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第8話 この世界での目標
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レンについて行き、食堂であろう場所に着く。しかし、この食堂を見てアスカが抱いた第一印象は──
「……ちょい人気低めの酒場か何かか?」
アスカが何故そう思ったのか。それはまず、食堂の雰囲気だ。この食堂は食堂という雰囲気ではなく店という雰囲気がある。それにここにいる人達が注文しているものが酒と何かだ。もしかするとつまみかもしれないが、肉料理を酒のつまみにするだろうか。そして、唯一違うところと言えば天井が高いという点だけだ。
ちょい人気低めだという点はそのままの意味でここにいる人が少ないからだ。
「食堂ってほら、自分でカウンターに注文しに行くんじゃないのか?」
「残念ながら、この村での食堂はこんな感じです。しかし、味は良いので慣れれば問題ありません」
「慣れってすごいな」
そう言っているアスカだが、1度打ち解けた相手とは軽く話ができる慣れも凄い。
「とにかく座りましょう。話はそれからです」
「了解」
そして2人はちょい人気低めの居酒屋もとい、食堂にある席に向かい合うように座る。話をするのならこの座り方が一番いい。
「さてと、何から話すか」
「その前に何か注文しましょう。でないとこの食堂に失礼です」
「それもそうだな……てことで注文は頼んだ」
「え、自分でしないんですか?」
「いや……その、だな……こういうところってあんまり来ないもので……」
アスカはそう言っているが、実際はただ単にコミュ障故の緊張が起こっているからだ。確かに、基本外には出ないのでアスカの言い分は正しいが根本的な問題はそれだ。
まさに、嘘は言っていない、と言うやつだ。
「──? そうですか、わかりました。それで、どれにしますか?」
特に追求はせずにレンは机の横にあるメニューを開きアスカに見せてくる。様々な料理があるが、アスカが食べるものは既に決めている。
「勿論、ドレッシング多めのシーザーサラダだ。決してここに来る前の世界で全然野菜食べてないからって理由じゃないからな」
「意外とアスカさんってわかりやすい人なんですね」
「だから違うって。……いや違わないけどもさ」
「はいはいそういうことにしておきます。それじゃあ僕はカレーライスにでもしますね」
「この世界にもあるんだな」
「前の世界にあった料理は基本的にありますよ。食材が違ったりと少々の違いはありますが」
「ふーん」
「すみません! カレーライスとドレッシング多めのシーザーサラダ1つずつお願いしまーす!」
「わかりました!」
レンが大声で調理場にいる料理人に向かって注文する。俺にはあんなことは絶対にできないと思うアスカであった。
注文した料理が来るまでに時間がある今、アスカはレンにふと気になったことを質問する。
「そういえば、どうして敬語で話すんだ?」
先程からというもの、レンはずっと敬語で話している。自然とそういう口調なのかもしれないが一応聞いておく。
「まあ、前の世界では普通に話していたんですけど、アスカさんを含めここは僕の知らない人ばかりじゃないですか。そこでタメ口は失礼かなって思いまして」
「まあ、そういう理由が普通か。同じ転移者で友好的ならばこうやって普通に話すんだけどな」
「あ、でもアスカさんに対しては僕が尊敬しているからってのもありますけどね」
「尊敬ねー」
本来なら喜ぶべきところのはずなのだが、アスカはどうにも素直に喜ぶことができなかった。
それは、レンが尊敬しているのは『ジ・エンドオブサバイバル』ランキング1位であるAsukaとしてのアスカだ。従って、レンは白野飛鳥に対してはなんの尊敬もなければ気にもしていないという事だ。何らかの感情を持っていたとしてもそれは『疑問』という感情のみだ。
ランキング1位という肩書きがなければこの世界にも来ていない。それに、アスカからこの肩書きが消えるということは、残るのはただの社会不適合者の人間としての肩書きだけだ。
──そんな人間を誰も尊敬するはずがない。
「シーザーサラダとカレーライスでーす!」
「ありがとうございます」
案外早く注文していた料理が完成する。前の世界ではこんな速さで料理ができることが絶対になかった。
しかし、この世界には魔法がある。恐らく、その魔法を使ったことで料理の完成速度を上げることに成功したのだろう。これは魔法があるこの世界だからこそできることだ。
「いただきます」
「いただきます」
日本伝統の挨拶を行い、アスカはシーザーサラダを。レンはカレーライスを食べ始める。
「……うん、結構行ける」
毎日カロリーメイトか軽く調理したもやしだったアスカにとって、まともな野菜料理は久しぶりの健康食だ。その味は今までの人生で食べたことの無いほど美味なものであった。
「……そういえば、俺ってタイラノを討伐したんだから冒険者カードに載るはずだよな」
シーザーサラダを食べるのを一旦止め、持っている冒険者カードを確認してみる。冒険者カードには、今日討伐したゴブリン10匹とタイラノ1頭の討伐数がちゃんと載っていた。それに加え、クエストを始める前はEだったのがDになっている。
「このランクってそんなにすぐ上がるものなのか?」
「ん、しょうひぇふへ……ゴクン……恐らく、タイラノを討伐したからですね。タイラノの討伐は本来Cランク以上推奨のクエストなんです」
「それじゃあCランクになっててもおかしくはないんじゃないのか?」
「このランクってシステムは言わばレベルみたいなものです。RPGゲームとかでレベル50以上推奨の敵をレベル25で倒してもレベルは50になるとは限りませんよね?」
「確かに……」
「それと同じようなものです……ハムッ……やっぱり美味!」
要するに、冒険者カードに記されているランクとは所謂アルファベットで表されたレベルのようなものだ。レベルを上げるには勿論経験値がいる。そして、その経験値が魔獣を討伐した数とその魔獣の強さに比例して大きくなっていくポイントのようなものだ。
つまり、よりランクをあげるには雑魚魔獣を大量に討伐するかより強い魔獣を討伐していくかのどちらかである。
「……だったら決まりだな」
「何を決めたんですか?」
「目標だ」
「目標……ですか」
アスカの考え方としては、雑魚を大量に討伐するのには時間もかかるし飽きるから、より強い魔獣を討伐して行った方が効率よくランクを上げられる。それに何よりも──
──より強い魔獣と戦うのは一日中椅子に座ってゲーム画面を見ているよりかは楽しそうだ。
「それは一体どんな目標ですか?」
「全種類の魔獣を討伐することだ。できればより強い魔獣のな」
全種類の魔獣を討伐──それは未だかつてこの世界の誰もが成し遂げたことの無いことだ。
今判明している魔獣以外にも未知の魔獣がこの世界には存在している。それを全て発見し討伐しようではないか、というのがアスカの目標である。
「そうしたら勝手にランクも上がっていくだろ」
「……本気ですか?」
「男に二言はない!」
決めゼリフ的な感じでアスカはバシッと言う。
「あれ、アスカさんって女性ですよね?」
「……………」
レンからの指摘を受けた瞬間、アスカは急に決めゼリフを言った自分が恥ずかしくなった。アスカ自身、周りが今自分のことをどう見ているかはわからないが、自分の顔が恥ずかしさで真っ赤になっていることだけはわかる。
──しまった、熱くなりすぎた。
「……あぁーー! 止めだ! 今日は帰る!」
「え、サラダだけでいいんですか?」
「帰ってから違うもの食べて満腹にする!」
あまりの恥ずかしさにアスカは席を立ち上がり帰ろうとする。そこで1つすることを思い出した。
「そうだ。これ渡しとくぞ」
「これは、クエストの報酬金?」
「の半分だ」
アスカがレンに渡したのは、今回のクエストの報酬金──5万5000コルの半分である2万7500コルだった。
「ほら、一応タイラノ討伐にはお前の罠がなかったら危なかったわけだしさ……」
「そうですか。それならお言葉に甘えて貰っておきますね」
「それじゃ、また会えたらな」
「はい。また会えたのならクエストとか一緒にどうですか?」
「考えとく」
そう言ってアスカは食堂で食べたシーザーサラダの料金を支払った。この瞬間、アスカは──
──酒場なんて言ったがファミレスという見方もありだな。
なんてことを思っていた。
それから今考えればかなり誤解を招くのではないかと思いながら昼に家へと運んでくれた男の家へと向かった。
そして、家に帰ると予想通り新婚の妻のように晩御飯を作って待っていたようで、改めて食堂で食べ過ぎなくてよかったと思うアスカであった。
「……ちょい人気低めの酒場か何かか?」
アスカが何故そう思ったのか。それはまず、食堂の雰囲気だ。この食堂は食堂という雰囲気ではなく店という雰囲気がある。それにここにいる人達が注文しているものが酒と何かだ。もしかするとつまみかもしれないが、肉料理を酒のつまみにするだろうか。そして、唯一違うところと言えば天井が高いという点だけだ。
ちょい人気低めだという点はそのままの意味でここにいる人が少ないからだ。
「食堂ってほら、自分でカウンターに注文しに行くんじゃないのか?」
「残念ながら、この村での食堂はこんな感じです。しかし、味は良いので慣れれば問題ありません」
「慣れってすごいな」
そう言っているアスカだが、1度打ち解けた相手とは軽く話ができる慣れも凄い。
「とにかく座りましょう。話はそれからです」
「了解」
そして2人はちょい人気低めの居酒屋もとい、食堂にある席に向かい合うように座る。話をするのならこの座り方が一番いい。
「さてと、何から話すか」
「その前に何か注文しましょう。でないとこの食堂に失礼です」
「それもそうだな……てことで注文は頼んだ」
「え、自分でしないんですか?」
「いや……その、だな……こういうところってあんまり来ないもので……」
アスカはそう言っているが、実際はただ単にコミュ障故の緊張が起こっているからだ。確かに、基本外には出ないのでアスカの言い分は正しいが根本的な問題はそれだ。
まさに、嘘は言っていない、と言うやつだ。
「──? そうですか、わかりました。それで、どれにしますか?」
特に追求はせずにレンは机の横にあるメニューを開きアスカに見せてくる。様々な料理があるが、アスカが食べるものは既に決めている。
「勿論、ドレッシング多めのシーザーサラダだ。決してここに来る前の世界で全然野菜食べてないからって理由じゃないからな」
「意外とアスカさんってわかりやすい人なんですね」
「だから違うって。……いや違わないけどもさ」
「はいはいそういうことにしておきます。それじゃあ僕はカレーライスにでもしますね」
「この世界にもあるんだな」
「前の世界にあった料理は基本的にありますよ。食材が違ったりと少々の違いはありますが」
「ふーん」
「すみません! カレーライスとドレッシング多めのシーザーサラダ1つずつお願いしまーす!」
「わかりました!」
レンが大声で調理場にいる料理人に向かって注文する。俺にはあんなことは絶対にできないと思うアスカであった。
注文した料理が来るまでに時間がある今、アスカはレンにふと気になったことを質問する。
「そういえば、どうして敬語で話すんだ?」
先程からというもの、レンはずっと敬語で話している。自然とそういう口調なのかもしれないが一応聞いておく。
「まあ、前の世界では普通に話していたんですけど、アスカさんを含めここは僕の知らない人ばかりじゃないですか。そこでタメ口は失礼かなって思いまして」
「まあ、そういう理由が普通か。同じ転移者で友好的ならばこうやって普通に話すんだけどな」
「あ、でもアスカさんに対しては僕が尊敬しているからってのもありますけどね」
「尊敬ねー」
本来なら喜ぶべきところのはずなのだが、アスカはどうにも素直に喜ぶことができなかった。
それは、レンが尊敬しているのは『ジ・エンドオブサバイバル』ランキング1位であるAsukaとしてのアスカだ。従って、レンは白野飛鳥に対してはなんの尊敬もなければ気にもしていないという事だ。何らかの感情を持っていたとしてもそれは『疑問』という感情のみだ。
ランキング1位という肩書きがなければこの世界にも来ていない。それに、アスカからこの肩書きが消えるということは、残るのはただの社会不適合者の人間としての肩書きだけだ。
──そんな人間を誰も尊敬するはずがない。
「シーザーサラダとカレーライスでーす!」
「ありがとうございます」
案外早く注文していた料理が完成する。前の世界ではこんな速さで料理ができることが絶対になかった。
しかし、この世界には魔法がある。恐らく、その魔法を使ったことで料理の完成速度を上げることに成功したのだろう。これは魔法があるこの世界だからこそできることだ。
「いただきます」
「いただきます」
日本伝統の挨拶を行い、アスカはシーザーサラダを。レンはカレーライスを食べ始める。
「……うん、結構行ける」
毎日カロリーメイトか軽く調理したもやしだったアスカにとって、まともな野菜料理は久しぶりの健康食だ。その味は今までの人生で食べたことの無いほど美味なものであった。
「……そういえば、俺ってタイラノを討伐したんだから冒険者カードに載るはずだよな」
シーザーサラダを食べるのを一旦止め、持っている冒険者カードを確認してみる。冒険者カードには、今日討伐したゴブリン10匹とタイラノ1頭の討伐数がちゃんと載っていた。それに加え、クエストを始める前はEだったのがDになっている。
「このランクってそんなにすぐ上がるものなのか?」
「ん、しょうひぇふへ……ゴクン……恐らく、タイラノを討伐したからですね。タイラノの討伐は本来Cランク以上推奨のクエストなんです」
「それじゃあCランクになっててもおかしくはないんじゃないのか?」
「このランクってシステムは言わばレベルみたいなものです。RPGゲームとかでレベル50以上推奨の敵をレベル25で倒してもレベルは50になるとは限りませんよね?」
「確かに……」
「それと同じようなものです……ハムッ……やっぱり美味!」
要するに、冒険者カードに記されているランクとは所謂アルファベットで表されたレベルのようなものだ。レベルを上げるには勿論経験値がいる。そして、その経験値が魔獣を討伐した数とその魔獣の強さに比例して大きくなっていくポイントのようなものだ。
つまり、よりランクをあげるには雑魚魔獣を大量に討伐するかより強い魔獣を討伐していくかのどちらかである。
「……だったら決まりだな」
「何を決めたんですか?」
「目標だ」
「目標……ですか」
アスカの考え方としては、雑魚を大量に討伐するのには時間もかかるし飽きるから、より強い魔獣を討伐して行った方が効率よくランクを上げられる。それに何よりも──
──より強い魔獣と戦うのは一日中椅子に座ってゲーム画面を見ているよりかは楽しそうだ。
「それは一体どんな目標ですか?」
「全種類の魔獣を討伐することだ。できればより強い魔獣のな」
全種類の魔獣を討伐──それは未だかつてこの世界の誰もが成し遂げたことの無いことだ。
今判明している魔獣以外にも未知の魔獣がこの世界には存在している。それを全て発見し討伐しようではないか、というのがアスカの目標である。
「そうしたら勝手にランクも上がっていくだろ」
「……本気ですか?」
「男に二言はない!」
決めゼリフ的な感じでアスカはバシッと言う。
「あれ、アスカさんって女性ですよね?」
「……………」
レンからの指摘を受けた瞬間、アスカは急に決めゼリフを言った自分が恥ずかしくなった。アスカ自身、周りが今自分のことをどう見ているかはわからないが、自分の顔が恥ずかしさで真っ赤になっていることだけはわかる。
──しまった、熱くなりすぎた。
「……あぁーー! 止めだ! 今日は帰る!」
「え、サラダだけでいいんですか?」
「帰ってから違うもの食べて満腹にする!」
あまりの恥ずかしさにアスカは席を立ち上がり帰ろうとする。そこで1つすることを思い出した。
「そうだ。これ渡しとくぞ」
「これは、クエストの報酬金?」
「の半分だ」
アスカがレンに渡したのは、今回のクエストの報酬金──5万5000コルの半分である2万7500コルだった。
「ほら、一応タイラノ討伐にはお前の罠がなかったら危なかったわけだしさ……」
「そうですか。それならお言葉に甘えて貰っておきますね」
「それじゃ、また会えたらな」
「はい。また会えたのならクエストとか一緒にどうですか?」
「考えとく」
そう言ってアスカは食堂で食べたシーザーサラダの料金を支払った。この瞬間、アスカは──
──酒場なんて言ったがファミレスという見方もありだな。
なんてことを思っていた。
それから今考えればかなり誤解を招くのではないかと思いながら昼に家へと運んでくれた男の家へと向かった。
そして、家に帰ると予想通り新婚の妻のように晩御飯を作って待っていたようで、改めて食堂で食べ過ぎなくてよかったと思うアスカであった。
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