなかった。
それに加え、夜中も走っているはずの馬車に揺れがない。道というのはどんなに整備したところで空を飛ばない限り揺れないということはない。
──だとすると、本当にここはどこなのか。
「歩こうにも先が見えないし、ここは動かない方がいいか」
真っ暗なところでは下手に動くと迷う可能性がある。これは夜間行動において常識とも言えることだ。
しかし、木1つくらいあってもおかしくないのに全くない。既に伐採された場所なのだろうか。
『別に、動いたところで何も変わらん』
「……っ!?」
突然声が聞こえた。とても低い男性の声だ。
しかし、相変わらず周りが暗いせいで何も見えない。それに音すら聞こえない。
「……誰だ?」
『貴様は知らなくていい。いや、姿は既に知っているのではないか?』
「何だと?」
何者かの声が聞こえた瞬間、暗闇の中からギロっと目が出てきた。
「……お前、は……!」
それは、あの時アスカが見た目であった。その目は黄色い猫目が特徴なのでこの声の正体があの時遭遇した何かなのだとアスカは確信した。
「……何の用だ」
正体がわかった瞬間に出てくる恐怖心を必死に抑えながら質問する。
もしかすると、人が急に出てきた時の緊張よりも心臓がバクバクしているかもしれない。
『貴様があの目の合った女で間違いないな?』
「だったらなんだ、目障りだから食い殺すってか?」
『そんなくだらないことはしない。逆に貴様に提案してやろう』
「……お前の提案なんて聞かない。どうせろくなことが無い」
『ほぉー。我が“力をやる’’と言ってもか?』
「………」
『貴様は今力を欲している。貴様自身の恐怖心を打ち消すための力を……違うか?』
力が欲しい、確かにアスカはそう思った。
だが、そんな何者かもわからない奴からの力なんていらない。逆に、そんな力を与えたところでこの声の主になんの得があるというのか。
「……いらない。そして、お前が攻撃してこないんならこっちが先に攻撃して仕留めてやる!」
そう言ってアスカはスナイパーライフルを構えようとするが、一向にスナイパーライフルがアスカの手に出てこない。
「何で……」
必死にスナイパーライフルを出現させようとするが出現する気配が全くない。それどころかこの事態にアスカは焦りと恐怖心が同時に出てくる。
『そうやって攻撃するということは、図星というやつだな』
「うるさい!」
『何、別に苦しいとかそういうのはない。そこにあるのは安心感だけだ』
「く、来るな……来るな!!」
どんどん目が近づいてくる。姿は見えないが、そこに手があるような感覚がする。
「ひっ……!!」
触れられた。何か冷たく細いもので体をスーッとなぞるように触れられた。あまりの恐怖にアスカは遂に腰が抜けてしまう。
声が出ない。心臓の鼓動が早くなる。
『美しい体だ……ククク』
「……ぁ………あ」
『何を怯えている。貴様に念願の力をやるのだ』
アスカの両腕が急に持ち上げられ宙に浮く。いや、掴まれていると言った方が正しい。
辺りは暗闇なのでわからないが、腕を掴まれている感覚がしているアスカにはハッキリとわかっていた。
「……や、やめ……て……」
『フン、あれだけ抵抗していたのにこうして見ればただの小娘同然だな』
恐怖に耐えきれなくなり遂には涙を流し始める。そして、必死に声を出して言った言葉はアスカが普段放つ言葉とは全く違い、弱々しく震えた声だった。
持ち上げられたアスカの目の前に青黒い炎がモワッと現れる。その炎は熱くはなかったが、何か禍々しい雰囲気を感じる。
そしてその目は炎の中にアスカを入れる。
「うぁ……が……いっ……あぁ……」
炎の中に入ったアスカに痛みはなく、大して熱くもなかった。
しかし、アスカの中に何かの異物が入ってくるような感覚に襲われた。それはディアボロスと戦った時に使ったあの少女のようなものではなく、様々な感情が混ざり合ったもので、痛くもなく苦しくもないというもどかしい気持ちになっていた。
『最後は痛いぞ』
「っ、ぁあああーーー!?」
痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺────
様々な感情が入り混じった痛みはアスカの体を傷付けることはなかったが、精神的なダメージは尋常ではなかった。
「……ぁ………」
さっさと楽になりたい。そんな気分だった。
だが、これだけ痛みを受けたというのに意識はハッキリとしている。もしもこの痛みが数十回も続けばアスカの精神は間違いなく死ぬ。
『我と目を合わせた褒美だ。その力、存分に使うがいい』
「ぁあーー!!」
戦意がなくなる前にアスカは両腕を掴んでいる声の主の手を勢いを付けて蹴りあげる。確かに命中はしたがしかし、当然ダメージは入らない。
『そのボロボロの精神の中、我に抵抗するか』
「ハァ……ハァ……」
『なるほど、その諦めの悪さ……気に入ったぞ女。貴様を生かしておいて正解であった』
すると突然、声の主はアスカの上着を脱がせる。少し恥ずかしさが出るがそれよりも上着を脱がせた理由が気になった。
「何を……」
『フッ』
「ひゃっ!?」
その瞬間、アスカの右腕に何かが垂れてくる。何かはわからないが液体状のものであることは間違いない。そしてその液体状のものは冷たく、その冷たさにアスカは軽く悲鳴をあげる。
『貴様はこれで、我からは逃げられん』
「……どういう、ことだ」
『それはもう間もなくわかることだろう』
声の主がそう言うとアスカの目の前が真っ白になっていく。しかし、依然として自分の姿は見えない。
『ではまた会おう、我が──
────────────────────────
「アスカさん、起きてください!」
「……ん」
時間は丁度朝日が上る時間帯。レンは態々アスカのことを起こしてくれたようだ。
「ふぅー、やっと起きた」
「……んー……」
目を覚まし起き上がったアスカは体を伸ばす。そこで何か気持ち悪さを感じた。その原因は自身が汗だくだったからだ。
「汗すご……」
「とりあえず、このタオルで拭いてください」
「どうも」
アスカはレンから受け取ったタオルで汗を拭き取る。
この辺りはそこまで暑くはない。しかし、何故ここまでして汗をかいていたのか。アスカには全く理解できなかった。
「かなりうなされてましたけど、何が悪い夢でも見たんですか?」
「わからない、というか覚えてない。生々しかったってことだけは覚えてるんだが……」
「って、アスカさん何ですかその右手。赤くなってるじゃないですか!?」
「右手?」
レンに言われた右手の掌を見るが特に何も無い。
するとそれを見たレンは次に掌ではなく手の甲の方だと言う。別に痛みはないから大した怪我ではないと軽く思っていたアスカだが、その考えは自身の手の甲を見た瞬間に吹っ飛んだ。
「これは……!?」
「多分うなされてた時に打ったんでしょう」
「お前、これが見えないのか?」
「……はい?」
「見えてないのか?」
「……少なくとも、僕にはアスカさんの手が赤くなっているところは見えてますよ」
「そうか……」
「それより、早く朝食を食べましょう。御者の人含め待ってますよ」
「……ああ」
そう言うとレンは御者がいるところに向かって歩いて行った。
そんな中、アスカは自分の手の甲を見て自身が見た夢についてを思い出していた。
「……何なんだ……この痣は……それに、あの夢は一体……」
アスカは自分の右手の甲にある鮮紅色の奇妙な痣を隠すように持ってきていた革製の手袋を付け、レンが向かった御者がいる馬車の荷台の先頭に歩いて行った。
ふと気がつくと、アスカは辺り一面が暗闇の場所にいた。自分の姿を確認することができないくらいに暗い。
「……夜にしては、少し暗過ぎないか?」
馬車の荷台で寝る前に明かりを消したことは覚えている。しかし、明かりを消しても星の光でほんの少しだけ明るく、ここまで暗くはなかった。
それに加え、夜中も走っているはずの馬車に揺れがない。道というのはどんなに整備したところで空を飛ばない限り揺れないということはない。
──だとすると、本当にここはどこなのか。
「歩こうにも先が見えないし、ここは動かない方がいいか」
真っ暗なところでは下手に動くと迷う可能性がある。これは夜間行動において常識とも言えることだ。
しかし、木1つくらいあってもおかしくないのに全くない。既に伐採された場所なのだろうか。
『別に、動いたところで何も変わらん』
「……っ!?」
突然声が聞こえた。とても低い男性の声だ。
しかし、相変わらず周りが暗いせいで何も見えない。それに音すら聞こえない。
「……誰だ?」
『貴様は知らなくていい。いや、姿は既に知っているのではないか?』
「何だと?」
何者かの声が聞こえた瞬間、暗闇の中からギロっと目が出てきた。
「……お前、は……!」
それは、あの時アスカが見た目であった。その目は黄色い猫目が特徴なのでこの声の正体があの時遭遇した何かなのだとアスカは確信した。
「……何の用だ」
正体がわかった瞬間に出てくる恐怖心を必死に抑えながら質問する。
もしかすると、人が急に出てきた時の緊張よりも心臓がバクバクしているかもしれない。
『貴様があの目の合った女で間違いないな?』
「だったらなんだ、目障りだから食い殺すってか?」
『そんなくだらないことはしない。逆に貴様に提案してやろう』
「……お前の提案なんて聞かない。どうせろくなことが無い」
『ほぉー。我が“力をやる’’と言ってもか?』
「………」
『貴様は今力を欲している。貴様自身の恐怖心を打ち消すための力を……違うか?』
力が欲しい、確かにアスカはそう思った。
だが、そんな何者かもわからない奴からの力なんていらない。逆に、そんな力を与えたところでこの声の主になんの得があるというのか。
「……いらない。そして、お前が攻撃してこないんならこっちが先に攻撃して仕留めてやる!」
そう言ってアスカはスナイパーライフルを構えようとするが、一向にスナイパーライフルがアスカの手に出てこない。
「何で……」
必死にスナイパーライフルを出現させようとするが出現する気配が全くない。それどころかこの事態にアスカは焦りと恐怖心が同時に出てくる。
『そうやって攻撃するということは、図星というやつだな』
「うるさい!」
『何、別に苦しいとかそういうのはない。そこにあるのは安心感だけだ』
「く、来るな……来るな!!」
どんどん目が近づいてくる。姿は見えないが、そこに手があるような感覚がする。
「ひっ……!!」
触れられた。何か冷たく細いもので体をスーッとなぞるように触れられた。あまりの恐怖にアスカは遂に腰が抜けてしまう。
声が出ない。心臓の鼓動が早くなる。
『美しい体だ……ククク』
「……ぁ………あ」
『何を怯えている。貴様に念願の力をやるのだ』
アスカの両腕が急に持ち上げられ宙に浮く。いや、掴まれていると言った方が正しい。
辺りは暗闇なのでわからないが、腕を掴まれている感覚がしているアスカにはハッキリとわかっていた。
「……や、やめ……て……」
『フン、あれだけ抵抗していたのにこうして見ればただの小娘同然だな』
恐怖に耐えきれなくなり遂には涙を流し始める。そして、必死に声を出して言った言葉はアスカが普段放つ言葉とは全く違い、弱々しく震えた声だった。
持ち上げられたアスカの目の前に青黒い炎がモワッと現れる。その炎は熱くはなかったが、何か禍々しい雰囲気を感じる。
そしてその目は炎の中にアスカを入れる。
「うぁ……が……いっ……あぁ……」
炎の中に入ったアスカに痛みはなく、大して熱くもなかった。
しかし、アスカの中に何かの異物が入ってくるような感覚に襲われた。それはディアボロスと戦った時に使ったあの少女のようなものではなく、様々な感情が混ざり合ったもので、痛くもなく苦しくもないというもどかしい気持ちになっていた。
『最後は痛いぞ』
「っ、ぁあああーーー!?」
痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺痛い気持ち悪い死ね苦しい裏切り怒り憎しみ殺人自殺────
様々な感情が入り混じった痛みはアスカの体を傷付けることはなかったが、精神的なダメージは尋常ではなかった。
「……ぁ………」
さっさと楽になりたい。そんな気分だった。
だが、これだけ痛みを受けたというのに意識はハッキリとしている。もしもこの痛みが数十回も続けばアスカの精神は間違いなく死ぬ。
『我と目を合わせた褒美だ。その力、存分に使うがいい』
「ぁあーー!!」
戦意がなくなる前にアスカは両腕を掴んでいる声の主の手を勢いを付けて蹴りあげる。確かに命中はしたがしかし、当然ダメージは入らない。
『そのボロボロの精神の中、我に抵抗するか』
「ハァ……ハァ……」
『なるほど、その諦めの悪さ……気に入ったぞ女。貴様を生かしておいて正解であった』
すると突然、声の主はアスカの上着を脱がせる。少し恥ずかしさが出るがそれよりも上着を脱がせた理由が気になった。
「何を……」
『フッ』
「ひゃっ!?」
その瞬間、アスカの右腕に何かが垂れてくる。何かはわからないが液体状のものであることは間違いない。そしてその液体状のものは冷たく、その冷たさにアスカは軽く悲鳴をあげる。
『貴様はこれで、我からは逃げられん』
「……どういう、ことだ」
『それはもう間もなくわかることだろう』
声の主がそう言うとアスカの目の前が真っ白になっていく。しかし、依然として自分の姿は見えない。
『ではまた会おう、我が──
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「アスカさん、起きてください!」
「……ん」
時間は丁度朝日が上る時間帯。レンは態々アスカのことを起こしてくれたようだ。
「ふぅー、やっと起きた」
「……んー……」
目を覚まし起き上がったアスカは体を伸ばす。そこで何か気持ち悪さを感じた。その原因は自身が汗だくだったからだ。
「汗すご……」
「とりあえず、このタオルで拭いてください」
「どうも」
アスカはレンから受け取ったタオルで汗を拭き取る。
この辺りはそこまで暑くはない。しかし、何故ここまでして汗をかいていたのか。アスカには全く理解できなかった。
「かなりうなされてましたけど、何が悪い夢でも見たんですか?」
「わからない、というか覚えてない。生々しかったってことだけは覚えてるんだが……」
「って、アスカさん何ですかその右手。赤くなってるじゃないですか!?」
「右手?」
レンに言われた右手の掌を見るが特に何も無い。
するとそれを見たレンは次に掌ではなく手の甲の方だと言う。別に痛みはないから大した怪我ではないと軽く思っていたアスカだが、その考えは自身の手の甲を見た瞬間に吹っ飛んだ。
「これは……!?」
「多分うなされてた時に打ったんでしょう」
「お前、これが見えないのか?」
「……はい?」
「見えてないのか?」
「……少なくとも、僕にはアスカさんの手が赤くなっているところは見えてますよ」
「そうか……」
「それより、早く朝食を食べましょう。御者の人含め待ってますよ」
「……ああ」
そう言うとレンは御者がいるところに向かって歩いて行った。
そんな中、アスカは自分の手の甲を見て自身が見た夢についてを思い出していた。
「……何なんだ……この痣は……それに、あの夢は一体……」
アスカは自分の右手の甲にある鮮紅色の奇妙な痣を隠すように持ってきていた革製の手袋を付け、レンが向かった御者がいる馬車の荷台の先頭に歩いて行った。
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