高嶺の花宮君

しづ未

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思い出が欲しい

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 今年も夏祭りの時期が近づいてきて、クラスメイトは浮き足立っている。それはそうだろう、みんなが狙っているのはもちろん花宮だ。誰が花宮と夏祭りに行くか火花がバチバチ上がっているのが分かる。そしてすでに行動に出ている者たちがいる。

「花宮君、良かったら夏祭り私と一緒に……」
「ちょっと!私が先に誘ってるのよ!」
「花宮!俺たちと一緒に行こうぜ」

 朝から騒がしいな……花宮もとっとと行く奴決めて断れよ。告白だって曖昧な返答をするからいつまでもされるんだ。誰も傷つけずに流すなんて無理なんだよ。

「お前は花宮君と行かねーの?」
「そもそも夏祭り行かねえから。あいつとなんて尚更無理」
「相変わらずだな、何でそんなに嫌ってんの?」

 佐々木は呑気にジュースを飲みながら聞いてきた。関係無いからって変なこと聞いてきやがって。

「あいつが構ってくるせいで俺にしわ寄せが来るんだよ」
「お前が誘えば花宮君来ると思うけどなー」
「だから行かねえよ」

 小学生の頃、花宮は何かとイベントごとがあると俺を誘ってきた。というか強制的に連れて行かれた。だからあいつがやって来ることは慣れていたのだが、その分花宮を誘いたい女子たちにとって俺は花宮を独り占めする悪者になる。そのせいで女子たちに詰められることが多かった。幼馴染だからって何でこんな目に合わないといけないんだ。こういうことを何年もされ続けると俺も捻くれた人間になってしまった。だから花宮とは一緒に居たくない。

「あと俺勉強しないといけないから」
「あーそうだったな……まあ頑張れよ」



 今日は外が騒がしい。そろそろ夏祭りが始まる時間だ。月末には模試が控えてるってのにみんなよく遊びに行こうと思えるな。俺がもっと要領が良くて、少し勉強するだけでいい頭だったら、俺も夏祭りに行こうと思ってただろうか。いや、そもそも人混みは嫌いだし別にそんなの興味無い。……でも、花火を見るのは嫌いじゃないんだ。
 俺は花宮に付きまとわれてるせいで結構な人数から目の敵にされてるし、正直友達も少ないので結局誰にも誘われなかった。佐々木も薄情な奴で彼女と行くらしいし。まあ分かってたけど、どうせ誘われたって断るけど!ぐちゃぐちゃした思考を断ち切ろうと勉強を始めた。

 しばらく勉強を続けて、そろそろ休憩しようとベッドに寝っ転がった。外を見るとすっかり暗くなっていて、家の前を通り過ぎる人々の声が聞こえてくる。あ……今度は花火の音が聞こえてきた。ちょっと気になるけどどうせ部屋からは見えないし別にいっか……。音を聞きながら目を閉じると、突然スマホが震えた。誰かからメッセージが届いたようだ。滅多に人から連絡なんて来ないから聞き慣れない通知音にびっくりした。

「こんな時に送ってくるなんて誰……あ」

 メッセージは花宮からだった。しかし何の言葉も無く、動画だけが送られてきた。動画って何だ……?ドキドキしながら開く。

「……花火だ」

 俺が花火を見るのが好きだって事を花宮だけが知っている。だからきっとこの動画を送ってきたのだろう。画面に映る花火はとても色鮮やかで綺麗だった。今頃、花宮は誰とこの花火を見てるんだろう。何を考えてこの動画を撮ったんだろう。俺が今一人でこの動画を見てるのを、花宮はどう思うんだろう。
 またスマホが震えた。今度はメッセージを送ってきたようだ。

『綺麗だろ?俺には及ばないけど』

 あいつまた調子の良いこと言いやがって。どうせ人混みの中で、誰かと手を繋ぎながら見てるんだろうな。恨めしく画面を見ているとまたメッセージが送られてきた。

『ベランダからよく見えるんだ』
「……は?」
『来年は一緒に見ような』



「……クソッ、嫌い、嫌い嫌い嫌い!」

 心を見透かしたような言葉を送ってくるなよ。早く忘れたくて俺は布団にくるまった。
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