[完結]彼女と好きの物語

夏伐

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1 おかしな置物

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 まるで幼い頃に想像した中世ヨーロッパのお城がある街そのもののようで私の心はどこかはずんでいた。

 薬草採集やスライム討伐、といった初級冒険者のセオリーを守り、コツコツと私はこの世界に順応していった。



 時折、この世界にきてすぐに出会った獣人の男の子が気にかけてくれて、その度に助けてくれる。



 ゲームのようなレベルシステムはないものの、スキルは存在している。鑑定の魔法も存在するが、どうやら私にはその才能はないようだった。



 そのおかしな商品を見つけたのはとある露店だった。雑多なものが木箱に入れられて店主さえ価値のわからないまま一つ銀貨3枚で売っていった。

 何かに紛れるようにしてあったが、叫ぶような顔が目に留まった。



 私がそれを手に取ると、どうにもこの世界では不思議な素材だったが私には懐かしい質感だった。柔らかく、そして丈夫なシリコンで作られた叫ぶ植物の模型。



「お嬢ちゃん、それに目をつけるとはセンスが良いねぇ!」



 店主が私に嬉しそうに声をかけてきた。



「これ、何ですか?」



「マンドラゴラの置物だよ」



 マンドラゴラと言えば、引き抜くと叫び声をあげる植物。ファンタジー世界の定番だ。錬金術だったり、高級な薬草だったり……この世界では高麗人参のうような立ち位置のようだ。



「へぇ、どんな効果があるんですか?」



「う~ん、かわいい、とかかな」



「かわいさで魔物の目を引く、ですか?」



 迷うように歯切れの悪い店主の顔をじっと見つめると、彼は根負けしたように「ごめんごめん」と謝った。



「うちは、ほら物々交換もやっているんだ。良いものがあれば当たり、ガラクタを買ったらハズレってな感じでな。

 それはある客がガラクタと交換していった筋金入りのガラクタだ。珍しい材質だったんで、初めて見た時は喜んだんだが、何の役にも立ちやしない。それに『かわいい』ってなんだ? マンドラゴラはかわいくないだろ。凶悪植物だ」



「キモかわって所ですかね」



「お嬢ちゃんがそれを買ってくれるってんなら、銀貨3枚の所を1枚におまけしちゃうよ! 特別サービス、今だけの特価価格だ」



「……うん、買います」



「毎度アリ~。お嬢ちゃんに女神ケレースさまのご加護を」



 必死な店主よりも、私はマンドラゴラの置物が気になっていた。これは、冷静に考えればこの世界のものではないと考えるのが普通だろう。私は店主に銀貨を1枚手渡した。



「あの、これを持ってきた人は知っていますか?」



「うーん。この辺りではよく見かけるんだが名前は知らないんだ。この国に住んでるのは確かだが……」



「そうですか、ありがとうございます」



 気の良い店主で良かった。私はマンドラゴラの置物を手に持ち、周囲を散策し始めた。もしかしたらこれの製作者がここに住んでいるかもしれない。そしてそれは同じ世界からやってきた人の可能性がある。



「ハルー!」



 名前を呼ばれて遠くを見ると、正面から手を振っている少年の姿があった。私と同じくらいの背丈の二足歩行の大型犬が駆け寄ってくる。獣人と呼ばれる種族で、彼はとりわけその血が濃いらしい。



 はっ、はっ、と肩で息をする姿は元の世界に置いてきた大型犬を思い出して、懐かしく暖かな気持ちになる。



「あ、あの店で何か買っちゃった!?」



 彼はいつも私を気にかけてくれるウル。優しい彼は焦った様子で、先ほど立ち寄った露店を指さした。

 店主は私に笑顔で手を振っている。



 ウルははっとして、私が手に持っていたマンドラゴラの置物に目をつけた。



「あの店はぼったくりで有名なんだよ! 大丈夫だった? 何か巻き上げられてない?」



「安く置物を売ってもらったわ」



「ガラクタを売りつけられたんじゃないか!」



 まるで自分のことのようにショックを受けているウルを横目に、私は店主に向かって手を振った。

 そしてその店から離れながら、私はウルにそっと伝えた。



「これを作った人、もしかしたら渡り人かも……」



 渡り人、というのは何かの拍子でこの世界に訪れてしまった異世界人もいる。その異世界人がこの世界に定着し、この世界に点在する亜人たちの祖になった、というのがこの国で教えている創世神話だ。

 神に招かれた客人、幸運を運ぶ者としてこの国では丁重に保護されている。



「ハルーはその人を探したいの?」



「うん。手伝ってくれると嬉しい」



「もちろんだよ! ハルーのためなら喜んで」



 私はウルの案内で職人街と呼ばれる一画を訪れた。

 どうにも、何かを作るものは利便性や材料の確保などの都合で結果的にこの区画で店や工房を持つのが常らしい。

 高確率でこの謎の雑貨の製作者もいるとの事だ。



 見習いが打ったという剣を売っている鍛冶屋で、私はマンドラゴラの置物を見せた。その瞬間――ドワーフだろうか、ひげをたくわえた背の低い男は、嫌そうに顔をしかめた。
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