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婚姻
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「よく来たね椿双樹くん。わざわざご足労どうも」
「はは……お気遣いなく……」
俺は今、明日見家の屋敷のクソデカい客間で震えている。隣には明日見が、目の前には明日見の兄であり、明日見家の次期当主である明日見 鋼太郎が居る。明日見が婿入りするということは俺の方がいわゆる「息子さんを僕に下さい!」をしなければならない。父親は海外に居るため代わりに兄に挨拶する事になった。正直ストレスで胃が押し潰されそうだ。明日見鋼太郎は顔も良ければ能力も高く非常に近寄りがたい男だ。実際に話すのは殆ど初めてである。
「うちの可愛い可愛い麟太郎が、あんなにお見合いをさせたのに最終的に選んだのが椿家の男って……君が俺の立場だったらどう思うかな?」
「あ……えっと……信用できませんね……」
「ちょっと兄貴?圧迫面接みたいな詰め方やめろよ」
「麟太郎、お前の為を思ってやってるんだぞ?椿家が家を持ち直すためにお前を利用してるかもしれないだろ」
こっちが強制的に結婚させられようとしてるのになんで俺が利用してるみたいな認識されてるんだ。一番の被害者は俺ではないのだろうか。しかし家を持ち直すために利用してる、という点については否定しきれない。明日見はなんとか弁解しようとしているが、兄の方は俺をずっと睨みつけているぞ。
「だから、俺が好きだから結婚したいんだって!」
「お前が好きでも、騙されてる可能性はあるだろ!俺は愛し合っている者同士の結婚しか認めない。どうしても結婚したいならちゃんと愛し合ってる証拠を見せなさい」
明日見の話曰く、明日見鋼太郎は愛妻家で有名らしい。つまり、奴は意外にも政略結婚ではなく恋愛結婚なのだろう。だから愛し合っている者同士が結婚の前提条件なのもまあ、理解はできるし正しい事だ。しかし今なんて言った?愛し合ってる証拠を見せろ?それを見せないと結婚を認められないって、まずいんじゃないのか。だって愛し合ってないんだから。おそらくこれは俺に向けて言っているのだろう。明日見は俺が好きだという旨をむず痒くなるくらい話している。俺が何か行動を起こさないと……どうしたら……。ちらっと横を見ると、明日見は気まずそうにしていた。ああもう、こうなったら覚悟を決めるしかない。
「……おいあすっ……麟太郎、こっちを向け」
「え?」
俺は明日見の胸ぐらを掴みグッと引き寄せ、唇を重ねた。本当はこんな事したくない。しかし、この瞬間の俺の感情と結婚する事で受ける恩恵を天秤にかければ、やることは決まっているだろう。唇を離すと即座に明日見から離れた。もう座っているソファーの端っこまで寄った。めちゃくちゃ恥ずかしい事をしていると自覚しているのでかなり動揺してしまった。クソッ絶対明日見にからかわれる……!
「こっこれが証拠ですけど!??これで大丈夫ですよね!!?」
「そ、双樹くん……」
「お前は何も喋るな!!あす……え?」
瞬時にからかわれるのを察知し言い返そうと明日見の方を向いた。しかし、明日見はニヤついてることもなく、なんと顔を真っ赤にして俯いていた。
「は……は!?何でお前が赤くなるんだよ!?」
「だって双樹くんからキスしてくれるなんて思わなかったから……って双樹くんだって顔真っ赤じゃん!」
「うるさい!気のせいだ!」
「気のせいじゃないって!写真撮らせて!」
「やめろやめろ!!」
「おい二人とも、俺が居るのを忘れてないか」
「「あっ……」」
しまった、見られているのに目の前で暴れてしまった。これは非常にまずいんじゃないのか。明日見鋼太郎は大きなため息をつくと、今度は柔らかい笑顔を向けてきた。
「驚いたな、麟太郎が他人相手にこんなに心を開いているのは初めて見た」
「……え?」
「知らなかったか?麟太郎はお見合い相手には他人行儀な奴だぞ」
「他人行儀……?」
心を開いているというよりは俺の事を面白がってるだけのような気がするが。思い返してみても、明日見は出会ってからあまり態度が変わってないように思う。初めて会った時はだいぶ尖ってたが、それ以降はちょっかいをかけてくるような奴だった。他人行儀な姿が浮かんでなくて首を傾げた。
「双樹くんの方が変だったよ。俺が明日見って知ってるのに態度デカかったもん」
「は!?お前の態度の方が気に食わなかっただろ!」
明日見は財閥のパーティーにもまともに参加せずに外に逃げていたくせに、初対面の俺に対して横柄な態度を取ってきた奴だ。周りはヘコヘコしてたがこんな奴に媚びへつらうのは嫌で態度を変えずに接していたにすぎない。
「……麟太郎に必要なのは、慕ってくれる人じゃなくて対等な関係で居てくれる人だったのかもな」
「兄貴?」
「はあ……仕方ない、お前達の結婚を認めるよ」
「……!双樹くんっ!」
突然結婚の許可が下りた。その言葉を聞いた瞬間、明日見は満面の笑みで俺に抱きついてきた。よ……良かったんだよなこれで……?全然離そうとしない明日見の腕を引き剥がしながらとりあえず感謝の言葉を伝える。
「あ……ありがとうございます」
「ただし、麟太郎を悲しませるような事をしたら殺すからな」
「ヒッ……」
話を聞いていて感じた事だが、明日見鋼太郎……この男結構なブラコンだな!
「はは……お気遣いなく……」
俺は今、明日見家の屋敷のクソデカい客間で震えている。隣には明日見が、目の前には明日見の兄であり、明日見家の次期当主である明日見 鋼太郎が居る。明日見が婿入りするということは俺の方がいわゆる「息子さんを僕に下さい!」をしなければならない。父親は海外に居るため代わりに兄に挨拶する事になった。正直ストレスで胃が押し潰されそうだ。明日見鋼太郎は顔も良ければ能力も高く非常に近寄りがたい男だ。実際に話すのは殆ど初めてである。
「うちの可愛い可愛い麟太郎が、あんなにお見合いをさせたのに最終的に選んだのが椿家の男って……君が俺の立場だったらどう思うかな?」
「あ……えっと……信用できませんね……」
「ちょっと兄貴?圧迫面接みたいな詰め方やめろよ」
「麟太郎、お前の為を思ってやってるんだぞ?椿家が家を持ち直すためにお前を利用してるかもしれないだろ」
こっちが強制的に結婚させられようとしてるのになんで俺が利用してるみたいな認識されてるんだ。一番の被害者は俺ではないのだろうか。しかし家を持ち直すために利用してる、という点については否定しきれない。明日見はなんとか弁解しようとしているが、兄の方は俺をずっと睨みつけているぞ。
「だから、俺が好きだから結婚したいんだって!」
「お前が好きでも、騙されてる可能性はあるだろ!俺は愛し合っている者同士の結婚しか認めない。どうしても結婚したいならちゃんと愛し合ってる証拠を見せなさい」
明日見の話曰く、明日見鋼太郎は愛妻家で有名らしい。つまり、奴は意外にも政略結婚ではなく恋愛結婚なのだろう。だから愛し合っている者同士が結婚の前提条件なのもまあ、理解はできるし正しい事だ。しかし今なんて言った?愛し合ってる証拠を見せろ?それを見せないと結婚を認められないって、まずいんじゃないのか。だって愛し合ってないんだから。おそらくこれは俺に向けて言っているのだろう。明日見は俺が好きだという旨をむず痒くなるくらい話している。俺が何か行動を起こさないと……どうしたら……。ちらっと横を見ると、明日見は気まずそうにしていた。ああもう、こうなったら覚悟を決めるしかない。
「……おいあすっ……麟太郎、こっちを向け」
「え?」
俺は明日見の胸ぐらを掴みグッと引き寄せ、唇を重ねた。本当はこんな事したくない。しかし、この瞬間の俺の感情と結婚する事で受ける恩恵を天秤にかければ、やることは決まっているだろう。唇を離すと即座に明日見から離れた。もう座っているソファーの端っこまで寄った。めちゃくちゃ恥ずかしい事をしていると自覚しているのでかなり動揺してしまった。クソッ絶対明日見にからかわれる……!
「こっこれが証拠ですけど!??これで大丈夫ですよね!!?」
「そ、双樹くん……」
「お前は何も喋るな!!あす……え?」
瞬時にからかわれるのを察知し言い返そうと明日見の方を向いた。しかし、明日見はニヤついてることもなく、なんと顔を真っ赤にして俯いていた。
「は……は!?何でお前が赤くなるんだよ!?」
「だって双樹くんからキスしてくれるなんて思わなかったから……って双樹くんだって顔真っ赤じゃん!」
「うるさい!気のせいだ!」
「気のせいじゃないって!写真撮らせて!」
「やめろやめろ!!」
「おい二人とも、俺が居るのを忘れてないか」
「「あっ……」」
しまった、見られているのに目の前で暴れてしまった。これは非常にまずいんじゃないのか。明日見鋼太郎は大きなため息をつくと、今度は柔らかい笑顔を向けてきた。
「驚いたな、麟太郎が他人相手にこんなに心を開いているのは初めて見た」
「……え?」
「知らなかったか?麟太郎はお見合い相手には他人行儀な奴だぞ」
「他人行儀……?」
心を開いているというよりは俺の事を面白がってるだけのような気がするが。思い返してみても、明日見は出会ってからあまり態度が変わってないように思う。初めて会った時はだいぶ尖ってたが、それ以降はちょっかいをかけてくるような奴だった。他人行儀な姿が浮かんでなくて首を傾げた。
「双樹くんの方が変だったよ。俺が明日見って知ってるのに態度デカかったもん」
「は!?お前の態度の方が気に食わなかっただろ!」
明日見は財閥のパーティーにもまともに参加せずに外に逃げていたくせに、初対面の俺に対して横柄な態度を取ってきた奴だ。周りはヘコヘコしてたがこんな奴に媚びへつらうのは嫌で態度を変えずに接していたにすぎない。
「……麟太郎に必要なのは、慕ってくれる人じゃなくて対等な関係で居てくれる人だったのかもな」
「兄貴?」
「はあ……仕方ない、お前達の結婚を認めるよ」
「……!双樹くんっ!」
突然結婚の許可が下りた。その言葉を聞いた瞬間、明日見は満面の笑みで俺に抱きついてきた。よ……良かったんだよなこれで……?全然離そうとしない明日見の腕を引き剥がしながらとりあえず感謝の言葉を伝える。
「あ……ありがとうございます」
「ただし、麟太郎を悲しませるような事をしたら殺すからな」
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