上 下
1 / 3

1 人手不足…?

しおりを挟む
 元遊び人が領主をしています。一緒に楽しい領地運営♪

「どうだろうか?」

 俺がーー自分の考えた官僚求人募集のためのキャッチコピーを前に頭をひねっていると、使用人たちがクスクスと微笑みながら通り過ぎて行く。
 質の悪い紙に、かけばムラが出るインクには様々なボツ案が生まれては消えて行く。もはや何が正しいのか分からない。

 ……これは詩ではないのか?

 そんな思考の迷路に入り込んだ時、紙の端にわざわざかぶせるようにして木製のトレイが置かれた。

「領主さま、そういうものはそもそも使用人用の食堂で考えることではありません」

 俺とキャッチコピーの正面に座った男はそんなことを言う。
 この釣れない男は、この領主の屋敷を管理している侍従長だ。
 前領主の度重なる不正増税横暴、果ての暗殺。

 どこの貴族も、こんな厄にまみれた領地の領主に立候補するものはいなかった。
 それでもいつもなら嫌われ者だったり、厄介者が派遣されてくるものだ。

 だが!!! しばらく前から政治にも口を出すようになったわがまま王女さまの気まぐれで、今回は領民の中から立候補者を募り、選挙を行うことになった。

 当選した暁には、相応の金額は必要ではあるが平民でも爵位を買うことができる。これに飛びつくやつは飛びついた。
 そして選挙期間中は最終的に血で血を洗う立候補者の生き残り合戦に――。

 ただの一冒険者であり小さな商店を運営している『トリックスター』……『大道芸人』……いや『遊び人』である俺、ユージーン・レルフが当選してしまった。

 消すべきでもない小物として最後まで認識されていて立候補者がどんどん死んでく選挙中は、超怖かった!!

 ――なので不肖の息子だが、全然連絡を取っていなかった実家に頼ることにした。死にたくないもんね。

 スキルのことでふてくされて旅に出て、それから全然連絡をとってなかった。だが、両親含めて家族はすぐに協力してくれた。
 連絡をくれて嬉しいって……人間が出来すぎだろ……。

 スキルは、人の適正だ。だからこそ貴族は統率系のスキルや称号、貴族として箔のつくものが優遇される。

 そんな世界で神が俺に定めた運命は『トリックスター』。
 は……? みんな意味が分からないだろう。俺も分からなかった。
 結局、『遊び』系スキルもしくは称号なのではないか、という憶測から生まれた噂のせいで、社交界では腫物扱いになった。

 ただ両親や兄弟姉妹、使用人たちはとても可愛がってくれた。
 手品が出来ればすごい、魔法の規模は小さいものの魔法制御は上手かった。スキルや称号だなんてただの適正だ、そう前向きにとらえていた。

 幼馴染であった婚約者とも仲がよかった。が、このスキルのせいで努力が評価されることはなく、学校に通えなくなって領地に引きこもっている間に、婚約は解消されていた……。

 そりゃあそうだ。

 何もかもが嫌になって、俺は国を飛びだした。自分のことを誰も知らない隣国の辺境で『遊び人』として冒険者になった。
 町の人に受け入れられた時に、この選挙騒ぎだ。

 酒に酔った仲間が、『貴族っぽいから立候補してみろよ』と口にしたのをきっかけにして、立候補。完全な身内ノリで、大した理想もなかった。

 だが立て続けの暗殺騒ぎで、残ったのは悪徳商人、賄賂大好き官僚、そして『楽しく暮らそう!』と選挙活動と称して大道芸人をしていた俺。
 まさかの消去法で当選、という流れになるかと思った。

 選挙の裏で実家のおかげか、候補者二人が殺し合ったのか、候補者が俺を残して全滅してしまった。こうして血にまみれた選挙は終わり、荒廃した領地の責任だけがのしかかってきた。

 冒険者として貯めていたお金で爵位を買おう!
 と思ったら、この騒ぎのせいで実家が表立って領地を支援してくれることになり、新たな貴族籍は必要がなくなった。

 領民は、ふざけた領主で不安そうだったが、どうやらマシになりそうだと思ってるやつらもいるらしい。期待は嬉しいが、この領地にそんな金はない。
 爵位を買うための金は領地運営に回すことになった。

 俺はこの選挙で身に染みたんだ。みんな平気で暗殺とか襲撃を依頼する。こえーよ。

「もう文字にするのやめたらいいんじゃないですか?」

 優秀な人材を集めないと領地がやばい。
 ちゃんと領地を経営できないと、暗殺される! そんな恐怖でいっぱいだったのに、目の前にいる侍従長はそんなことを言う。

「貼り紙はいるだろう?」
「それはもう新聞社に記事を書かせればいいですよ。演説でもすればいいんじゃないですか?」

 統率のスキルでもあれば違うんだろうが……、と口にしかけて昔を思い出す。嫌がらせのためにこんなレアスキルを調べてくれた同級生がいた。
 どうやらこのスキルは『詐欺師』になりうるものでもあるらしい。

 人のステータスを見る魔道具をわざわざ使って……。その道具を使ってみたのだからある程度は確かなものだろう。
 彼は今、幼馴染と結婚して立派に働いているらしい。嫌なことを思い出した。

 詐欺師になりうるのならば、演説は良い手段じゃないのか?

「いい案だ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

魅惑の星占い

神在琉葵(かみありるき)
恋愛
現実的で冷めたタイプの聖子は、星占いなんて信じない…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

処理中です...