[完結]侵食

夏伐

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侵食

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今の会社に勤めて5年目、結婚しマイホームを購入した。
40年ローン、夢の持ち家だ。

だが、それを会社で話してしばらくしてから地方に転勤することになってしまった。

妻と話し合い、家は友人夫婦に貸し出すことにした。
そして二人で地方で生活する道を選んだ。

それが間違いだったのかもしれない。

私は判の押された離婚届に自分の名前を記入しながら思い返す。



地方の水が合わなかったのか、専業主婦という環境が妻に合わなかったのかは分からない。



だがある時から妻は、家中をひっくり返して盗聴器やカメラを探したり、電磁波攻撃をされているとして自分のスマホを叩き割ったりし始めた。


私は仕事も休むわけにはいかなかったし、妻と相談し、彼女は実家で療養することになった。

義父は悪化していく妻の状態に、困惑を隠せないようだったが、病院への長期入院の際に判を押した離婚届を私に渡した。
しばらくは私も通っていたし、その離婚届を出すことはしないだろうと適当に本棚に差し込んだ。



妻が退院してから妻の実家の様子がおかしくなっていった。

初めは玄関先から迎え入れてくれた義母が家に入られるのを異様に嫌がるようになったくらいで私も気にしていなかった。

だが、今や妻の実家は窓という窓が新聞紙が貼り付けられ、庭には有刺鉄線が張り巡らせてある。
今では近所中から監視されていると言って家から出れないらしい。

もう近づけなくなってしまった。

妻の姿も見ることはなくなった。

それでも半年に一度、遠くから妻の実家の様子を見ていた。




最近になって、恐ろしくなってしまい今日ついに離婚届を提出することにした。

妻の実家から段々と窓を板で塞いだり、家に大量の張り紙がされていたりと段々と様子のおかしな家が増えていっているのだ。

私はその事に気づいた時から妻の実家へ行くことが出来なくなった。



それに、何年も独身のような生活を続けていたことで、周囲には離婚したと思われていたようで現在付き合っている彼女がいる。

彼女には妻のことは話していない。

この離婚届を出したとして、私はその彼女と結婚しないだろう。



彼女は転勤先の地方が地元の子だ。

また私の地元に引っ越したとして、彼女が妻のようになるのではないか。

現に今、彼女は必死に『防御策』として私の頭にアルミホイルを巻いている。
私も彼女の為に既に5Gスマホは解約してガラケーを使用している。
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