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でも、それではダメだ。私が、私だけが助けられる――。
伸ばした手が空を掴む。
確実につかめたと思ったのに、そう思い目を閉じる。
反射的に私は目を開いた。
伸ばした手は太陽を掴もうとしていた。
起き上がり、周囲を見渡す。焚き火の燃え尽きた後があり、テントがあり、洗濯物を干したり、テラはここを生活の拠点としていたようだ。
私は、テントの中をのぞき込んだ。
ぐっすりと眠る青年の姿があった。太陽の位置を見る限り、今はきっと午前中だ。八時くらいかな、と感じる。それも私の記憶の世界と同じものであれば、の話だが。
私はどうやら暑さのあまり起きてしまったようだ。
「テラ、」
話しかけても深い眠りに落ちてしまったような彼はピクリとも反応しない。私はこの廃学校の主を放って、学校内を見まわることにした。
何となく、懐かしいと感じたからだ。
どうせテラは起きていない。
校内は蒸し暑いものかと思っていたが、全ての窓が割れていて結果的に風通しがよく、日陰のおかげでひんやりとしていた。
緑の黒板はひび割れ、日直の名前が掠れているが読めるものもあった。
この世界の人間、動物は、明日があると思って、そして来なかったのだろう。そして、私やテラが目を覚めすまで風雨に晒され、永遠にもなる眠りについていた。
どうしてか、世界の眠りを横で見ていると、私たちがここにいるのには意味があるのか。それともないのか。そういう発想に飛び火してしまう。
屋上に戻ると、既にテラは起きていたようでキョロキョロと何かを探し回っていた。
「どうしたの?」
「良かった……。本当にいたんだ」
「私を探してたの?」
「もう何年も一人だったから、てっきり夢か幻覚かもしれないと思って……」
私は屋上の一角を指さした。
「鞄があるじゃない」
「あ、本当だ」
私は呆れてテラを見た。
彼は照れて、そそくさとまた火を起こした。夜は気づかなかったが、薪のようなものが常備されていた。
「私も何か手伝うよ」
「お腹すいてるだろ、任せといて。まぁそんな美味しくはないけど」
手際よく野菜を切り刻んで鍋に放り込む。水に荒い塩を入れて簡単に味を調える。ぐつぐつと煮える鍋を見ていると、私のお腹は音を立てて空腹を主張する。
「あ……」
「もうちょっとだから待ってて」
テラが微笑みながら、鍋をかき回す。ジリジリと上から照らしてくる太陽と、目の前にある火から頭がふらふらした。
「テントの横に水があるよ」
私の様子を見て、テラが言った。
大人しくその言葉に従う。テントの横には何度も使いまわしているのだろうペットボトルがいくつもあった。
「渡さん、はい」
テラが古びたマグカップを私に放り投げる。
「うわっ……と!」
焦りながらも何とか受け取った。割れたらどうするつもりだ、とテラを見ると、彼は悪戯っぽく微笑んでいた。
そのマグカップはひび割れていて口に欠けている部分があった。
水を入れて、がぶがぶと飲み干した。
一リットルくらいは飲んだと思う。思えば、ずっと水を飲んでいなかった。
その様子を見て、テラはまた一つまみの塩を鍋に入れた。
「……生き返ったぁ……」
何だか思考もスッキリした。
脳みそのコストパフォーマンスが著しく下がっていたのだな、と今なら分かる。本当に危なかった。私にサバイバルは向いていない。
伸ばした手が空を掴む。
確実につかめたと思ったのに、そう思い目を閉じる。
反射的に私は目を開いた。
伸ばした手は太陽を掴もうとしていた。
起き上がり、周囲を見渡す。焚き火の燃え尽きた後があり、テントがあり、洗濯物を干したり、テラはここを生活の拠点としていたようだ。
私は、テントの中をのぞき込んだ。
ぐっすりと眠る青年の姿があった。太陽の位置を見る限り、今はきっと午前中だ。八時くらいかな、と感じる。それも私の記憶の世界と同じものであれば、の話だが。
私はどうやら暑さのあまり起きてしまったようだ。
「テラ、」
話しかけても深い眠りに落ちてしまったような彼はピクリとも反応しない。私はこの廃学校の主を放って、学校内を見まわることにした。
何となく、懐かしいと感じたからだ。
どうせテラは起きていない。
校内は蒸し暑いものかと思っていたが、全ての窓が割れていて結果的に風通しがよく、日陰のおかげでひんやりとしていた。
緑の黒板はひび割れ、日直の名前が掠れているが読めるものもあった。
この世界の人間、動物は、明日があると思って、そして来なかったのだろう。そして、私やテラが目を覚めすまで風雨に晒され、永遠にもなる眠りについていた。
どうしてか、世界の眠りを横で見ていると、私たちがここにいるのには意味があるのか。それともないのか。そういう発想に飛び火してしまう。
屋上に戻ると、既にテラは起きていたようでキョロキョロと何かを探し回っていた。
「どうしたの?」
「良かった……。本当にいたんだ」
「私を探してたの?」
「もう何年も一人だったから、てっきり夢か幻覚かもしれないと思って……」
私は屋上の一角を指さした。
「鞄があるじゃない」
「あ、本当だ」
私は呆れてテラを見た。
彼は照れて、そそくさとまた火を起こした。夜は気づかなかったが、薪のようなものが常備されていた。
「私も何か手伝うよ」
「お腹すいてるだろ、任せといて。まぁそんな美味しくはないけど」
手際よく野菜を切り刻んで鍋に放り込む。水に荒い塩を入れて簡単に味を調える。ぐつぐつと煮える鍋を見ていると、私のお腹は音を立てて空腹を主張する。
「あ……」
「もうちょっとだから待ってて」
テラが微笑みながら、鍋をかき回す。ジリジリと上から照らしてくる太陽と、目の前にある火から頭がふらふらした。
「テントの横に水があるよ」
私の様子を見て、テラが言った。
大人しくその言葉に従う。テントの横には何度も使いまわしているのだろうペットボトルがいくつもあった。
「渡さん、はい」
テラが古びたマグカップを私に放り投げる。
「うわっ……と!」
焦りながらも何とか受け取った。割れたらどうするつもりだ、とテラを見ると、彼は悪戯っぽく微笑んでいた。
そのマグカップはひび割れていて口に欠けている部分があった。
水を入れて、がぶがぶと飲み干した。
一リットルくらいは飲んだと思う。思えば、ずっと水を飲んでいなかった。
その様子を見て、テラはまた一つまみの塩を鍋に入れた。
「……生き返ったぁ……」
何だか思考もスッキリした。
脳みそのコストパフォーマンスが著しく下がっていたのだな、と今なら分かる。本当に危なかった。私にサバイバルは向いていない。
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