[完結]彼女の居場所

夏伐

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 大人たちが林と呼ぶ、この山に俺たちは秘密基地を作った。
 山に通いたい俺とインドア派な幼馴染の、妥協点だ。

 それに秘密基地ってのは道に落ちてる長い木の枝(エクスカリバー)くらいに男ならテンションあがるだろ。

 幼馴染はしぶしぶと言った風にその提案に乗った。もう一人の仲間は、嬉しそうに微笑んだ。
 もう一人と俺を幼馴染は不気味そうに見つめていた。だが、それでも秘密基地については楽しそうだった。

 俺は楽しそうに基地を建築するもう一人――少女の楽しそうな笑みに口角を緩めた。



 俺の住んでいる所は、かなりの田舎だ。

 季節によっては熊の目撃情報だって多いし、イノシシくらいなら頻繁に畑に現れる。猟友会が身近で、動物と人間の生存競争を感じるくらいには緑に囲まれている。

 駅前は閑散としていて、車社会。近くのスーパーまで車で2時間。昔ながらの商店街に支えられて生きてる町だ。

 お盆で幼馴染が地元に帰ってきていると聞いた。
 俺はずっとこの町で、小さな会社に勤めてこうしてジジババネットワークでそういうプライベートは伝わってくる。

 そのまま保護者経由で話がついて、幼馴染と近くの居酒屋まで飲みに行くことになった。

 久しぶりに会うとはいえ、所詮は幼馴染だ。適当に洗濯してあったシャツとジーパンに着替えて、玄関でサンダルをひっかけた。

「じーちゃん、ばーちゃん、行ってくるから」

「おう」

「いってらっしゃい」

 祖父と祖母がそれぞれ俺を見送ってくれた。
 
 毎朝繰り返してる会話だ。帰りが遅くなっても問題ない、うちの玄関に鍵がかかっていたことなどありはしない。どこの家もそうだ。
 不審者を警戒している家は犬を外で飼っている。ただし、猛犬でないかぎり段々顔見知りになって吠えなくなってくる。だからあいつらはいわばよそ者警報機という役割になる。

 明るい月夜に待ち合わせした居酒屋まで行くと、顔なじみのジジィどもしかいないなかに、パリッとしたスーツを着こなし幾分か凛々しくなった幼馴染の姿があった。

 宇代裕二。

 生まれた時からの腐れ縁で、なんだかんだと仲が良い。
 ただそれも高校までで、奴は大学に進学、俺はそのまま就職。都会に行く同級生たちを見て、俺はただただ『おいていかれた』という気持ちを抱えることになった。

 そんな俺を置いていってしまった幼馴染は、たった数年で随分とこの田舎にそぐわなくなった。

「ゆーじ、久しぶりじゃん!」

 気持ちを隠すようにして笑顔を作った。スーツ野郎に話しかけると、向こうもパッと笑顔になる。
 その笑顔は間違いなく幼馴染のものだった。急にタイムスリップしたような感覚に陥る。

「久しぶり! 浩太も元気そうだね」

 彼は昔よりも少し気取ったように言った。
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