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第23話 変異種への対策

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「契約?」

「そう、契約」

「……魔法少女はやらんぞ」

「いや、契約しても魔法少女にはならないから」

 契約して魔法少女なんてよくある展開だが、今回はそう言う契約の提案ではないらしい。そもそも、アスカがもしも魔法少女になればその性格的に、100%一時的な引きこもりになるであろう。

「魔法少女にならないって言うならどういう内容なんだ?」

「私の力を本格的に使えるようになる。あの時の力はあくまで貸しただけだから、あれ以上の力を出せるわよ。どう、嬉しい?」

「……その力ってただの魔獣討伐にいるか?」

「ただの魔獣には必要ないでと思うけど、あの時みたいに変異した魔獣の討伐の時にあれば便利だと思うよ」

 はっきり言ってただの魔獣にはスナイパーライフルを1発脳天に当てれば相手は即死する。もしも銃弾を弾くくらいに頭が硬いのであれば別だが。
 しかし、魔獣が変異したのは恐らくこの世界では初めてのこと。その変異が他の魔獣に起こるのかと言われればまだ不明である。

「それで、どうする?」

「……現段階での印象は微妙だ」

「それはどうして?」

「ただの魔獣を討伐するだけなら不必要な力だ。それに、力は強いほどリスクがある。その力だって何かしらのリスクがあるんだろ?」

「……よくわかったわね。契約する前に言っちゃうと止めそうだから言わないでおこうと思ってたんだけど……」

 どんな力にも何かしらのリスクがある。大抵の能力ならば『疲れ』というリスクがある。しかし、こう言った強すぎる力ほどリスクは大きい。アスカはそれを警戒しているのだ。

「私の能力は使えば使う程、精神に傷がついていく。そしてその精神の治癒はできない。精々抑えることが限界」

「精神……」

 このリスクは使う度に死に近づくといった類だ。使う程自分の何かが壊れていく。そういったリスクは使えば即死よりもマシだが、使えば使うほど苦しみや痛みがやってくる。心が弱ければその苦しみや痛みには耐えられない。

「それに、契約するというのは私がお姉ちゃんの中に入るってことなの。二重人格とは少し違うけど」

「中に入ってなにかするのか?」

「精神が傷つくのを抑えるため。外からは抑えられないから」

 アスカどうするか迷っていた。もし仮に契約すれば変異種に遭遇した時に対応できるがその度に精神が傷つく。だからといって契約しなければ、恐らくもうこの少女と出会うことはないだろう。そして、もしもまた変異種が現れた時に対処するのは難しくなる。

「…………」

「別に今決めなくてもいいよ。でも、私だっていつでも待つなんてことはできない。3日だけ時間をあげる。それ以上は待てない」

 そう言うと少女はテレポートの詠唱をブツブツと唱え始める。いや、詠唱というかは座標指定をしているのであろう。
 詠唱を終えると次第に少女の姿が消えていく。

「決断できたら誰もいないところで適当に私を呼んで。そうすれば来るから」

「……わかった」

 最後にニコッと笑い、少女は姿を消した。
 少女が消えてからしばらく腕を顎に当てて考えていたアスカだが、ベッドに寝転がる。

「……寝るか」

 そこまで力が欲しいとは思っていないアスカは、今迷ったところで答えは出ないと考え、取り敢えず明日に備えて眠ることにした。明日になればこの変異種の騒ぎも何かしらの変化があるだろうと思いながら、今日の疲れを癒すため、瞼を閉じて眠りに入った。


────────────────────────


 アスカが少女と話していた同時刻、この世界の中心とも言える街──セヴィオルナにある冒険者ギルド本部にて今日起こった変異種についての軽い会議が行われていた。

「……以上が、ナチュランの村付近に出没したディアボロスの変異についての報告です」

「うむ」

「次に、その変異した魔獣についての報告をします」

「頼む」

「はい。まず、魔獣の変異は各地で見られており各ギルドの受付から報告が相次いでいます。中には犠牲者も出たらしいです」

 報告を受けたこの街のギルドのギルドマスターは両手を顎の下に置いてこの先の対応についてを考える。
 魔獣の変異については早急に手を打たなければ街や村に被害が及ぶ他、犠牲者が更に増えてしまう。だからと言って容易な策で片付く程簡単な事態でもない。

「ギルドマスターよ。この事態をどうするつもりだ?」

 考えるギルドマスターを急かすように話しかけたのはセヴィオルナにある城に住んでいる王族の王にあたる人物であった。その王は髭も髪も白でかなり歳をとってはいるが、真剣な目をしていた。

「この変異した魔獣については冒険者にどうにかしてもらうしかありません。我々は変異した魔獣についてをどう対処すれば冒険者の助けになるかを考えるべきでしょう」

「なるほど、ならばまず名前をつけんか?」

「名前……変異した魔獣を纏めた名称でしょうか?」

「そうだ。して、変異種なんてどうだ?」

「シンプルですね」

「その方がいいであろう」

「そうですか。ではこれより、変異した魔獣を変異種という類でまとめる。次に、冒険者へのサポートについての話をしよう」

「それについては提案があります」

 そこで声を出したのは先程の王とはまた別の人間であった。その者はかつて、ギルド内で英雄というランクに初めて到達しとある魔獣から世界を救った冒険者であった。

「確か先程の報告に『討伐した』と言ってましたよね?」

「そうだな」

「では1度、その者達に話を聞いてみることにしませんか? そうすればどういうサポートをすればいいのかが明白にわかります」

「それについては同意見です。どんな変異をしたのかどう攻撃が変化したのかを実際に戦った冒険者に聞くのが良いかと思います」

 英雄の次に意見を出したのは、冒険者が持つ冒険者カードを開発した魔獣研究者である女性であった。実際彼女も魔獣を研究する際の情報はその魔獣と戦った冒険者から話を聞いて得たものである。
 戦闘なんて不向きな彼女にとってはこれが唯一の情報の取得手段であり、1番信用できる取得方法なのだ。

「では、早くても明日に連絡を入れよう。集合するのは向こうのことも考えて連絡終了から3日後とする。それでは、本日の内容は全て決めたためこれにて解散」

 ギルドマスターが解散と言うとそれぞれの人は会議室から退出して行った。
 このように、アスカ達が変異種の魔獣について悩む中、ギルド自体も変異種の魔獣の対応についての話を着々と進めていくのであった。
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