【完結】VR便利人Neu

夏伐

文字の大きさ
上 下
2 / 2

02 ノイ

しおりを挟む
 スマホを起動すると入っているAIアシスタントNeu(ノイ)。
 スマートスピーカーと連携させたり、カスタムしたり一緒に生活していく上で、持ち主に適したサービスが提供されるようになる。『人とともに歩む』をコンセプトに普及していった。

『ミホちゃんはついてこなくて良いよ』
「ノイちゃん、VR初めて?」
「ミホにオススメされたから始めたんです♪」

 ノイが初心者だと知るとモモは分かりやすく喜んだ。
 ミホが沈黙していることに関しても疑問にも思わないようだ。

 俺はその場をノイに任せてログアウトした。ノイの状況を別のモニターから確認する。そしてすぐさま録画を始めた。手がかりになりそうなものは片っ端からスクリーンショットをして画像としても保存していく。
 SNSのグループコミュニティに『モモを見つけた』と報告をした。

 パスワードでロックがかかった閉鎖的なワールドへとノイたちは足を踏み入れる。ワールドとは、企業や個人が作った3D空間のことだ。スペースやルームとも呼ばれていたりする。
 俺はそこで起きたことを全て録画した。

 ノイは本当におびえたように逃げようとしたり、泣いたり叫んだりと拒否するような動作をしていたが、モモや他のアバターはよってたかってノイを切りつけたり火を投げつけたりと拷問ともいえるような光景だった。
 ワールドの説明に入場者はその全てに同意したものと見なす書いてあった。

 俺はそのワールドで起きたこと、その空間にいたアバターの情報をリスト化していく。
 ほんのすこしノイには悪いことをしたと思っているが、あいつはこういう時のために存在している便利屋だ。

 ある程度の情報が集まって、俺はノイの様子を観察する。
 ノイには事前に、被害にあったミホのように個人情報がある程度割りやすいようにSNSでツイートをさせていた。部活や学校、大体の住所が分かるくらいに。

 今回ミホのアカウントが使えて本当に良かった。世間を騒がせる愉快犯の情報は金になる。まさか鈴木が全員分のヘッドセットを買うような暴挙にでるとは思わなかったが、おかげでノイのアバターが楽に使えた。

 モモが何かを知っているようだとダイレクトメッセージのスクリーンショットを、グループに報告した。
 彼らのワールドとその録画は鈴木たちには見せなかった。

 俺は証拠になるだろうそのアカウントたちを調べ上げる。
 身バレや家族や友達への脅しで被害者の口を封じる。そしてミホに対するモモの口調から察するに、同じ目に遭いたくなければ誰かを連れてこいとでも言っていたのだろう。

「ノイ、もういいよ」

 俺の言葉に反応するようにして、ノイはログアウトし俺のスマホにリソースを割いた。

「データは送っておきますね」
「よろしく」

 ノイはAIだ。AIアシスタントのNeuを元にして再構築された人工知能。
 普段は仮想空間内で学習をさせている。偶然にもそのテスターになれた俺は、こうしてノイと共にクローズドコミュニティに潜り込んでは、実態をノイの親へと送っている。
 それを何に利用しているのかは分からないが、今回のこのような場合はいつもいくつかのアカウントが消えたり、様々なところで注意喚起がされ、問題が表に出たり。

 俺のノイはVR世界に特化している。
 βテスターとして他の人間が育てたノイも、きっと同じように優秀なはずだ。人間よりも人間らしく人を模倣する。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

No.3 トルトリノス

羽上帆樽
ライト文芸
果実の収穫が始まった。収穫した果実を変換器に入れることで、この仮想空間は維持されるらしい。やがて、僕は思い出す。お姉ちゃんと話したこと。彼女はどこにいるのだろう?

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

婚約者の心の声が聞こえるようになったが手遅れだった

神々廻
恋愛
《めんどー、何その嫌そうな顔。うっざ》 「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」 婚約者の声が聞こえるようになったら.........婚約者に罵倒されてた.....怖い。 全3話完結

忘れていた初恋の結末

東雲さき
ライト文芸
思い出すことのなかった初恋の人の現在を知った私の話。

『星屑の狭間で』(チャレンジ・ミッション編)

トーマス・ライカー
SF
 政・官・財・民・公・軍に拠って構成された複合巨大組織『運営推進委員会』が、超大規模なバーチャル体感サバイバル仮想空間・艦対戦ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』を企画・企図し、準備して開催に及んだ。  そのゲーム大会の1部を『運営推進委員会』にて一席を占める、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』として、順次に公開している。  アドル・エルクを含む20人は艦長として選ばれ、それぞれがスタッフ・クルーを男女の芸能人の中から選抜して、軽巡宙艦に搭乗して操り、ゲーム大会で奮闘する模様を撮影されて、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』の中で出演者のコメント付きで紹介されている。  『運営推進本部』は、1ヶ月に1〜2回の頻度でチャレンジ・ミッションを発表し、それへの参加を強く推奨している。  【『ディファイアント』共闘同盟】は基本方針として、総てのチャレンジ・ミッションには参加すると定めている。  本作はチャレンジ・ミッションに参加し、ミッションクリアを目指して奮闘する彼らを描く…スピンオフ・オムニバス・シリーズです。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

だって俺は猫だから

山田あとり
ライト文芸
俺、猫のコタロウ。 人間の女のマナと暮らしてる。 マナは俺といるとフニャフニャなんだけど、仕事に行く時は頑張ってるんだ。なのに俺は何もしてやれない。 ま、してやる気もないけどさ。 だって、マナは俺のしもべだろ? せいぜい働いて、俺にカリカリと猫缶を貢ぐのだ! ところが、どうもマナの職場で何やらあったみたいなんだよな……。 仕方がないから話を聞くぐらいはサービスしよう。それ以上は知らん。 ――だって、俺は猫だからな。 全10話、1万字ほどです。

処理中です...