完璧な計画

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完璧な計画

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「助けて!お兄ちゃーん!!」
「どうした妹よ!!」

 可愛い双子の妹である双葉ふたばがしがみついてくる。いつも何かと手がかかる妹ではあるが、俺にとってはそれがたまらなく可愛いのだ。双葉はこの世の宝であり、生きる希望。双葉を脅かす存在は誰であろうと許さん。

「明日もお見合いだって!しかも明日見あすみ財閥の息子!嫌だよー!」
「何ぃ!?明日見って……兄の方は結婚してたよな。じゃあ弟の明日見麟太郎りんたろうか!」

 明日見財閥とは金融業界を牛耳る忌々しい明日見グループの頂点の家だ。しかもその息子は女癖が悪いと聞く。なぜこのような相手との縁談が持ってこられるかというと、俺たち椿家の父は明日見のグループ会社の社長であり、妹を嫁入りさせて家の地位を上げたいのだ。しかし、いくら家の為とはいえ可愛い妹をおちゃらけた明日見の息子などにやる訳にはいかない。妹だって嫌がっているのだ!

「俺に任せろ!必ず破談させてやる!」
「さすがお兄ちゃん!でもどうすればいいの?」
「今回は俺が変装して行く。あいつの貞操が心配すぎるからな」

 女にだらしないと噂の奴と妹を二人きりにはさせられない。こんなこともあろうかと今回は完璧な計画を実行できるように前から準備していたのだ。ふふ、首を洗って待っていろ明日見麟太郎!





「どうも、明日見麟太郎です。今日はよろしく」
「椿双葉です。よろしくお願いします」

 よしよし、気付いてはいなそうだな。側から見れば今の俺は完全に双葉だ。俺と双葉は背格好もほぼ同じである為、双葉の服を借りてウィッグを被っている。そして化粧をしたことで双葉とは瓜二つである。俺自身は可愛い妹とは違い平凡な顔をしているが、顔のパーツ自体は双子なだけあって、化粧でごまかせる程度には似ている。

「あの、そのマスクは?」
「喉の調子が悪くて。すみません」
「ふーん?まあ良いけど。じゃあ行こっか」

 マスクには通信機を兼ねたマイクを入れてある。さすがの俺も声真似は出来ないから会話は実際に双葉とやるという戦法だ。今日はお見合いと堅苦しい言い方をしているが簡単なデートのようなものだ。マスクを外さなくて良いように、食事はせず映画を観に行き買い物に付き合うだけの予定だ。

「俺さあ観たい映画あったんだよねー」

 いかにもチャラそうな口ぶりで明日見はこちらの要望も聞かず映画の座席を選んでいる。ふん、いくら顔が良くても女性を気遣えない男は双葉にはやれん!


「良い席取ったから。ここ座って」

 二人で話す時には話の盛り上がらないつまらない女を演じる。次は映画を見ている時だ。明日見の肘掛けスペースを当然の顔をして奪う。全く、つまらん恋愛映画を選びやがって。こんなものを双葉に見せようとしていたのか?

「……ッ!?」

 この男、腕を押してきている……!力尽くで肘掛けスペースを奪い返そうというのか!?やはりいけ好かない男だ。俺も意地になって押し返す。財閥の息子のくせに小さい奴だな……ますます妹はやれん。観念した様子の明日見は腕を下ろした。フッ……勝ったな。

「意地張っちゃって。可愛いね」
「!!」

 あろうことか、明日見は俺の手に自分の手を重ねた。何をしている!?これじゃあカップルみたいじゃないか!慌てて腕を振り払った。クソ、明日見に遊ばれてしまった。ここではイメージ下げ作戦は諦めよう。次の場所で巻き返しを図る。


「麟太郎さ~ん、私あれが欲しいな~!」

 今度は買ってもらえるとなったら急にテンションが上がる女を演じる。アカデミー賞も狙える演技派の双葉は声だけでウザい女を演じている。一方俺は身振り手振りで必死に女子らしい動きを演じた。

「えっと……それが欲しいの?」
「うん!」

 明日見に高級なものをねだったところで迷わず一括払いをしそうなので、ここはセンスが欠けたものをねだる事にする。俺が指差したのはクソダサい上に無駄に高いTシャツだ。ここで趣味が悪い女だと認識させる作戦である。

「うーん、まあ欲しいなら買ってあげるけど……」

 よし、かなり引いているな。明日見の中ではつまらなくでセンスの無い女の認識になっているのではなかろうか。次は買ってもらったもの受け取ったらそっけなくしてすぐ帰ろう。明日見が会計を済ませる間、小声で双葉と作戦会議をした。

「双葉、捨て台詞は考えたか?冷たく言い放つんだぞ」
「大丈夫だよお兄ちゃん!私の演技力を信じて!」
「あ、明日見が帰ってきた。頼むぞ!」

 元々ここで買い物をしたら解散する予定を伝えていたから、この後どうするかを聞かれたら捨て台詞を吐いて帰る算段だ。明日見から袋を受け取ろうとした瞬間、ひょいと袋を上に持ち上げられた。は?早く渡せよ。

「これからプラネタリウム見に行かない?」
「え?」

 俺が声に出したのかと焦ったが、双葉が俺も言いそうになったことを声に出していた。

「星見るの好きでしょ?行こうよ」

 明日見は胡散臭い笑みを浮かべてグイグイ迫ってくる。確かに星を見るのは好きだが、急に予想外のことを言われてしまった。関係なく断れば良い話なのだが、非常にまずいことに双葉はアドリブにめっぽう弱いのだ。頼む双葉、断ってくれ……。

「ちょっとだけなら……?」

 興味を示さないでくれ双葉ーーーー!!!実際行くのは俺なんだぞ!明日見はパッと目を見開くと強引に手を引いてきた。まずい、ここからはノープランだ。アドリブのできない双葉は全く喋らないかもしれないし、いらんことをペラペラ喋ってしまうかもしれない。とりあえず俺は黙り続けてつまらなそうな雰囲気を醸し出すしかなかった。


「着いた着いた。ここだよ」
「……?」

 連れてこられたのは高いビルだった。とてもプラネタリウムがありそうな外観では無いのだが。しかし双葉は何も言えなくなっている。

「大丈夫予約してたから。俺一回じっくり話してみたかったんだよね~、 双樹そうじゅくんと」
「え」

 つい声を出してしまったと気付いた時、明日見は俺のマスクを剥ぎ取り握り潰した。グシャッという音から通信機もといマイクが破壊されたのが察せられた。全身から冷や汗が出てくる。

「い……いつから気付いていた?」
「いつからっていうか……俺最初から双樹くんとお見合いするつもりだったよ」

 明日見がにこりと笑う。俺とお見合いするつもりだった?どういうことだ?

「君達双子ってバカで面白いな~!俺が思った通りに行動してんだもん」
「は?バカという言葉が聞き捨てならないが、どういうことだ?」
「双樹くん妹の為なら何でもするでしょ?身代わりになってくれそうだと思って双葉ちゃんに縁談を持ちかけたんだよね~」

 何だと……俺の作戦が明日見には読まれていたというのか!?こいつが思ったように行動していたなんて屈辱的すぎる。

「なかなかデートも楽しめたし、最後に確認させて欲しいことがあってね。着いてきて?」
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