2 / 38
文純学2
しおりを挟む赤い日が陰った。
電線がいく本も、血のように(炎のように)熱い空に走っている。
これは夏だ。
暑い日が沈む。
静けさに蝉。
遠くから響く、遠くへ響く。
僕は家を出た。
いや、家に帰ろうとしている。
僕は(今)以前の時を持たないらしく、ただ、ポツリと立っていた。
静かな、赤と影の町だ。
家々は黒々と、沈黙している。
僕を受け入れない。閉じている。
“これは夏の日だった。暑い暑い、1日だった。
シャツは肌にはりついてうざったく、3回も自動販売機で飲み物を買った。
自転車を漕げば熱風で、顔に首に熱がまとわりついて、振り払うようにペダルを踏む。”
これは何億光年か先の星が見た僕。
(僕の)隣の残像。
駄菓子屋の影が黒く恐ろしく伸びている。不釣り合いに不自然に伸びている。
ぱしゃりとアスファルトから金魚が跳ね、
ぱしゃりとアスファルトに消えた。
地平線が赤く、駄菓子屋の屋根がいちめん赤く、止まれの標識の白色が赤い。
家々は沈黙している。いきていたものまで、沈黙している。あらゆる微生物も沈黙し、かつての生き物たちはただ空気に撫でられている。
僕は家々から深く温かい、ちりぢりになった記憶が吐き出されていくのを聞いた。はあー、と、長く細く長く。
一方僕の目はただ赤い空と赤い家々を見ていた。
あらゆるかつての生き物は、僕の頭の中の幻影と(いうことに)なった。
僕はあらゆる音を聞いた。遠い北の、風が削る氷河の、岩を打つ音の中に白熊の爪痕を聞いた。白熊もまた、僕がおす自転車の軋む音を、思うまま透明に整った、蝉の声の下に聞いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
妊娠中、息子の告発によって夫の浮気を知ったので、息子とともにざまぁすることにいたしました
奏音 美都
恋愛
アストリアーノ子爵夫人である私、メロディーは妊娠中の静養のためマナーハウスに滞在しておりました。
そんなさなか、息子のロレントの告発により、夫、メンフィスの不貞を知ることとなったのです。
え、自宅に浮気相手を招いた?
息子に浮気現場を見られた、ですって……!?
覚悟はよろしいですか、旦那様?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる