異世界でスナイパーやるのっておかしいですか?

幻影刃

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第5話 ファーストクエスト

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「この紙1枚で送れるのはここまでだ」

「わかりました。ありがとうございました」

「それじゃ、気を付けなよお嬢さん」

 アスカが馬車から降りてそう言うと馬車の運転手はアスカとは反対の方向に真っ直ぐ向かって行った。

「この辺りにいるってことでいいんだよな」

 アスカが降りた場所は樹海とも言える森の中。そこそこ整備はされているが、軽い道と目印があるだけで段差や道を塞ぐ大木などはそのまま、本当にそこそこである。
 アスカは目印を見失わないようにしながら奥に進んでいく。

「本当に自然が多いな……」

 ナチュランの村の周りは完全に森で平原1つない。あえて言うなら田舎だ。だから、視界も悪いし歩きづらい。あまり激しい動きをするには適さない環境だ。

「お、ゴブリン発見」

 遠くにいるゴブリンを発見する。あすかの見る限り、ゴブリンの数は2匹。そしてどうやらアスカの存在にはまだ気づいていないようだ。

「だったら、試し撃ちといきますか」

 アスカは右手をスワイプし装備画面を開く。そして持っているM24を取り出す。

「この距離だったらスコープは4倍で、サプレッサーも忘れずに装着っと」

 発見したゴブリン2匹を確実に。そして、それぞれ1発で仕留められる最適なカスタムをする。カスタムが終わると左足の膝をついてしゃがみ、カスタムしたM24を構えてスコープを覗く。

「……あのタクトとか言うやつの言う通りだ。脳で理解していなくても体が勝手に動く」

 M24のカスタムの仕方、構え方などはアスカのいた世界の日本では一般人のほとんどが知らない。というか、関わりすらない。あったとしても警察の特殊部隊に所属している人達ぐらいだ。カスタムの仕方は独学で勉強すればできないこともないが、勿論アスカがそんなことをしているわけがない。
 しかし、今のアスカにはM24に限らずあらゆるスナイパーライフルを扱えるほどの技量がある。知識がなくとも技量があれば大抵の事はなんとなくでできる。まるで、毎日同じことをしていたかのように。

「……狙うは頭」

 狙撃において1番の敵は『緊張と焦り』である。冷静に考え、常に「命中させられるのか」ではなく「命中させる」と考える。それによって、不安よりも自信の感情が上回りブレなどを抑えられる。

「………!」

 アスカは、医者が患者に注射針を刺すかのような慎重さと丁寧さで引き金を引く。射撃時の反動はスキル『反動軽減(SR)』によって軽減されている。
 射出された銃弾は2匹のうち1匹のゴブリンの頭部に向かって飛んでいく。そしてその銃弾は見事にゴブリンの頭部に命中し、ゴブリンは自分が撃ち抜かれたことに気がつく前に絶命する。
 それと同時に、アスカにほんの少しの脱力感が襲う。

「……魔力消費」

 タクトは言った。アスカ達の体には魔力があり、その魔力で剣などの近接武器を主軸として戦うのならばその近接武器の強化。銃や弓といった遠距離武器を主軸として戦うのならば銃弾や矢の創造が魔力消費によって行える。そして先程の射撃から、銃ならば銃弾は自動で装填され、射出された銃弾が着弾すると魔力が消費されるようだ。
 創造といっても装填は自動なので、自分の想像イメージと撃てる銃弾については関係なさそうだ。

「ってことは、ボルト引いた後の装填が自動ってことか」

 アスカが扱うM24はボルトアクション方式。本来ならばボルトを引いて撃ち終えた銃弾の薬莢を排出し、空になった薬室に銃弾を装填しボルトを戻すことで射撃が可能の状態になる。しかし、銃弾の装填が自動ということは──

「ボルトを1回引いて薬莢が出た瞬間にボルトを戻すことで装填が完了する」

 銃弾を装填するという1つの過程を省略できるという事だ。つまり、上手くいけば並のショットガンくらいの連射速度で、或いはそれ以上の速度で撃つことができる。

「……2匹目も討伐完了っと」

 再装填が完了したM24の弾丸をもう1匹のゴブリンに向けて射出し、はじめのゴブリン同様頭部に命中させる。
 2匹の討伐が完了したところでもう1度ボルトを引き、また次に見つけた時即座に撃てるようにしておく。

「……討伐した魔獣と数は冒険者カードに自動で載るのか」

 どういう仕組みかはわからないが、自動で載るなら態々証明のために討伐したゴブリンの死体か体の一部を持ち帰るなんてことはしなくてもいい。クエスト達成の効率の向上や荷物の削減もできるのでこの仕様はとてもありがたい。

「さて、この調子で討伐していくか」

 アスカはM24を装備から解除すると先程討伐したゴブリンがいる方向に向かって歩きはじめた。

「スナイパーライフル……転移者……まさか……」

 ──その近くの木の影に何者かがいた事は、既に歩きはじめたアスカには知る由もなかった。


***


 それからしばらく森を探索し、ゴブリンを発見次第討伐していった。時には狙撃の前にゴブリンに気付かれることもあったが、ゼロ距離発射というなんともエグい方法で討伐したりもした。

「……これでラスト」

 そして今、ついに10匹目のゴブリンの頭部を撃ち抜き討伐する。

「これでクエスト達成。後は目印を辿って帰るだけだ」

 冒険者カードを見てしっかり10匹の討伐が完了したことを確認すると元来た道を引き返しはじめた。目印は結構目立つもので、きちんと番号が振られているので基本迷うことはない。

「ここが3だから……向こうが2か」

 しっかりと番号を確認しながら戻っていく。
 すると道中で突然咆哮のようなものが聞こえた。

「なんだ今の?」

 聞こえた方向からすると、先程の咆哮を上げた何かは今から向かおうとしている2番の目印とは真逆の方向にいる。しかも、その方向に目印はない。つまり、ギルドによる整備が進んでいない地帯ということだ。

「……行ってみるか」

 アスカは無事に帰ることよりも己の好奇心を優先し、咆哮が聞こえたところに向かう。その時に帰れるように近くの木にコンバットナイフで傷を付け、簡易的な目印を立てながら進んで行く。

「なんだこれは!?」

 しばらく進んだところで少し開けたところに出る。
 そしてその場所を見てアスカは驚きを隠せなかった。

「木が薙ぎ倒されている……?」

 この開けた場所──木のほとんどが薙ぎ倒されたことによってできた空間がアスカの目の前にあった。そしてその空間には、食いちぎられた生き物の死体と根から抜けているなぎ倒された木と同じような状態の木がいくつもあった。
 それに、土と木の状態は先程まで歩いてきた道と全く同じ。つまり、この木はほぼ同時刻になぎ倒され、なぎ倒された時間も最近だという事だ。そして、それと先程聞こえた咆哮と繋ぎ合わせると──

「グォオオオオーー!!」

「この近くにいる、てことだよな」

 背後から聞こえた咆哮の大きさに思わず耳を塞ぐ。
 アスカが振り返ると、そこには元いた世界の人類が『ティラノサウルス』と呼んでいた生き物に特徴が酷似した生き物が涎を垂らし、殺気に満ちた眼差しで見ていた。
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