【完結】注目リスク

夏伐

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呪わば二つ

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 家の近所に丑の刻参りで有名な神社がある。
 わら人形に憎い相手に見立てて、五寸釘で木に打ち付ける。
 そんな有名な『呪い』だ。

 そんなもので地元が有名になっては困ると、地域の住民総出で見回りをして、わら人形を撤去し続けた。だが、どこからか噂が流れているのか、丑の刻参りは続いていた。

 俺も手伝いに駆り出されては、神社の敷地内の木に深く打ち込まれたわら人形を外していた。

「最近、有名人多いっすね」

 今までは浮気相手なんだかライバルなんだか分からない個人の名前や写真ばかりだった。だが、最近はテレビで見たりインフルエンサーだったりが増えてきた。

「まあ、目立つやつは叩きたいっていうのが本心なんじゃないか?」

「丑の刻参りするほどってよっぽどですよ。今時わら人形だってメリカリで買えるけどわざわざ金かけてやるかね」

「メリカリは何でも買えるなぁ」

 ははは、と近所の人とわら人形の収穫をして、いつものように神主に見せた。
 丑の刻参りの呪いに効き目があるのかどうかはさておき、月に一度どんと焼きのような形でまとめて処分している。

 今週分のわら人形を見た、神主さんは困った表情を急にこわばらせた。

「またこの人か」

 有名人の写真が貼られたわら人形を忌々しそうに見つめる。
 言われてみれば、他のわら人形とは違い、不格好ながらも飾り結びで装飾が施されている。

 それも首に何かを巻きつけたり、足を変な方向に折ってみたり。
 色んな有名人の名前、写真で様々な形のわら人形があるが、その不思議な結び方は共通していた。

「人気な分だけアンチも多いんじゃないですか?」

 俺の言葉に、神主さんはギッとわら人形を見つめる。
 そして次に神主さんは、集まった住民の一人一人と目を合わせるようにして、

「こんな方法しかとれなかった可哀想な人もいるかもしれないが、このわら人形を打ち付けた人たちに同情すべき人なんていないんです。こえちゃいけない一線ってのはあるんですよ」

 わら人形の受け渡しが終わり、みんな何も言わずにそれぞれの家路についた。

 神主さんの言葉に、俺はのどがぎゅっと締め付けられるような気持ちになった。
 今までただのゴミだと思っていたわら人形から強い悪意を感じる。

 それからも俺はわら人形を回収している。
 神主さんの言葉で気づいてから、飾り結びのわら人形が目に付くようになった。

 よく見れば、その結び方も少しずつ変わっていく。手作りゆえに歪な形をしていると思い込んでいたが、それは足を折ったり腕を捻じ曲げたり首を折ったり、成就させたい呪いの完成形をあらわしているようだ。

 そして標的となっているのも、ニュースに出てきて話題になった人、最近SNSでバズった人、共通なのは『注目されている』ことだけ。

 俺はあの日、神主さんが帰り際に呟いた一言が忘れられずにいる。みんなも聞いていたと思うが、誰もその話をすることはなかった。
 聞いていなかった、そういうことにしたいんだ。

「有名人なら、呪いの結果がすぐに分かるからね。」
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