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0040 ペットに自然療法を!

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 大事な家族だからこそ、ペット用パワーストーン!

 そんなチラシを妻がテーブルに置いていた。うちは二匹の猫を飼っている。
 そんなまさかの話だ。

 18歳になったら気を付けるものの筆頭が、マルチ、宗教、闇バイトじゃないか!
 妻は神妙な顔をして、複雑な表情を浮かべているだろう私の顔を見つめる。

「みるくママがね、猫の食事をヴィ―ガンにすると良いって」

「うん」

 みるくママとは近所に住んでるラブラドールレトリーバーである、みるくちゃんの飼い主の事だ。
 こういうのは否定しちゃいけない、そう聞いたが、私は言葉を飲み込むので精一杯だった。

 思えば、良くも悪くも妻は純粋な人だった。

「うちの子はササミが好物だから、ストレスになるわって断ったら、これ!」

「う、うん」

 動物性たんぱく質をとらないって話からパワーストーンになったの!?

「なんか分かんないけど、良い波動が出てるって」

 そして小さな透明な石がたくさん入った皿を「じゃじゃーん」ととりだした。

「買っちゃったの?」

「うん! 石を浄化する用の石?なんだって」

 チラシには「さざれ水晶」と書いてある。
 良くも悪くも妻は純粋な人だった。

「他にもおすすめされたけど、あなたのお小遣いより高かったから……」

「ありがとう! うちの猫たちには石よりチュールだよな」

 悲しい気遣いに感謝しつつ、もう石なんかを買わないように遠回しに釘を刺した。

「そうそう!!」

 妻はじゃらじゃらと水晶の山を掘りだした。
 中から赤いパッケージが見える。

「チュール!!」

「埋めてたんだ!」

「浄化したチュールを上げれば万事解決じゃない?」

 妻は笑みを浮かべた。
 騙されやすい彼女だが、こんな変な結論と結果にたどりつくことが多い。

「猫たちにはそれが一番だ」

 私が笑うと妻も笑う。

「私たちが幸せじゃなきゃ猫も幸せにできないもんね」

 こういうセリフをさらりと口にできる。妻のこういうところが、私はとても大好きだ。
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