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伝説の終わり──もうひとつの始まり【79】~【92】くらいの設定での話
ヒーローに恋をしちゃいけない
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-------------------前書き-------------------
【エピソード0】誓い──君の名を(2) 留の愛娘の紗如の一人称。
双子を産む前の話。
唏劉との出会い編。
ネタバレというより、本編の内容を深く知れるという話になっていると思います。
「私だけのヒーロー」というテーマのときに執筆した短編。
【ジャンル】恋愛
【タグ】私だけのヒーロー 姫 剣士 護衛 片想い 仕来り
---------------------------------------------------------
私の家にはたくさんの仕来りがある。たとえば娘が後継者になったり、後継者しか入れない場所があったりする。細かくて面倒くさい仕来りが多いけど、ただ、ひとつ、楽しみなこともある。
それは、剣士の名家の長男が十八歳になると、護衛として来ること。その長男は我が家の後継者に、一生仕えることになる。
私はここの後継者で、たくさんある仕来りを聞いてうんざりしそうになったときにその話を聞き、胸がときめいた。まるで、白馬に乗った王子様みたいだなと、そんな想像をしたから。
一生、私を護衛して仕えてくれる、私だけのヒーロー。でも、そんなヒーローに恋をしちゃいけない決まりなの。
でもね、大丈夫。ここの姫は代々報われないと知っているの。だから、好きになっても期待しない。恋愛と結婚は別だと理解しているし、好きな人を眺めていられるなら、それはそれで幸せだなって思うの。だって、いつかは政略的に結婚させられる身だとしても、恋をしてときめいてみたいもの。恋をできたら、すてきだわ。
そろそろ、その人が十八歳になると聞いた。だから、私の心はドキドキしている。うれしいはずなのに、なぜか胸が潰されそう。
大丈夫。私は七つも下だもの。きっと、相手にもされないわ。でもね、それで構わないのよ。心の中で私だけのヒーローだって囁いて、幸せを噛みしめるの。それはそれで、幸せだと思うのよね。
太陽を浴びたくなって、中庭へと出る。たくさんの花が咲いていて、来ると来ないを口ずさむ。あと、何日で来るのかしら。
カサリと誰かの足音が聞こえて、驚く。更に驚いたのは……。
「紗如……姫?」
名前を、知らない男性に呼ばれたこと。
「だ……誰?」
「驚かせてしまって、申し訳ありません。私、涼舞城の長男、唏劉と申します。一度、ごあいさつにと伺いまして……姫がこちらにいると……突然押しかけてしまい、ご迷惑でしたね」
灰色がかったうす紫色の私の髪と瞳と違って、なんてきれいな色をしているのだろうと息を飲む。私が待っていた人は、春の花のようにやわらかい色を持ち、表情も声も、同じようなやわらかさを持つ人だった。
「迷惑……だ、なんて。わざわざ、あいさつに来てくれて、ありがとう」
私がぎこちなく笑うと、唏劉は安心したかのように頬がゆるんだ。ああ、思っていた以上に、白馬に乗った王子様そのものだ。
『よかったです』なんて、三十センチ以上背の低い私に合わせて屈む──じゃなく、片膝をつき、礼をした。
「三日後に、正式に参ります。よろしくお願い致します、紗如姫」
『はい』と返事をしようとしたけれどできたのか、わからない。意識が飛んでしまったかのように、ただ唏劉を目で追うしかできなくなってしまって。
ただ、多分、私はきちんと言えたのだろう。唏劉は立ち上がり、低い位置で一本にまとめた長い髪をサラリと揺らして微笑んだ。
華奢な体にしっかりと剣を携え、私を守ると誓いを述べる。
ああ、思っていた以上にはやく、私は恋に落ちたんだなと自覚する。
一生、私を護衛して仕えてくれるのよね? 私だけのヒーロー。
【エピソード0】誓い──君の名を(2) 留の愛娘の紗如の一人称。
双子を産む前の話。
唏劉との出会い編。
ネタバレというより、本編の内容を深く知れるという話になっていると思います。
「私だけのヒーロー」というテーマのときに執筆した短編。
【ジャンル】恋愛
【タグ】私だけのヒーロー 姫 剣士 護衛 片想い 仕来り
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私の家にはたくさんの仕来りがある。たとえば娘が後継者になったり、後継者しか入れない場所があったりする。細かくて面倒くさい仕来りが多いけど、ただ、ひとつ、楽しみなこともある。
それは、剣士の名家の長男が十八歳になると、護衛として来ること。その長男は我が家の後継者に、一生仕えることになる。
私はここの後継者で、たくさんある仕来りを聞いてうんざりしそうになったときにその話を聞き、胸がときめいた。まるで、白馬に乗った王子様みたいだなと、そんな想像をしたから。
一生、私を護衛して仕えてくれる、私だけのヒーロー。でも、そんなヒーローに恋をしちゃいけない決まりなの。
でもね、大丈夫。ここの姫は代々報われないと知っているの。だから、好きになっても期待しない。恋愛と結婚は別だと理解しているし、好きな人を眺めていられるなら、それはそれで幸せだなって思うの。だって、いつかは政略的に結婚させられる身だとしても、恋をしてときめいてみたいもの。恋をできたら、すてきだわ。
そろそろ、その人が十八歳になると聞いた。だから、私の心はドキドキしている。うれしいはずなのに、なぜか胸が潰されそう。
大丈夫。私は七つも下だもの。きっと、相手にもされないわ。でもね、それで構わないのよ。心の中で私だけのヒーローだって囁いて、幸せを噛みしめるの。それはそれで、幸せだと思うのよね。
太陽を浴びたくなって、中庭へと出る。たくさんの花が咲いていて、来ると来ないを口ずさむ。あと、何日で来るのかしら。
カサリと誰かの足音が聞こえて、驚く。更に驚いたのは……。
「紗如……姫?」
名前を、知らない男性に呼ばれたこと。
「だ……誰?」
「驚かせてしまって、申し訳ありません。私、涼舞城の長男、唏劉と申します。一度、ごあいさつにと伺いまして……姫がこちらにいると……突然押しかけてしまい、ご迷惑でしたね」
灰色がかったうす紫色の私の髪と瞳と違って、なんてきれいな色をしているのだろうと息を飲む。私が待っていた人は、春の花のようにやわらかい色を持ち、表情も声も、同じようなやわらかさを持つ人だった。
「迷惑……だ、なんて。わざわざ、あいさつに来てくれて、ありがとう」
私がぎこちなく笑うと、唏劉は安心したかのように頬がゆるんだ。ああ、思っていた以上に、白馬に乗った王子様そのものだ。
『よかったです』なんて、三十センチ以上背の低い私に合わせて屈む──じゃなく、片膝をつき、礼をした。
「三日後に、正式に参ります。よろしくお願い致します、紗如姫」
『はい』と返事をしようとしたけれどできたのか、わからない。意識が飛んでしまったかのように、ただ唏劉を目で追うしかできなくなってしまって。
ただ、多分、私はきちんと言えたのだろう。唏劉は立ち上がり、低い位置で一本にまとめた長い髪をサラリと揺らして微笑んだ。
華奢な体にしっかりと剣を携え、私を守ると誓いを述べる。
ああ、思っていた以上にはやく、私は恋に落ちたんだなと自覚する。
一生、私を護衛して仕えてくれるのよね? 私だけのヒーロー。
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