上 下
21 / 67

第20話 紅魔

しおりを挟む

「こ、子供?」

「……フフ」

 アスカの目の前には少女が1人。何故こんな所にいるのかはわからないが場所を除けば何もおかしくはない状況だ。
 しかし、この少女に対しアスカは妙な不気味さと恐怖心があった。そしてその恐怖心は、人とのコミュニケーションを取る時よりも大きな緊張を引き起こした。

「お姉ちゃん、早くあの人達をアイツから離れさした方がいいよ?」

「……どういう、ことだ?」

「どういうことかは見ればわかるけど、最悪あの3人……死んじゃうよ?」

「──!?」

 確証はない話だ。信じる必要も無い。倒れているところを攻撃するのは当たり前だ。しかし、そのチャンスをみすみす見逃せとこの少女は言っているのだ。
 それと同時に、そうしなければならないという感情がアスカの中に出てくる。この少女が言っていることは正しい、そんな感じがした。

「ラドさん、ルイスさん、ジョルダンさん! 今すぐそこを降りてください!」

 緊張していたアスカは、コミュニケーションがどうたらこうたらというよりも、彼らに伝えなければ死ぬかもしれないという焦りを感じていた。

「何故だ! 絶好のチャンスだぞ!?」

「嫌な予感がするんです! レンもそこから今すぐ離れろ!」

「……とっくに離れてますよ。そして、アスカさんと言う通り今すぐそこを降りてください!」

 アスカが言う前に既に距離をとっていたレン。何故ならば、ディアボロスを中心にどんどんディアボロスが殴った時に出現した禍々しい色をした池が広まっていくところを目撃したからだ。

「ディアボロスを中心にあの池が広まってきています。今降りないと間違いなく死にます!」

「くっ、折角のチャンスだが……ここは降りるぞ!」

「嫌だ、と言ったら?」

「無理にでも連れていく。チャンスなんてまた作れる!」

「私も降ります。死ぬ可能性よりも勝つ可能性を優先するのは嫌ですから」

 レンの忠告を聞き、ジョルダンは先にディアボロスから飛び降りる。この時点でもう池は踏まないのが奇跡というくらいに広がっていた。今降りなければ間に合わなくなる。

「さあ、お前も早く来い!」

「……それは出来ない提案だね」

「なんどわっ!?」

 ルイスはラドを突き落とし、ディアボロスの頭に向かって走り出す。

「嫌な予感なんて倒せばなくなるんだ」

「あのバカ……!!」

「ラドさん! それ以上は危険です!」

 1人ディアボロスの頭に向かうルイスを追いかけようとディアボロスに近づくが、池は既にどう頑張ってもディアボロスの体に接触できないほどに広がっていた。

「だったらなんだ! あのバカを放っておくってのか!?」

「明らかにジャンプしても届かない距離です!」

「だったらそこの木でも何でも使えばいいだろうが!」

「あれを運ぶだなんて不可能です! それに、空色が悪くなってきました。雨でもふって足場でも悪くなれ……ば……」

「なんだ、空なんか見て何かあるのか!?」

 急に空を見上げたまま動かなくなったジョルダンを見てラドも目を空に向ける。そして、2人の目先には明らかな異変が起こっていることを嫌でも理解させられた。

「なんだ、あれ」

 2人だけでなくアスカとレンもその空を見て驚愕としていた。
 その空は、ディアボロスを中心に闇が広まっており、特にディアボロスの真上にはその闇が渦のようになっており、そこからエネルギーのようなものがディアボロスに送られていた。

「っ、いいから降りろ! 降りないと──」

 しかし最後の忠告を言っていた途中にその嫌な予感というものが的中してしまう。
 渦巻いていた闇から得たエネルギーを吸収し終えたディアボロスはその闇を霧状にして放出する。アスカ達4人はある程度離れていたため当たりが見えにくくなっただけだが、至近距離にいたルイスはどうなったのか誰にも検討がつかない。

「おいルイス! 無事か!?」

 闇が晴れ、ラドが真っ先にルイスの安否を確認する。

「ぅ……ぁ……」

 しかし、そこにいたのは黒い霧に包まれ意識朦朧としているルイスの姿であった。
 誰も何をされたのかはわからない。一体今、ルイスの身に何が起こっているのかも。

「こ、こいつ……僕の……精神……力を……」

「チッ!」

 ルイスの背後から妙な気配を感じたレンは、すかさずルイスの後ろにいるであろう何者かを撃つ。その銃弾は命中はしたがまるで手応えがなかった。
 その後、ルイスを拘束していた黒い霧が無くなりルイスが解放された。

「おい、しっかりしろ!」

 ラドが急いで駆け寄り、ルイスを抱きかかえる。拘束から解放されたルイスは死にはしていないが、生きているのがやっとという程衰弱していた。これでは戦線復帰も絶望的だ。

「……あいつの黒い霧には……捕まるな……僕みたいになるぞ」

 ルイスが見る方向にはいるはずのディアボロスがいなく、違う魔獣が新たに出現していた。
 その魔獣はまるでディアボロスが紅く染まり、小さくなった姿であった。

「あれは、ディアボロスなのか?」

 姿の変わりようが大き過ぎて、その事実を容易に信じることができない。それはアスカ以外の3人も同じで、姿が変わった原因とルイスを拘束していた黒い霧など原因不明のものが多過ぎて現状の把握ができていなかった。

「あれはディアボロスの紅魔と言われる種。所謂変異種ってやつかな?」

 アスカの隣にいる黒いドレスを着た少女が口を開く。紅魔と呼ばれたこのディアボロスはその名の通りに全身が紅に染まっている。その紅は先程までの闇とは懸け離れているが、だからと言って闇を操る攻撃ができなくなったというわけではないらしい。

「何故子供の君が、そんなことを知っている?」

「わかるでしょ? ただの子供じゃないってこと」

「……取り敢えず、今はあいつをどうにかしないと。話は後でじっくり聞かせてもらうからな!」

 アスカは再びスコープを覗いてディアボロスを狙い始める。スコープを覗いた先では既に3人が戦闘に入っていた。しかし、既に戦闘に入っていたのならばもう少しダメージを与えられているはずだ。だが、ディアボロス変異種には傷はあるがダメージが入っているようには見えない。

「なんだコイツ、さっきから攻撃してるのにビクともしねぇ!」

「どうも、奥深くに入っていないって感じです。見てください、僕の片手剣が切ったのはほんの先だけ。結構根元まで入れて切ったつもりなのに先っぽしか当たっていないのです」

「黒霧来ます!」

 攻撃と回避をしながら慎重にディアボロス変異種の分析をしていく。
 当たれば即戦闘不能のこの戦いにおいて重要なのは冷静さだ。冷静に相手を分析して確実にダメージを与えていく。一撃でやられるからと言って焦ってしまえば返って不利になる。

「だからなんだってんだよ!? 先っぽしか当たっていないから押し込めって言うのか!?」

「そうです。一応剣自体は刺さるのです。後はそこから奥に押し込めばディアボロスのダメージがはいる部位まで届くということです」

「一応言っておきますが、僕のこの武器での押し込みはあまりオススメしません。僕は狙い撃ちというのが苦手なので当たるのは極わずかな数です。それに、僕のこれはハッキリ言って威力は低いです。そもそも押し込めるかどうかわかりません」

「あいつはどうなんだ? 確かアスカって言ったか」

「アスカさんは攻撃してからの少しインターバルがあるのでその間に動かれでもしたら押し込むどころか武器の損傷に繋がります」

「……じゃあ何だ、俺とジョルダンのどちらかが刺してどちらかが押し込めと」

「そうです」

 本来ならばもう少しゆっくり作戦を立てたいところだが、そんなことをしている暇があれば苦労はしていない。
 もっと人数がいれば別の戦い方が出てきたであろうが、残念なことに今いる冒険者のうち戦闘可能なのがたったの4人だ。その4人で何とか行けるかというレベルの作戦こそが今レンが提案した作戦だ。
 つまり、もしも失敗すればもうこの4人には打つ手がない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi
恋愛
辺境の部隊にふらりと入隊した過去を忘れたい主人公。美人でスナイパーとして優秀な上、割と賢いのに、色恋には残念鈍感系。年上美人お姉さまにあこがれるイケメン新入隊員や、俺様系上司、仲間や友人ができ、不気味な害獣の駆逐に徐々に成功していくが、その害獣は彼女の過去に結びついていた。明らかになっていく愛憎物語 最後はハッピーエンドで金持ちになるのでよろしくです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界の物流は俺に任せろ

北きつね
ファンタジー
 俺は、大木靖(おおきやすし)。  趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。  隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。  職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。  道?と思われる場所も走った事がある。  今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。  え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?  そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。  日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。  え?”日本”じゃないのかって?  拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。  え?バッケスホーフ王国なんて知らない?  そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。  え?地球じゃないのかって?  言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。  俺は、異世界のトラック運転手だ!  なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!  故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。  俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。  ご都合主義てんこ盛りの世界だ。  そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。  俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。  レールテの物流は俺に任せろ! 注)作者が楽しむ為に書いています。   作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。   誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。   アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...