[完結]マリンとパール

夏伐

文字の大きさ
上 下
3 / 4

3

しおりを挟む
「王妃さまじゃなかったのは残念だけど、あいつも幸せそうだったからな。皆で見送ったんだよ」

 パールは驚いた。彼女の母は、いつも森を懐かしみ魂はいつも故郷に帰りたがっていた。父であっても、母に似なかったパールを見限った。森の民が持っているという力を受け継がなかったのもあるだろう。

「俺たちは閉じ込められているからな。外に出たがったあの子の夢が叶ってそりゃ嬉しかったもんよ」

 そう嬉しそうに言われパールはうつむいた。

「私もいつかは外に行きたいの。パール、森の外はどんな世界なの?」

 マリンが無邪気にパールに聞く。パールは限られた世界しか知らない、それを前置きにしてからマリンが眠りにつくまで話し続けた。

 パールはツリーハウスの天井を見て、樹木が折り重なるように出来ているみぞの一つ一つを眺めた。 
 もしかしたら、ここで生きる未来もあったかもしれない。そうすればマリンのように明るく無邪気に何も考えずに生きることが出来ただろうか。

 翌朝、森は騒がしかった。

 昨日は姿を見せなかった大人たちが地面に降りて黒装束の集団を捕えていた。草木が体を拘束している。

 彼らを捕えていた一人がパールを呼んだ。

 マリンもパールと一緒に外へ出る。黒装束の覆面がむしり取られると、そこにはパールの見知った顔があった。乳母をしていた女性だった。

「パールちゃんを迎えに来たわけじゃなさそうだな」

 彼らを囲んでいた大人の誰かが言うと、乳母はニヤリと笑った。

「王は忌々しい穢れた血を粛清することを望んでいる」

 拘束された彼女がパールを傷つけることは出来なかったが、その心を傷つけることは感嘆だった。パールは、よろりとふら付いて、その場に座り込んでしまった。

 森に踏み入ったことを怒られるのではなく、それを好機と考えて、暗殺を命じたのだ。父は。
 パールは頭にもやもやと世界から色がなくなっていくのを感じた。

 パールの肩を、誰かがぎゅっと抱きしめた。ちらりと視界にうつったのは自分とそっくりな少女の顔だった。

「お前らに気づかれるのは予想外だった。殺すなら殺せば良い」

「俺たちは人殺しじゃない。それにこの森の事で俺たちが知らないことなんてあるはずないだろう?」

「――……どうして」パールが言った。マリンが引き留めるのも聞かずに、パールは乳母に近づいていく。「あなただけは私の味方だったじゃない!」

「お嬢ちゃま――そんなことは一度だってありはしませんでしたよ。魔物の血が混じっている森の民などと王族が関わりを持つこと自体、私は反対だったんです。それをわざわざ子供までこしらえて」

「なんで! なんでよ!!」

 パールが乳母を叩いた。しかしそれはとても弱々しいものだった。

「パール、後は大人に任せよう。おじさん、ソレ若木にするんだよね」

「そうだな。このまま帰したらまたパールちゃんを襲いに来るかもしれない」

 パールはマリンの家に連れられた。マリンに『若木』の説明を求めると、マリンは無邪気に玄関から村を見下ろして言った。

「若木っていうのは、動物の肉体に『種』を植えて生き物を木の苗床にする事だよ。とても早く成長して大きく立派に育つの」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

魔女を殺す為のデイリーライフ【完結】

秋雨薫
ファンタジー
利き腕を負傷した暗殺者リヴが受けた依頼は――暗殺失敗率100%の魔女アピ⁼レイス 「私に普通の日常を教えてくれ!その代わり私の命はいつでも狙って良い」 魔女の首を狙う暗殺者と普通の日常が知りたい魔女の奇妙なデイリーライフ。

あやかしの森の魔女と彷徨う旅の吟遊詩人

牧村燈
ファンタジー
妖精の村を旅するあのSのイニシャルの吟遊詩人が、もしも男装した少女だったらという設定にキュンとしてしまい、たったそれだけの理由でこのファンタジーを書き始めました。 全年齢向けの設定を意識してエッチな場面はかなり控えめにしております(が、多少のあれはあれです)。 あやかしの森には妖精を模した動物たちが、森の支配者である長Kの圧政に怯えながらも、それぞれ自分の力で自由に生きようともがいていました。この森に迷い込み、妖精動物たちとの出会い森の実情を知った吟遊詩人Sは、長Kの圧政から森を解放し、旅の目的を果たすことが出来るでしょうか? 森の不思議な雰囲気と、戦闘シーンに力を入れて書きました。どうぞお楽しみください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

アサシンズガーディアン・スクールライフ

さとう
ファンタジー
数千年の歴史を持つ古き暗殺教団『黄昏』に育てられた暗殺者。コードネーム『クリード』は、とある依頼により、ジェノバ王国族第三王女ラスピルの護衛を命じられる。 だが、依頼はもう一つあった。それは……第三王女ラスピルを、ジェノバの次期王女にすること。 ラスピルを狙う敵対組織『閃光騎士団』、そして第一、第二王女を次期女王にのし上げようと策をめぐらせる貴族たち。 クリードは、敵対組織の刺客やラスピルに害をなす貴族を影から暗殺していく。 これは、暗殺者クリードが少女のために戦う物語。 心なき暗殺者の少年クリードは、血に染まりながら愛を知る。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

処理中です...