【完結】伝えてください

夏伐

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3 途絶

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☆屋敷にて

 先生、引っ越すって本当ですか?
 私たちも連れて行ってもらえるのですよね。ええ、もちろんついていきます。

 確かに魔法学校の常勤講師の話も来ております。ですが、先生の元で学びたいのです。

 ……あの子は連れて行くのですか?

 あの子は出来が悪いし、知への好奇心だってないではありませんか。どこか侍女の仕事を探してさしあげれば良いのではないですか!

 一生懸命は美徳ですが、それだけです。
 何も残せないのです。

 先生、置いていかないでください。どうか。

 私が平民だからですか? 孤児だったから……。いえ、もう嘘はいらないのです。

 あの子は先生の子だという事は知っています。

 弟子と言っておきながら、先生はあの子には特別甘いではありませんか。

 すみません、取り乱しました。
 そうですね、家庭教師の仕事を探してみます。一週間後ですか、もう決まっているのですね。

 ありがとうございます。皆に伝えておきます。一年も時間があれば、皆、職の一つや二つ!

 伯爵さまも協力してくださるのですか。百人力です。
 私たちは先生の弟子ですよ。偏屈な先生の元で研究ができたのです、できないことなどありません!

 先生は最近、オシャレになりましたね。もしかして、隣国に恋人でもいらっしゃるのですか?
 笑わないでください。私は本気で心配してるんです!

 先生、お茶です。これが先生に淹れて差し上げられるさいごのお茶になるんですね。

 美味しいですか! 良かったです。私はずっと先生のお茶係でしたから。お茶係は特別なんですよ。

 先生、どうしました?

 ドキドキしますか?

 分かります。私も先生に拾われた時、ドキドキしました。先生が老いても変わりませんよ。

 ふふふ、ずっとお慕いしておりました。恋仲になれずとも、おそばにいられたらそれで良かったのです。
 先生が謀反を企んでると聞いて、嘘だと思いました。私がその嘘の証拠を集めようと思っていたのです。

 おかしいですか? そんな顔をなさらないでください。苦しいですか? もう少しの辛抱です。大丈夫です、近くにおります。王妃さまにいただいた毒ですわ、もうすぐ私も参ります。

 先生はずっとこの国に。あの子は隣国へ。それで良いではありませんか。私のそばにいてください。先生、どうか、先生。

☆誰か、どうか

 これが祖父の残した記録です。
 弟子の女性が無理心中を諮ったのだろうというのが、憲兵の調べです。どうやら本当のようですね。

 祖父が最期に握りしめていたブローチに今、話しかけています。しゃれっ気のない祖父が死の間際に身に着けていたブローチに形見として伯父さまにいただいたのです。

 祖父の遺品は二つ、このブローチと商会長に預けられていた指輪です。

 毒は心臓に負担をかけるものでした。苦しまぎれに祖父はブローチを握りしめていたようで、このブローチを抱え込むように亡くなっていたそうです。

 あの国は既に神に見放されているのです。

 私は無力です。商会と共にこの第二の故郷で暮らしております。時折、この帝国の皇帝の使いとお話をします。信じがたいですが、それだけ血というものは重要視されるようです。

 確かに、反乱分子には良い旗印ですから、少しの窮屈も仕方ありません。

 祖父は亡くなる前に研究記録をまとめたものを商会長に託しておりました。少量の荷物を持ち運べるアイテムバックと呼ばれるものです。

 祖父の友人だという老婆にも旅支度を手伝ってもらいました。知り合いへの向けたものだと、たくさんの手紙を託されました。私に援助してくれるよう書いてくれたようでした。

 研究資料と音声記録が、あなたに一緒に届くことを信じています。

 ですが、万が一というものはあります。

 商会長の昔話もありますが、私の父は亡くなったとされる王国の王子、母は祖父の実の娘だそうです。

 貴族であった祖父は商会長とともに、暗殺されかけた王子を救ったのでした。
 私の髪は父譲りの銀髪です。

 だから、子供の頃は父と共に髪を染めておりました。
 父は結局、屋敷から出ることはなく病気であっさりと亡くなってしまいました。母は私が生まれてすぐに――。
 ええ、広い屋敷とはいえ、人を隠すのは大変なことだったと思います。

 私たちは父の死後、ひっそりと隣国へ向かう手筈だったのです。

 けれども祖父はその寸前に毒で……。

 祖父は墓でも暴いたのでしょうか、研究本には髪色の違う王族たちに父と子の関係性がないことが書かれておりました。

 問題は誰が神の怒りを鎮めるか、ということです。

 私はあの国の空気も忘れてしまいました。同じ地平にあるはずのあの国はいつの日か亡びるでしょう。

 どうか、最後の一人にでも伝えられるよう、見つけたあなたは伝えてください。
 後世の国民が助かるように、この記録を残すことが私が祖父にできるはなむけだと思うのです。
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