完璧な計画

しづ未

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ライバル

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「麟太郎様は僕の憧れなんだ。僕を邪険にせずに、抱く時もとても優しかった……素晴らしいお方だ」
「あ、あれ?」
「僕は家のためじゃなく、麟太郎様を愛しているから結婚したかった」

 恍惚とした表情で目の前の男は明日見の事を話しているが、俺は非常に混乱している。てっきり明日見家との繋がりを強めたい家の者かと思っていた。しかし、どうやらこいつはただ明日見の事がめちゃくちゃ好きなヤバい男のようだ。

「なのにポッと出の地味な男が麟太郎様と結婚ってどういうこと?僕の方が絶対に釣り合ってるよね?」
「あの、それは」
「だから君の事が憎らしくてしょうがないんだよ」

 奴の表情が冷たくなった瞬間、なぜか視界が揺らぎ始めた。あれ、頭が変だ。しかし、これで確実にこいつは俺に悪意を持っているのを理解した。

「お前だな、俺に殺害予告送ってきたのは……」
「正解、でも殺すのは社会的にだよ」
「……?どういう……」

 今度は体が熱くなってきた。呼吸も浅くなり、立っていられずに座り込んだ。何だ?絶対におかしいよな。まさか。

「そろそろ効いてきたかな?」

 平塚が屈んで俺の顔を覗き込んできた。やっぱりだ、さっき渡されたシャンパン、あれに何か入れられてたんだ。しくじった……あの給仕もグルだったんだ。

「おまえ……一体なにを……」
「君の痴態をみんなに見てもらおうよ、そしたら麟太郎様は幻滅して結婚取り消しちゃうかもね?」

 平塚は目を細めて厭らしく笑った。無理やり俺を立ち上がらせたが、俺はもう抵抗する力も無くされるがままだった。歩き出すとさっきの給仕がやって来た。

「彼は体調が悪いようだ。空き部屋で休ませてあげたいんだけど?」
「こちらにご用意しております」

 二人は小芝居をしながら人気の無い方に俺を連れていく。周りからは俺は体調を崩し、平塚は親切に肩を貸して介抱しているように見えてるだろう。せめて声を上げたいが、ダメだ……上手く息が吸えない。そうだ、双葉はこの状況に気付いているはずだ。どうにかして双葉が動いてくれる事を願うしか無い。働かない頭でグルグルと考えていると、いつの間にか部屋の前に着いていた。

「さ、入ろうか」
「あぇ……?」

 もう話してる事もよく分からなくなってきた……もう良いか、とりあえず休みたい……。


「そこで何してんの?」
「え…………はっ!り、麟太郎様!!」

 部屋の扉が閉められる直前、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くとさっきまで人に囲まれていたはずの明日見が立っていた。うわ、あの笑顔……めちゃくちゃキレてるな。

「彼の具合が悪いようなので僕が介抱しようと……」
「ふーん……君、平塚家の人だよね?」
「!!覚えてくださっているのですね!感激です!!」

 平塚はさっきの悪い顔の面影もなく、明日見を前にして恋する乙女のような顔になっている。

「彼の事は俺が見るから君は戻って良いよ」
「い、いえ、麟太郎様の手を煩わせる訳には……」
「大丈夫だって、俺がやりたくてやるんだから。あとさあ」

 俺はただボーッと二人の様子を見ていた。すると、明日見は俺を平塚から引き剥がし、肩を抱き寄せた。

「俺、自分のものにベタベタ触られんのすげー嫌いなんだよね。早く消えてくれる?」
「……!!し、失礼しましたっ」

 話している時はあくまで笑顔だ。しかし怒りが抑えきれていない。俺の肩を掴む力が強くてちょっと痛いくらいだ。明日見の圧に負けた平塚は逃げるように走り去っていった。

「あすみ……なんでここに……?」
「双葉ちゃんが俺を呼んできてくれたんだよ。何をコソコソやってんのかと思ったらこんなことになっちゃって、双樹くん騙されすぎじゃない?」
「だってえ……」

 さすが双葉だ、きっと明日見の方が解決してくれると判断したのだろう。
 あー……どんどん体が熱くなってきた。立つのがしんどくなってきて、不本意だが俺は明日見に体を預けた。

「顔真っ赤だし体も……大丈夫?」
「シャンパンに何か入れられてたんだ……全身が熱いしムズムズする……」
「…… もしかして媚薬盛られたの?俺もされたことあるんだ」
「びやく……?」
「とりあえず休んで、中のベッド使って良いから」

 部屋の中に連れて行かれ、ベッドに寝かせられた。明日見の手が俺の頬を撫でる。体が熱いせいか手が冷たく感じて心地良い。

「……戻らなくていいのか」
「挨拶は済ませたし、後は兄貴に任せたから大丈夫だよ」
「そうか……」

 体が熱いだけではない、さっきから体を触られると変な気分になる。そうだこの感覚、明日見に無理矢理抱かれた時に似ているのだ。ああ、思い出しただけでまた体が熱くなる。あれ、というか気付けばなぜか勃起しているではないか。このままでは辛いし恥ずかしい。横になったまま、ベッドに座る明日見の服を掴んだ。

「あすみ……体がへんだ、何とかしてくれ……」
「……もお~~双樹くん、俺我慢してたのに!誘ったのはそっちだからね?」
「え?……あっ、んむ……」

 明日見が覆い被さって唇を重ねてきた。もう口に入り込んでくる舌を抵抗する力も無く受け入れる。悔しいことに、今はなぜかキスが気持ちいいと思ってしまう。俺からも自然に舌を伸ばして強請るようにキスをした。口の端から唾液が溢れてもお構いなしに。
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