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1 市民
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☆酒場にて
なんだよ、話を聞きたいって。ええ? いつもつまんなそうに酒を飲んでると思ったら、急に話を聞きたいだなんて、気色の悪いじじぃだな。
――え? そう言われちゃ仕方ないな。そんじゃあ、ここの支払いは頼んだぜ。
それで、何の話を聞きたいって?
さっきの話? ああ、今度生まれた王子は王さまとは似ても似つかない赤毛だったんだよ。
王さまは金髪、生まれた子供は黒髪、茶髪と続いて今度は赤毛だ。
あんたも知ってるだろ?
この国は昔から災害が多いって話。
ん? そうだな。我らが神ヘスティアさまは『秩序』を重んじるからな。不貞なんてしたらそれこそもっと酷い災害が起きるってみんな噂してる。
まあ確かに、この国に災害が多いのはヘスティアさまに見放されたって言ってる連中もいるけどさ。御子が生まれたら落ち着くはずさ!
俺? 俺はヘスティアさまは今もこの国を守ってくれてると思うよ。大変だけど、捨てるほどひどい所じゃないだろ、ここは。
あー、確かに昔は直系の王族には白銀の髪の子しか生まれなかったって言うけどさ。
ヘスティアさまが怒ったら、血を絶やす呪いが王族に降りかかるっていうのは有名な話じゃないか! 御子が生まれてることがこの国が神に愛されてる証拠だよ。
おいおい、あんたそんなことばっか言ってると、そのうち不敬罪でしょっぴかれちまうぞ!
まあ、さ。話はこんくらいでいいじゃないか。今日から一か月は王子の誕生を祝う祭りなんだぜ?
学者先生も今日くらいは飲んじまいなよ。
☆歴史研究家
で、あんたが私に何の用?
確かにあんたと私は腐れ縁だが。学生時代も社交界でも、私と討論を交わせるのはあんたしかいなかった。
まあ私にも懐かしい気持ちがないわけではないよ。この年になると、思い出したくても思い出せないことも多いわな。
今じゃ、古書に埋もれてこんな有り様だよ。
あんただってこないだ家庭教師をクビになったって聞いたよ。なんぞ生意気なことをいって鞭で打たれたらしいじゃないか。
今だって足を引きずって……、今にも棺桶に倒れ込みそうなじじぃが来るんじゃ私のお迎えももうすぐかね。
うるさいね。あんたも私もしわくちゃのじじぃとばばぁだよ。こんなにくちゃくちゃじゃ男も女も関係ないさね。
あんたは博識、私は生意気。同じように知識をひけらかしても、こんなに違うんじゃあやってられないよ。
幸いにも、旦那は私の趣味を理解してくれたが、どうにも子供たちは理解できないらしい。
ああ、いや……気にするな。年を取りたくないもんだ。無性に誰かに話しを聞いてもらいたくなる時があるんだ。
で、あんたは私から何を聞きたいんだ?
ふふ。研究バカのお前のことだ。何か聞きたいことがあるんだろ。あんたが私に話しかける時は、研究成果を聞きたい時か、知らないことを質問する時だけだったからね。
王族の歴史? そんなもんを知りたいのかい?
まあ書籍に残されてるものはね。初代の王は神の血を引くものとして民を導いたっていうのが神書にも書いてあるこの国の成り立ちさ。
ああ、確かに当時は、神の血を引く証が白銀の髪、と言われているたが、およそ五十年前から別の話にすり替わっている。
まあ大衆は字なんて読めないからね。
本には残されてるが、ほとんどの本は当時に焼かれてしまったよ。ここにある本も日の目を見ることはないのだろうね。
本は読まれるためにあるっていうのに、日の目を見たら焼かれちまうんだ、悲しいよ。
あんたの言う通り、この国は緩やかに衰退している。でも今すぐに滅びるわけじゃない。
はぁ、負けた、負けた。私も年を取ったもんだ。
確かに、私たちが三十代の頃に急に『白銀の髪は呪われている』『色鮮やかな髪こそが平等と人類を司るヘスティアさまに愛された証』なんて変な噂が流れたさ。
でもそれは当時の王太子争いで直系王族を貶めるために流された噂だと、私たちは結論を出したじゃないか。結局二人とも亡くなられてしまわれたが……。
で、結局噂の通りに、緑髪の王子が玉座についたって。ん? 急に声を小さくしてどうしたんだ?
……それは本当か? いや、あんたは嘘は下手だったな。
ああ、今度連れて来てくれないか。
――そうだな。貴重な本を貸してやろう。信用できる弟子に返しにこさせなさい。
ははは。それにしても懐かしい。不器用なお前は何度も決闘騒ぎに巻き込まれていたな。なに、もう少しゆっくりしていけ、遅くなったが茶でも出してやるよ。
お互い、積もる話もあるだろう。
なんだよ、話を聞きたいって。ええ? いつもつまんなそうに酒を飲んでると思ったら、急に話を聞きたいだなんて、気色の悪いじじぃだな。
――え? そう言われちゃ仕方ないな。そんじゃあ、ここの支払いは頼んだぜ。
それで、何の話を聞きたいって?
さっきの話? ああ、今度生まれた王子は王さまとは似ても似つかない赤毛だったんだよ。
王さまは金髪、生まれた子供は黒髪、茶髪と続いて今度は赤毛だ。
あんたも知ってるだろ?
この国は昔から災害が多いって話。
ん? そうだな。我らが神ヘスティアさまは『秩序』を重んじるからな。不貞なんてしたらそれこそもっと酷い災害が起きるってみんな噂してる。
まあ確かに、この国に災害が多いのはヘスティアさまに見放されたって言ってる連中もいるけどさ。御子が生まれたら落ち着くはずさ!
俺? 俺はヘスティアさまは今もこの国を守ってくれてると思うよ。大変だけど、捨てるほどひどい所じゃないだろ、ここは。
あー、確かに昔は直系の王族には白銀の髪の子しか生まれなかったって言うけどさ。
ヘスティアさまが怒ったら、血を絶やす呪いが王族に降りかかるっていうのは有名な話じゃないか! 御子が生まれてることがこの国が神に愛されてる証拠だよ。
おいおい、あんたそんなことばっか言ってると、そのうち不敬罪でしょっぴかれちまうぞ!
まあ、さ。話はこんくらいでいいじゃないか。今日から一か月は王子の誕生を祝う祭りなんだぜ?
学者先生も今日くらいは飲んじまいなよ。
☆歴史研究家
で、あんたが私に何の用?
確かにあんたと私は腐れ縁だが。学生時代も社交界でも、私と討論を交わせるのはあんたしかいなかった。
まあ私にも懐かしい気持ちがないわけではないよ。この年になると、思い出したくても思い出せないことも多いわな。
今じゃ、古書に埋もれてこんな有り様だよ。
あんただってこないだ家庭教師をクビになったって聞いたよ。なんぞ生意気なことをいって鞭で打たれたらしいじゃないか。
今だって足を引きずって……、今にも棺桶に倒れ込みそうなじじぃが来るんじゃ私のお迎えももうすぐかね。
うるさいね。あんたも私もしわくちゃのじじぃとばばぁだよ。こんなにくちゃくちゃじゃ男も女も関係ないさね。
あんたは博識、私は生意気。同じように知識をひけらかしても、こんなに違うんじゃあやってられないよ。
幸いにも、旦那は私の趣味を理解してくれたが、どうにも子供たちは理解できないらしい。
ああ、いや……気にするな。年を取りたくないもんだ。無性に誰かに話しを聞いてもらいたくなる時があるんだ。
で、あんたは私から何を聞きたいんだ?
ふふ。研究バカのお前のことだ。何か聞きたいことがあるんだろ。あんたが私に話しかける時は、研究成果を聞きたい時か、知らないことを質問する時だけだったからね。
王族の歴史? そんなもんを知りたいのかい?
まあ書籍に残されてるものはね。初代の王は神の血を引くものとして民を導いたっていうのが神書にも書いてあるこの国の成り立ちさ。
ああ、確かに当時は、神の血を引く証が白銀の髪、と言われているたが、およそ五十年前から別の話にすり替わっている。
まあ大衆は字なんて読めないからね。
本には残されてるが、ほとんどの本は当時に焼かれてしまったよ。ここにある本も日の目を見ることはないのだろうね。
本は読まれるためにあるっていうのに、日の目を見たら焼かれちまうんだ、悲しいよ。
あんたの言う通り、この国は緩やかに衰退している。でも今すぐに滅びるわけじゃない。
はぁ、負けた、負けた。私も年を取ったもんだ。
確かに、私たちが三十代の頃に急に『白銀の髪は呪われている』『色鮮やかな髪こそが平等と人類を司るヘスティアさまに愛された証』なんて変な噂が流れたさ。
でもそれは当時の王太子争いで直系王族を貶めるために流された噂だと、私たちは結論を出したじゃないか。結局二人とも亡くなられてしまわれたが……。
で、結局噂の通りに、緑髪の王子が玉座についたって。ん? 急に声を小さくしてどうしたんだ?
……それは本当か? いや、あんたは嘘は下手だったな。
ああ、今度連れて来てくれないか。
――そうだな。貴重な本を貸してやろう。信用できる弟子に返しにこさせなさい。
ははは。それにしても懐かしい。不器用なお前は何度も決闘騒ぎに巻き込まれていたな。なに、もう少しゆっくりしていけ、遅くなったが茶でも出してやるよ。
お互い、積もる話もあるだろう。
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