[完結]星世界

夏伐

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「渡さん、ごはんできたよ」
「ありがとう、テラ」
「冗談だったから寺田でいいんだけど……」
「寺田でもテラでもどっちでもいいよ。中身が変わるわけじゃないんだから、ね、テラ」

 私がニヤリと微笑むと、彼は、

「渡さんには勝てないなぁ」

 少し照れたように俯いた。
 テラが作ってくれた野菜の煮物は、とてもシンプルな味だった。
 素材と塩の味。
 調味料がないのだから仕方ない。せめて出汁さえあれば、と思うが贅沢は言えない。
 少ししょっぱいのが体に染みわたる気がする。

「塩分をちゃんととらないとね」

 彼が笑う。私の体調を気にしてくれたのだろうか、少し嬉しい。

「そういえば――、鞄に入っていた研究資料を見れば、私がどこから来たのか分かる、かもしれない」

 野菜を箸で崩しながら私は呟いた。
 テラは頷いて微笑んだ。

「帰れるなら帰った方がいいよ。ここは終わった世界だから」
「テラはどうして一人残っているの?」
「僕も気づいたらここにいたんだ、渡さんと一緒。何でここにいるのかの記憶はなかった」
「そうなんだ……。もし私がどこかに帰れることになったらテラも一緒に行こうよ、きっと誰かいるはずだし」
「そうだね。しなければいけないこともないしね」

 ゆっくりと食事をしながら、テラにこの世界の事を聞いた。
 この世界、少なくともここから陸地は学校から見渡せる街一つしかないらしい。他は海に侵食されて、水底に埋もれてしまっている。
 テラは私と同じく、高台の研究所からやってきたという。
 そしてこの島になった世界について調べていた。
 ここはたまたま標高が高い所に作られた、もしくは海から逃げるようにして作られた都市らしい。
 そして植物と虫の関係を見るに、テラの記憶と合致しない部分がある。生態系としておかしいのだ。
 虫が受粉させ、植物は実をつける。
 そんな当たり前の光景がこの島には存在しない。
 それにこの島には四季がない。常に夏のような時期がずっと続く。もう何年もテラはここにいるそうだ。
 彼のつけているソーラー式の時計に表示されるカレンダーでは十二月を指していた。それでも常に夏であるおかげで食料は何とかなっている。悪いことばかりじゃない、とテラは笑った。

「もう島中全て探したんだ。海位は上がってきているし、どんどんエリアは少なくなっているけれど。電波もなければ、電気もない、ラジオや無線もダメ」

 そして彼は私の瞳を吸い込まれるようにして見つめた。

「でも、君が来た。渡さん、君は希望なんだよ」
「私が?」
「君は高台の研究所から来たと言った。僕は何回もあそこに行っているが人の形跡を見た事はない。君は突然あの場所に現れたんだ。この謎が解ければ、人を見つけられるかもしれない!」
「そのヒントが、これね!」

 私は鞄から『渡 未来』名義の研究資料ファイルを取り出した。

「並行、宇宙……研究」
「パラレルワールドについての研究みたいだね」

 テラが苦笑いする。
 そんな夢物語のようなものを『私』は研究していたのだろうか。
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