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愛しの花宮君
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「ねえ聞いた!?花宮君好きな人居るらしいよ!!」
「嘘ー!?今まで誰とも付き合わないって言ってたのに!」
移動教室に向かう途中、そんな噂話を聞いた。……花宮の好きな人。十年くらいあいつの色恋沙汰に巻き込まれてきたが、あいつが好きな人の話は聞いたことが無かった。もしかして、ついにあいつに好きな奴ができたのか。もし付き合うことになったら、もう俺は花宮関係の厄介ごとに巻き込まれずに済むんじゃないのか。それは願ったり叶ったりだ。
「ついに花宮君にも想い人かー水月は思い当たる人いないの?」
「知らん、興味無い」
「お前が一番知ってそうなのに」
「はあ?」
噂はあっという間に校内に広まり、佐々木も耳にも届いたようだ。
「俺は早く彼女でも作ってくれた方が助かるんだけどな」
「そしたらお前ぼっちになっちゃうぞ?そうなったら俺がなだめてやるよ、よしよーし」
「おい頭触んな!」
佐々木は俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。こいつ、完全に馬鹿にしてやがる。佐々木の手を振り払い、とっとと課題を進めることにした。
「花宮君!私と付き合ってください!」
「ごめんね。子猫ちゃんには悪いけど、俺は俺の事を一番愛してくれてる人が好きなんだ」
「そんな!私だって花宮君のこと愛してるよ!」
「もちろん、みんなからの愛はひしひしと伝わってきているよ。でも、君は俺の一番のファンじゃないからね」
「え……?」
提出物を出しに行った帰り、渡り廊下を通りがかった時にうっかり花宮の告白現場に遭遇してしまった。幼馴染が告白されてるところなんて気まずいだけなのでなるべく遭遇しないようにしていたのにうっかりしていた。思わず来た道をUターンして早歩きで戻った。よし、もう帰ろう。……あの子もあいつの好きな人ではないのか。さっき変なこと言って断ってたけど、一番のファン?そんな奴が居たのか。
教室に戻り荷物をまとめていると、花宮が教室に入って来た。早く帰りたかったのに、会いたくなかったのによりにもよって花宮と鉢合わせてしまった。
「今から帰りか?一緒に帰ろうじゃないか」
「は?俺は用事あるから、お前は女子ども侍らせて帰れよ」
花宮の横を通り過ぎて教室を後にしようとした。
「さっきの告白見てただろ」
「…………は、知らねえよそんなの」
「俺の好きな人、気になってるんだな」
「……興味無いし」
花宮が近づいてくるのが分かる。早く教室を出たいのに体が動かない。花宮が俺の目の前に立った。
「俺の一番のファン、知ってるだろ?」
「え…………?」
「俺のファンクラブを作ったのは雨実じゃないか、忘れたなんて言わせないぞ」
「……あ、お、おれ」
花宮は心底嬉しそうに微笑んだ。ああ、ムカつくな。こいつがクソナルシストなのもしょうがないくらい顔が良い。
花宮のファンというのは遡れば幼稚園の頃から一定数いた。それはもう遊ぶときもおもちゃより花宮の取り合いをするくらい。もちろん本人はうんざりしていたけど、アイドル好きの母親の元で育っていた俺は女子達のことを花宮のファンなんだろうと認識していた。
「みんながおれをひとりじめしたいんだって、おれはみんなとなかよしになりたいのに」
「なかないで大ちゃん。みんなは大ちゃんのことがすきなファンなんだよ」
「ふぁん……?」
「だから大ちゃんはだれかじゃなくてみんなのもの!」
元々みんなが花宮の取り合いにならないようにとファンクラブを作ろうと提案したのだ。あいつが嫌な思いをしないように。そしたら花宮は俺に聞いてきたんだ。
「おれのことすきなこはファンなの?雨実ちゃんはおれのファン?」
「うん!おれがいちばん大ちゃんのファンだよ!だからこれからもおれとあそんでね!」
そうだ、あの時面と向かってお前のファンだと言ってしまった。でもあれは昔の事で、今はむしろ嫌いなんだよ。何でそんな昔の事を……。
「雨実はあれからずっと変わってないよな」
「はあ!?何言って」
「幼稚園の時からずっと俺と一緒に居ようとしてるじゃないか。大学だって、一生懸命勉強して俺と同じ所に行こうとしてるだろ?」
「……っ!!」
花宮が俺の頬を両手で包んだ。だ、駄目だろ、こんな近くに花宮の顔が。顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。後ずさっても花宮は手を離してくれない。
「雨実はずーっと俺の事が大好きなんだよ」
「な」
何か言い返そうと吸った息は花宮の口の中に消えてしまった。唇の柔らかい感触が伝わり、鼓動がどんどん早くなる。え、今花宮にキスされてる!?これ以上はヤバい。思わず突き飛ばしてしまった。
「あ、う、こ、こここんなのっ……!」
「ふふ……顔が真っ赤だぞ雨実」
花宮が俺の頭を優しい手つきで撫でてくる。何でこんなに動揺しているんだ。だって俺は、こいつのことが――
「雨実はどうしたい?一番一緒に居たいのは誰?」
「……え」
「釣り合わないとか周りの目を気にしてるのか?そんなの関係ないよ……雨実ちゃん」
花宮は俺をぎゅっと抱きしめて顔を寄せてきた。ふわふわの癖っ毛が頬に当たってくすぐったい。懐かしい匂いがする。昔はこうして嫌な事があると泣きながら俺に抱きついてきて、泣き止むまで背中をさすってたな。……いや、今の状況を誰かに見られたらまずいだろとか色々思ったけど、俺の体は花宮を抱きしめ返していた。
「……大ちゃん、俺とずっと一緒に居てくれる?」
「俺は最初からずっと一緒に居るつもりだったよ」
「……うん」
本当はずっと好きで一緒に居たくて、俺は頑張っていた。でも、どれだけ頑張っても俺は花宮と一緒に居るな、独り占めするなって言われた。だから、俺が花宮を嫌いだって言えばみんなも花宮も離れて行くと思っていた。それなのに花宮は離れてくれないし、俺だって本当は嫌いになれなくてずっと諦めきれなかったんだ。
「……うっ……ぐす……」
「昔とは真逆だな、落ち着くまでこのままでいようか」
涙が止まらない俺を抱きしめ続ける花宮の声は酷く優しかった。誰かに見られたら、とか花宮はそんなこと気にしていないんだ。今までずっと俺しか見てなかったんだろうな。
「好きだよ」
「……俺も、好き」
「嘘ー!?今まで誰とも付き合わないって言ってたのに!」
移動教室に向かう途中、そんな噂話を聞いた。……花宮の好きな人。十年くらいあいつの色恋沙汰に巻き込まれてきたが、あいつが好きな人の話は聞いたことが無かった。もしかして、ついにあいつに好きな奴ができたのか。もし付き合うことになったら、もう俺は花宮関係の厄介ごとに巻き込まれずに済むんじゃないのか。それは願ったり叶ったりだ。
「ついに花宮君にも想い人かー水月は思い当たる人いないの?」
「知らん、興味無い」
「お前が一番知ってそうなのに」
「はあ?」
噂はあっという間に校内に広まり、佐々木も耳にも届いたようだ。
「俺は早く彼女でも作ってくれた方が助かるんだけどな」
「そしたらお前ぼっちになっちゃうぞ?そうなったら俺がなだめてやるよ、よしよーし」
「おい頭触んな!」
佐々木は俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。こいつ、完全に馬鹿にしてやがる。佐々木の手を振り払い、とっとと課題を進めることにした。
「花宮君!私と付き合ってください!」
「ごめんね。子猫ちゃんには悪いけど、俺は俺の事を一番愛してくれてる人が好きなんだ」
「そんな!私だって花宮君のこと愛してるよ!」
「もちろん、みんなからの愛はひしひしと伝わってきているよ。でも、君は俺の一番のファンじゃないからね」
「え……?」
提出物を出しに行った帰り、渡り廊下を通りがかった時にうっかり花宮の告白現場に遭遇してしまった。幼馴染が告白されてるところなんて気まずいだけなのでなるべく遭遇しないようにしていたのにうっかりしていた。思わず来た道をUターンして早歩きで戻った。よし、もう帰ろう。……あの子もあいつの好きな人ではないのか。さっき変なこと言って断ってたけど、一番のファン?そんな奴が居たのか。
教室に戻り荷物をまとめていると、花宮が教室に入って来た。早く帰りたかったのに、会いたくなかったのによりにもよって花宮と鉢合わせてしまった。
「今から帰りか?一緒に帰ろうじゃないか」
「は?俺は用事あるから、お前は女子ども侍らせて帰れよ」
花宮の横を通り過ぎて教室を後にしようとした。
「さっきの告白見てただろ」
「…………は、知らねえよそんなの」
「俺の好きな人、気になってるんだな」
「……興味無いし」
花宮が近づいてくるのが分かる。早く教室を出たいのに体が動かない。花宮が俺の目の前に立った。
「俺の一番のファン、知ってるだろ?」
「え…………?」
「俺のファンクラブを作ったのは雨実じゃないか、忘れたなんて言わせないぞ」
「……あ、お、おれ」
花宮は心底嬉しそうに微笑んだ。ああ、ムカつくな。こいつがクソナルシストなのもしょうがないくらい顔が良い。
花宮のファンというのは遡れば幼稚園の頃から一定数いた。それはもう遊ぶときもおもちゃより花宮の取り合いをするくらい。もちろん本人はうんざりしていたけど、アイドル好きの母親の元で育っていた俺は女子達のことを花宮のファンなんだろうと認識していた。
「みんながおれをひとりじめしたいんだって、おれはみんなとなかよしになりたいのに」
「なかないで大ちゃん。みんなは大ちゃんのことがすきなファンなんだよ」
「ふぁん……?」
「だから大ちゃんはだれかじゃなくてみんなのもの!」
元々みんなが花宮の取り合いにならないようにとファンクラブを作ろうと提案したのだ。あいつが嫌な思いをしないように。そしたら花宮は俺に聞いてきたんだ。
「おれのことすきなこはファンなの?雨実ちゃんはおれのファン?」
「うん!おれがいちばん大ちゃんのファンだよ!だからこれからもおれとあそんでね!」
そうだ、あの時面と向かってお前のファンだと言ってしまった。でもあれは昔の事で、今はむしろ嫌いなんだよ。何でそんな昔の事を……。
「雨実はあれからずっと変わってないよな」
「はあ!?何言って」
「幼稚園の時からずっと俺と一緒に居ようとしてるじゃないか。大学だって、一生懸命勉強して俺と同じ所に行こうとしてるだろ?」
「……っ!!」
花宮が俺の頬を両手で包んだ。だ、駄目だろ、こんな近くに花宮の顔が。顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。後ずさっても花宮は手を離してくれない。
「雨実はずーっと俺の事が大好きなんだよ」
「な」
何か言い返そうと吸った息は花宮の口の中に消えてしまった。唇の柔らかい感触が伝わり、鼓動がどんどん早くなる。え、今花宮にキスされてる!?これ以上はヤバい。思わず突き飛ばしてしまった。
「あ、う、こ、こここんなのっ……!」
「ふふ……顔が真っ赤だぞ雨実」
花宮が俺の頭を優しい手つきで撫でてくる。何でこんなに動揺しているんだ。だって俺は、こいつのことが――
「雨実はどうしたい?一番一緒に居たいのは誰?」
「……え」
「釣り合わないとか周りの目を気にしてるのか?そんなの関係ないよ……雨実ちゃん」
花宮は俺をぎゅっと抱きしめて顔を寄せてきた。ふわふわの癖っ毛が頬に当たってくすぐったい。懐かしい匂いがする。昔はこうして嫌な事があると泣きながら俺に抱きついてきて、泣き止むまで背中をさすってたな。……いや、今の状況を誰かに見られたらまずいだろとか色々思ったけど、俺の体は花宮を抱きしめ返していた。
「……大ちゃん、俺とずっと一緒に居てくれる?」
「俺は最初からずっと一緒に居るつもりだったよ」
「……うん」
本当はずっと好きで一緒に居たくて、俺は頑張っていた。でも、どれだけ頑張っても俺は花宮と一緒に居るな、独り占めするなって言われた。だから、俺が花宮を嫌いだって言えばみんなも花宮も離れて行くと思っていた。それなのに花宮は離れてくれないし、俺だって本当は嫌いになれなくてずっと諦めきれなかったんだ。
「……うっ……ぐす……」
「昔とは真逆だな、落ち着くまでこのままでいようか」
涙が止まらない俺を抱きしめ続ける花宮の声は酷く優しかった。誰かに見られたら、とか花宮はそんなこと気にしていないんだ。今までずっと俺しか見てなかったんだろうな。
「好きだよ」
「……俺も、好き」
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