[完結]鬼とミライ

夏伐

文字の大きさ
上 下
3 / 5

3夢

しおりを挟む
 家族団らんの中心にいるトモが俺をにらんだ。
 付き合いが長いから何となくその瞳の言いたいことは理解できた。「こうなったらお前も食ってやる」そんな所かな?

 トモの口の中、目玉の奥からムカデがダンゴムシややたら肉付きの良い蜘蛛なんかが零れだす。
 トモが鬼を食うときはいつもこうだ。残さず食らう精神は良いものだけど――。

「気持ち悪いんだよねぇ」

 一瞬トモの顔がショックを受けたように歪んだ気もするが、俺は気にせず周囲に灯油を垂らしてマッチに火をつけた。

 ここは夢の世界。

 夢で家族喧嘩に巻き込まれた俺はどちらかといえば被害者だよね。

 たくさんの虫に囲まれて、家族はどろどろに皮膚が溶け合って一つになった。
 火が広がるにつれて、徐々に無限に続く十字路は陽炎のように消えてしまった。

 ☆

 『鬼』とは、人の心の弱い部分に巣食う魔の通称だ。一般に言われる『魔が差す』などの中にはこの鬼によるものも少なからず存在している。
 鬼が心に巣食う条件として人間の精神の強さはあまり関係がない。

 鬼を退治する方法については、今一つ解明されていない。

 鬼に憑かれると、徐々に自分をすり減らし精神病と似た症状が発症する。完全に人間の個がなくなると、体が変質してしまう。今のところ、世間には公表されてはいないが彼らを収容する施設を国が設立し、変質した者は発見されしだい隔離されている。

 自分をすり減らすスピードはそれぞれ違う。
 大切なのは『自分』を認識させてやること。
 毎日名前を呼んだり、話しを聞いてやることが大事だという。

 それでも数日や数週間で変質する者や、かといって発症してからも社会生活を送る者。変質してしまった者は既に人としての意識はない。

 人より丈夫だからといって隔離しているのも殺せないからではない。後世のための研究材料になってもらう。

 本人に人としての意識はないし、遺族には納得してもらえるだけの金額を払っている。対策もしらない人間が、いつまでも人間大の怪物など飼えるものではない。

 大抵は言い値で納得する。
 納得しようとしている。

 症状の軽い者たちは本人の希望で社会生活を送ることも可能だが自分から隔離されるものも多い。最近では国立の病院の中にサナトリウムと称したフロアが作られることもあるそうだ。
しおりを挟む

処理中です...