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1 目覚め
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掴もうとした手がすり抜けた。
そもそも届く距離にはなかったのかもしれない。
嫌いだ、と何度言っていた。でも、隣にいるのが当たり前だった。
私は暗闇の中で目を覚ました。
固い地面で体が痛い。私はどうしてここにいるのか、頭を押さえて周囲を見渡した。どこか無機質で冷たい雰囲気の場所だった。
「いたっ……」
何かの破片が手の平に食い込んだ。
血は出ていないようだ。私はとにかく外に出ることにした。薄明りの中、横に落ちていた鞄を拾う。
光に惹かれるようにして、壊れたドアの隙間をこじ開ける。
そこは街を見下ろす高台にある建物のようで、明かりのない建物のシルエットが地面にじっとりとした影を作り出している。月明りに照らされた海が星明かりを反射していた。
煌めく星空を見上げながら、私はフラフラと外階段を降りていった。金属でできた階段は所々錆びていて、色が剥げている。
心地よい風が吹いていた。私は上着を脱ぐ。今はきっと夏なのだろう、冷たい風を感じるものの気温は高く不快な気分になった。
それなのに私は分厚い上着を羽織っていた。
薄い七分丈のシャツが汗でペタペタと体に張り付いていた。
どこか眠れる場所を探さなければ、人はどこにいるのだろう、私はどうしてここにいるのだろう。様々な不安が私を襲うが、何かをしなければならないという使命感に突き動かされるように歩を進めた。
結局、階段を降りた先にある民家の二階で夜を明かした。
畳は初め目を覚ました場所よりもずっと快適な睡眠を維持できた。
暑さで跳ね起きると、やけに喉が渇く。頭がだるい。
汗をかいたのに水分を取っていなかった。脱水症状のようなものが急に心配になる。民家の台所を探して、水道のレバーを回した。回していくにつれてレバーの重みは少なくなるが、期待した水は一滴も出てこなかった。
夜見た時、電気はついていなかった。
水道も廃れているのだろう。頭を抱えていると、ぐうぅ、とお腹が鳴った。戸棚や、シンク下などを探したが、民家には食料は一つもなかった。あるのは黒くしなびた元の姿が分からない塊だけだった。
私はとにかく水と食料を確保するために、人の気配のない街を歩くことにした。
スーパーがあればきっと缶詰やミネラルウォーターがあるはずだ。
崩壊した街を歩く。
覚えてはいないが、既視感がある。夢で見たような、そんなあやふやな物ではあったが、突き動かされるように歩を進めるとすぐにスーパーが見つかった。
ぽっかりと抉れた地面が海に沈んでいる。
そこからにょっきりと、多分私の馴染みのスーパーの看板が生えていた。
私はすぐにその場を後ずさりして、また別の店を探すことにした。
コンビニや民家を見て回り、ほんの少しの食料を手に入れる。カップ麺をそのままガリガリとかみ砕いた。
次、いつまともな食べ物が手に入るか分からない状態で、賞味期限など気にしてはいられなかった。視界に入ってしまえば気になってしまうので、そもそも確認しない。大体、今日が何年の何月であるかさえ私には分からない。
歩き回り、既に日は暮れていた。
私の頭に降りてくるような星空が、お前は一人なんだと叫ぶ。目が覚めてから、犬や猫、鳥も見かけなかった。思い返せば海にも魚がいなかった気がする。夏であるというのに蚊に襲われることもなかった。
とにかくどこか眠れる場所を探さなければならない。
遠く何か不思議なものを見た気がした。
その違和感に気づいた時、私は走り出していた。
数階建ての建物の屋上に光があった。この星明かりに照らされるばかりで自らは発光することのなかった地上に、一点の光があった。
そもそも届く距離にはなかったのかもしれない。
嫌いだ、と何度言っていた。でも、隣にいるのが当たり前だった。
私は暗闇の中で目を覚ました。
固い地面で体が痛い。私はどうしてここにいるのか、頭を押さえて周囲を見渡した。どこか無機質で冷たい雰囲気の場所だった。
「いたっ……」
何かの破片が手の平に食い込んだ。
血は出ていないようだ。私はとにかく外に出ることにした。薄明りの中、横に落ちていた鞄を拾う。
光に惹かれるようにして、壊れたドアの隙間をこじ開ける。
そこは街を見下ろす高台にある建物のようで、明かりのない建物のシルエットが地面にじっとりとした影を作り出している。月明りに照らされた海が星明かりを反射していた。
煌めく星空を見上げながら、私はフラフラと外階段を降りていった。金属でできた階段は所々錆びていて、色が剥げている。
心地よい風が吹いていた。私は上着を脱ぐ。今はきっと夏なのだろう、冷たい風を感じるものの気温は高く不快な気分になった。
それなのに私は分厚い上着を羽織っていた。
薄い七分丈のシャツが汗でペタペタと体に張り付いていた。
どこか眠れる場所を探さなければ、人はどこにいるのだろう、私はどうしてここにいるのだろう。様々な不安が私を襲うが、何かをしなければならないという使命感に突き動かされるように歩を進めた。
結局、階段を降りた先にある民家の二階で夜を明かした。
畳は初め目を覚ました場所よりもずっと快適な睡眠を維持できた。
暑さで跳ね起きると、やけに喉が渇く。頭がだるい。
汗をかいたのに水分を取っていなかった。脱水症状のようなものが急に心配になる。民家の台所を探して、水道のレバーを回した。回していくにつれてレバーの重みは少なくなるが、期待した水は一滴も出てこなかった。
夜見た時、電気はついていなかった。
水道も廃れているのだろう。頭を抱えていると、ぐうぅ、とお腹が鳴った。戸棚や、シンク下などを探したが、民家には食料は一つもなかった。あるのは黒くしなびた元の姿が分からない塊だけだった。
私はとにかく水と食料を確保するために、人の気配のない街を歩くことにした。
スーパーがあればきっと缶詰やミネラルウォーターがあるはずだ。
崩壊した街を歩く。
覚えてはいないが、既視感がある。夢で見たような、そんなあやふやな物ではあったが、突き動かされるように歩を進めるとすぐにスーパーが見つかった。
ぽっかりと抉れた地面が海に沈んでいる。
そこからにょっきりと、多分私の馴染みのスーパーの看板が生えていた。
私はすぐにその場を後ずさりして、また別の店を探すことにした。
コンビニや民家を見て回り、ほんの少しの食料を手に入れる。カップ麺をそのままガリガリとかみ砕いた。
次、いつまともな食べ物が手に入るか分からない状態で、賞味期限など気にしてはいられなかった。視界に入ってしまえば気になってしまうので、そもそも確認しない。大体、今日が何年の何月であるかさえ私には分からない。
歩き回り、既に日は暮れていた。
私の頭に降りてくるような星空が、お前は一人なんだと叫ぶ。目が覚めてから、犬や猫、鳥も見かけなかった。思い返せば海にも魚がいなかった気がする。夏であるというのに蚊に襲われることもなかった。
とにかくどこか眠れる場所を探さなければならない。
遠く何か不思議なものを見た気がした。
その違和感に気づいた時、私は走り出していた。
数階建ての建物の屋上に光があった。この星明かりに照らされるばかりで自らは発光することのなかった地上に、一点の光があった。
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