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「王妃さまじゃなかったのは残念だけど、あいつも幸せそうだったからな。皆で見送ったんだよ」
パールは驚いた。彼女の母は、いつも森を懐かしみ魂はいつも故郷に帰りたがっていた。父であっても、母に似なかったパールを見限った。森の民が持っているという力を受け継がなかったのもあるだろう。
「俺たちは閉じ込められているからな。外に出たがったあの子の夢が叶ってそりゃ嬉しかったもんよ」
そう嬉しそうに言われパールはうつむいた。
「私もいつかは外に行きたいの。パール、森の外はどんな世界なの?」
マリンが無邪気にパールに聞く。パールは限られた世界しか知らない、それを前置きにしてからマリンが眠りにつくまで話し続けた。
パールはツリーハウスの天井を見て、樹木が折り重なるように出来ているみぞの一つ一つを眺めた。
もしかしたら、ここで生きる未来もあったかもしれない。そうすればマリンのように明るく無邪気に何も考えずに生きることが出来ただろうか。
翌朝、森は騒がしかった。
昨日は姿を見せなかった大人たちが地面に降りて黒装束の集団を捕えていた。草木が体を拘束している。
彼らを捕えていた一人がパールを呼んだ。
マリンもパールと一緒に外へ出る。黒装束の覆面がむしり取られると、そこにはパールの見知った顔があった。乳母をしていた女性だった。
「パールちゃんを迎えに来たわけじゃなさそうだな」
彼らを囲んでいた大人の誰かが言うと、乳母はニヤリと笑った。
「王は忌々しい穢れた血を粛清することを望んでいる」
拘束された彼女がパールを傷つけることは出来なかったが、その心を傷つけることは感嘆だった。パールは、よろりとふら付いて、その場に座り込んでしまった。
森に踏み入ったことを怒られるのではなく、それを好機と考えて、暗殺を命じたのだ。父は。
パールは頭にもやもやと世界から色がなくなっていくのを感じた。
パールの肩を、誰かがぎゅっと抱きしめた。ちらりと視界にうつったのは自分とそっくりな少女の顔だった。
「お前らに気づかれるのは予想外だった。殺すなら殺せば良い」
「俺たちは人殺しじゃない。それにこの森の事で俺たちが知らないことなんてあるはずないだろう?」
「――……どうして」パールが言った。マリンが引き留めるのも聞かずに、パールは乳母に近づいていく。「あなただけは私の味方だったじゃない!」
「お嬢ちゃま――そんなことは一度だってありはしませんでしたよ。魔物の血が混じっている森の民などと王族が関わりを持つこと自体、私は反対だったんです。それをわざわざ子供までこしらえて」
「なんで! なんでよ!!」
パールが乳母を叩いた。しかしそれはとても弱々しいものだった。
「パール、後は大人に任せよう。おじさん、ソレ若木にするんだよね」
「そうだな。このまま帰したらまたパールちゃんを襲いに来るかもしれない」
パールはマリンの家に連れられた。マリンに『若木』の説明を求めると、マリンは無邪気に玄関から村を見下ろして言った。
「若木っていうのは、動物の肉体に『種』を植えて生き物を木の苗床にする事だよ。とても早く成長して大きく立派に育つの」
パールは驚いた。彼女の母は、いつも森を懐かしみ魂はいつも故郷に帰りたがっていた。父であっても、母に似なかったパールを見限った。森の民が持っているという力を受け継がなかったのもあるだろう。
「俺たちは閉じ込められているからな。外に出たがったあの子の夢が叶ってそりゃ嬉しかったもんよ」
そう嬉しそうに言われパールはうつむいた。
「私もいつかは外に行きたいの。パール、森の外はどんな世界なの?」
マリンが無邪気にパールに聞く。パールは限られた世界しか知らない、それを前置きにしてからマリンが眠りにつくまで話し続けた。
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もしかしたら、ここで生きる未来もあったかもしれない。そうすればマリンのように明るく無邪気に何も考えずに生きることが出来ただろうか。
翌朝、森は騒がしかった。
昨日は姿を見せなかった大人たちが地面に降りて黒装束の集団を捕えていた。草木が体を拘束している。
彼らを捕えていた一人がパールを呼んだ。
マリンもパールと一緒に外へ出る。黒装束の覆面がむしり取られると、そこにはパールの見知った顔があった。乳母をしていた女性だった。
「パールちゃんを迎えに来たわけじゃなさそうだな」
彼らを囲んでいた大人の誰かが言うと、乳母はニヤリと笑った。
「王は忌々しい穢れた血を粛清することを望んでいる」
拘束された彼女がパールを傷つけることは出来なかったが、その心を傷つけることは感嘆だった。パールは、よろりとふら付いて、その場に座り込んでしまった。
森に踏み入ったことを怒られるのではなく、それを好機と考えて、暗殺を命じたのだ。父は。
パールは頭にもやもやと世界から色がなくなっていくのを感じた。
パールの肩を、誰かがぎゅっと抱きしめた。ちらりと視界にうつったのは自分とそっくりな少女の顔だった。
「お前らに気づかれるのは予想外だった。殺すなら殺せば良い」
「俺たちは人殺しじゃない。それにこの森の事で俺たちが知らないことなんてあるはずないだろう?」
「――……どうして」パールが言った。マリンが引き留めるのも聞かずに、パールは乳母に近づいていく。「あなただけは私の味方だったじゃない!」
「お嬢ちゃま――そんなことは一度だってありはしませんでしたよ。魔物の血が混じっている森の民などと王族が関わりを持つこと自体、私は反対だったんです。それをわざわざ子供までこしらえて」
「なんで! なんでよ!!」
パールが乳母を叩いた。しかしそれはとても弱々しいものだった。
「パール、後は大人に任せよう。おじさん、ソレ若木にするんだよね」
「そうだな。このまま帰したらまたパールちゃんを襲いに来るかもしれない」
パールはマリンの家に連れられた。マリンに『若木』の説明を求めると、マリンは無邪気に玄関から村を見下ろして言った。
「若木っていうのは、動物の肉体に『種』を植えて生き物を木の苗床にする事だよ。とても早く成長して大きく立派に育つの」
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