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5 目覚め
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そうして一年が過ぎて、リアムが学園を卒業する年になった。それまでも婚約者としてないがしろにされ続けてきたローズマリーも、公的な場でしっかりとパートナーとしての体面を必死に守ろうとしてきた。
卒業パーティでは、パートナーとして招待されていたはずの彼女は会場への入場を最後に壁の花となっていた。これもいつもの事で、ローズとリアムの不仲は貴族たちの嘲笑の的だった。
僕は砕け散りそうなローズの心をそっと守っていた。楽しかった幼い頃のマリーとの思い出や母との暖かい思い出。起きれば忘れてしまうと分かっていても幸せな夢を見せることだけが、見守る事しかできない僕に出来ることだった。
本当に心が潰れる時は僕がギリギリで彼女を保護できるように昼夜を問わず見守っていた。
ローズマリーにはまだ何か希望があるようで、ギリギリの所で踏みとどまっていた。それが何かは僕には理解できなかったが、そのおかげで彼女は自棄にならずひたすらに耐えることが出来ているようだった。
その卒業パーティでローズマリーが断罪されるまでは――。
「ローズマリー・フォン・ウィスタリア、この悪女め。貴様がリリー・ジギタリス令嬢に嫉妬し数々の嫌がらせをしていることは分かっている。皇子妃の位に欲が出たな」
周囲が注目する中、二人は寄り添うように立っていた。会場の真ん中で、一人孤立したローズマリーは小さく震えながらリアムの言葉を聞いていた。
皇子の後ろにはさらに数人の高位貴族の子息や令嬢たちが立っており、それぞれがありもしない証拠を持っていると主張した。
「あまつさえリリーを暴漢を雇い、彼女を襲わせようとしたことは分かっている」
一人の体格の良い少年が、ローズを睨みつけた。
「リリーさまが路地に連れ込まれる寸前で俺が友人たちと共に助け出しました」
「私はローズマリーさまがリリーさまを階段から突き落とそうとした所を目撃しました。私が駆け寄り未遂で済みましたが、これは明らかな殺人行為です!」
さらに一人の令嬢が一歩踏み出した。
僕は知っている。ローズはそんな事はしていない。
リアムは感情のこもっていない瞳でローズを見つめた。
ローズは一瞬、呆気にとられたものの、淡々と言葉を返す。
「身に覚えがありません」
罪を認めないローズの手を後ろ手にひねるようにして、騎士が彼女を床に伏せさせる。
ドレスがふわりと床に広がる。リアムはもう覚えていないだろうが、これは最後に彼がローズに送ったドレスだった。
火傷が回復して最初のパーティに義務的に送られたドレスと宝飾品。それをローズはあえて着てきたのだった。
「私は何もしておりません」
「気安く名前を呼ぶな、ウィスタリア嬢! 既に証拠は揃っている。父上にも報告した。忌々しいお前との婚約も今日この日を最後に破棄される」
婚約破棄という言葉に、ローズは俯いた。瞳が揺れ、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。体が震えているのは悲しみのせいなのか、ひねられた腕が痛むからか、はたまたその両方か。僕には分からなかった。
「それは……本当ですか」
「既に公爵家にも文を送っている。お前のような人間が国を支えられるなんて本気で思っていたのか?」
リアムの隣でリリーがニヤリと笑っていた。中庭で見た時からローズマリーに喧嘩を売ってきていた嫌な女だ。
涙を流すローズマリーの顔を見て、周囲の貴族たちも「そんなに皇子妃にしがみついているのか」と笑っていた。
どこにも味方はなく、家族はそもそも彼女を見向きもしない。
「……ケルゥ……」
彼女が小さく僕の名を呼んだ!
――ローズ、大丈夫。これは悪い夢だよ。
僕の声にローズがはっとしたのを感じ取り、僕は彼女を眠らせた。起きていてもローズが傷つくだけだ。
まず、僕はローズを押さえている騎士を魔法で弾き飛ばした。大人の男性を弾き飛ばした非力な少女に、周囲の視線は一気に困惑へと変わった。
卒業パーティでは、パートナーとして招待されていたはずの彼女は会場への入場を最後に壁の花となっていた。これもいつもの事で、ローズとリアムの不仲は貴族たちの嘲笑の的だった。
僕は砕け散りそうなローズの心をそっと守っていた。楽しかった幼い頃のマリーとの思い出や母との暖かい思い出。起きれば忘れてしまうと分かっていても幸せな夢を見せることだけが、見守る事しかできない僕に出来ることだった。
本当に心が潰れる時は僕がギリギリで彼女を保護できるように昼夜を問わず見守っていた。
ローズマリーにはまだ何か希望があるようで、ギリギリの所で踏みとどまっていた。それが何かは僕には理解できなかったが、そのおかげで彼女は自棄にならずひたすらに耐えることが出来ているようだった。
その卒業パーティでローズマリーが断罪されるまでは――。
「ローズマリー・フォン・ウィスタリア、この悪女め。貴様がリリー・ジギタリス令嬢に嫉妬し数々の嫌がらせをしていることは分かっている。皇子妃の位に欲が出たな」
周囲が注目する中、二人は寄り添うように立っていた。会場の真ん中で、一人孤立したローズマリーは小さく震えながらリアムの言葉を聞いていた。
皇子の後ろにはさらに数人の高位貴族の子息や令嬢たちが立っており、それぞれがありもしない証拠を持っていると主張した。
「あまつさえリリーを暴漢を雇い、彼女を襲わせようとしたことは分かっている」
一人の体格の良い少年が、ローズを睨みつけた。
「リリーさまが路地に連れ込まれる寸前で俺が友人たちと共に助け出しました」
「私はローズマリーさまがリリーさまを階段から突き落とそうとした所を目撃しました。私が駆け寄り未遂で済みましたが、これは明らかな殺人行為です!」
さらに一人の令嬢が一歩踏み出した。
僕は知っている。ローズはそんな事はしていない。
リアムは感情のこもっていない瞳でローズを見つめた。
ローズは一瞬、呆気にとられたものの、淡々と言葉を返す。
「身に覚えがありません」
罪を認めないローズの手を後ろ手にひねるようにして、騎士が彼女を床に伏せさせる。
ドレスがふわりと床に広がる。リアムはもう覚えていないだろうが、これは最後に彼がローズに送ったドレスだった。
火傷が回復して最初のパーティに義務的に送られたドレスと宝飾品。それをローズはあえて着てきたのだった。
「私は何もしておりません」
「気安く名前を呼ぶな、ウィスタリア嬢! 既に証拠は揃っている。父上にも報告した。忌々しいお前との婚約も今日この日を最後に破棄される」
婚約破棄という言葉に、ローズは俯いた。瞳が揺れ、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。体が震えているのは悲しみのせいなのか、ひねられた腕が痛むからか、はたまたその両方か。僕には分からなかった。
「それは……本当ですか」
「既に公爵家にも文を送っている。お前のような人間が国を支えられるなんて本気で思っていたのか?」
リアムの隣でリリーがニヤリと笑っていた。中庭で見た時からローズマリーに喧嘩を売ってきていた嫌な女だ。
涙を流すローズマリーの顔を見て、周囲の貴族たちも「そんなに皇子妃にしがみついているのか」と笑っていた。
どこにも味方はなく、家族はそもそも彼女を見向きもしない。
「……ケルゥ……」
彼女が小さく僕の名を呼んだ!
――ローズ、大丈夫。これは悪い夢だよ。
僕の声にローズがはっとしたのを感じ取り、僕は彼女を眠らせた。起きていてもローズが傷つくだけだ。
まず、僕はローズを押さえている騎士を魔法で弾き飛ばした。大人の男性を弾き飛ばした非力な少女に、周囲の視線は一気に困惑へと変わった。
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