12 / 15
交換条件
しおりを挟む
きれいな景色が広がっていました。
大きく見えていた木も、一面に広がっていた海も、そこからは遠くに一望できたのです。
「ここが……じ~さんの好きな場所なんだね」
「うん、ここから見える景色が好き」
周囲には多少の草があるものの、ずっと食べていけるほどの食糧はありません。
「昔……僕がまだ羊の群れについていこうと思っていたときに通ったところなんだ。ずっと忘れられなくて、悲しいことがあったり、辛いことがあったら、ここに来ていたんだ」
「いい場所だね」
じ~さんは微笑みました。
「みーちゃんと出会ってから、初めてきたよ。みーちゃんと出会ってからは、毎日が楽しかったから、この場所のこと、すっかり忘れてた。……僕も同じだ」
じ~さんは遠くの景色をぼんやりと眺めます。
「僕ね、羊の群れでなじめなかったんだ。みーちゃんは羊がかわいいって言うけど、僕にはそう思えない。誰かを自分のために利用するような奴らにしか思えなかった。僕は、自分が利用されないようにとしか、思えなくなった。強くなりたいって思った」
「だから、狼になろうと思ったの?」
みーちゃんはジッとじ~さんを見つめていました。
「初めは単純に狼になれば、いじめられることもないと思っただけ。でも、狼の強さはまた違くて。かっこいいなって思った。僕は狼にも、強くもなれなかった。あがいたつもりだったけど、僕は羊のままだ。この景色のことを利用して、都合がよくなったら忘れてた」
「それって、悪いことなのかな?」
今度はみーちゃんがぼんやりと景色を眺めます。じ~さんの視界には、はっきりとみーちゃんの姿が映っていました。
「辛いことをひとりで抱えるって大変だもの」
みーちゃんの肩がじ~さんに触れます。
「一緒にいてくれて、ありがとう」
じ~さんは抱き寄せました。
「みーちゃん、僕より先に死なないで」
「どうしたの、急に」
「僕が死んだら、みーちゃんが僕を食べてね」
「嫌だよ」
真顔での即答に、じ~さんの顔が歪みました。
「嫌だよ」
今度はじ~さんです。
フウと、みーちゃんはため息をもらすと、
「しょうがないな。わかった。じ~さんの言う通りにする」
と、諦めた声を出しました。
じ~さんの表情はパッと明るくなります。そのときです。
「ただし、交換条件」
ハッキリとしたみーちゃんの声です。
「私が先に死んだら、そこから生えてくる草をじ~さんは食べてね」
大きく見えていた木も、一面に広がっていた海も、そこからは遠くに一望できたのです。
「ここが……じ~さんの好きな場所なんだね」
「うん、ここから見える景色が好き」
周囲には多少の草があるものの、ずっと食べていけるほどの食糧はありません。
「昔……僕がまだ羊の群れについていこうと思っていたときに通ったところなんだ。ずっと忘れられなくて、悲しいことがあったり、辛いことがあったら、ここに来ていたんだ」
「いい場所だね」
じ~さんは微笑みました。
「みーちゃんと出会ってから、初めてきたよ。みーちゃんと出会ってからは、毎日が楽しかったから、この場所のこと、すっかり忘れてた。……僕も同じだ」
じ~さんは遠くの景色をぼんやりと眺めます。
「僕ね、羊の群れでなじめなかったんだ。みーちゃんは羊がかわいいって言うけど、僕にはそう思えない。誰かを自分のために利用するような奴らにしか思えなかった。僕は、自分が利用されないようにとしか、思えなくなった。強くなりたいって思った」
「だから、狼になろうと思ったの?」
みーちゃんはジッとじ~さんを見つめていました。
「初めは単純に狼になれば、いじめられることもないと思っただけ。でも、狼の強さはまた違くて。かっこいいなって思った。僕は狼にも、強くもなれなかった。あがいたつもりだったけど、僕は羊のままだ。この景色のことを利用して、都合がよくなったら忘れてた」
「それって、悪いことなのかな?」
今度はみーちゃんがぼんやりと景色を眺めます。じ~さんの視界には、はっきりとみーちゃんの姿が映っていました。
「辛いことをひとりで抱えるって大変だもの」
みーちゃんの肩がじ~さんに触れます。
「一緒にいてくれて、ありがとう」
じ~さんは抱き寄せました。
「みーちゃん、僕より先に死なないで」
「どうしたの、急に」
「僕が死んだら、みーちゃんが僕を食べてね」
「嫌だよ」
真顔での即答に、じ~さんの顔が歪みました。
「嫌だよ」
今度はじ~さんです。
フウと、みーちゃんはため息をもらすと、
「しょうがないな。わかった。じ~さんの言う通りにする」
と、諦めた声を出しました。
じ~さんの表情はパッと明るくなります。そのときです。
「ただし、交換条件」
ハッキリとしたみーちゃんの声です。
「私が先に死んだら、そこから生えてくる草をじ~さんは食べてね」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
灰色のねこっち
ひさよし はじめ
児童書・童話
痩せっぽちでボロボロで使い古された雑巾のような毛色の猫の名前は「ねこっち」
気が弱くて弱虫で、いつも餌に困っていたねこっちはある人と出会う。
そして一匹と一人の共同生活が始まった。
そんなねこっちのノラ時代から飼い猫時代、そして天に召されるまでの驚きとハラハラと涙のお話。
最後まで懸命に生きた、一匹の猫の命の軌跡。
※実話を猫視点から書いた童話風なお話です。

アルダブラ君、逃げ出す
んが
児童書・童話
動物たちがのびのびとおさんぽできる小さな動物園。
あるひ、誰かが動物園の入り口の扉を閉め忘れて、アルダブラゾウガメのアルダブラ君が逃げ出してしまいます。
逃げ出したゾウガメのあとをそっとついていくライオンのオライオンと豚のぶた太の三頭組が繰りひろげる珍道中を描いています。
ある競走馬の物語
☆リサーナ☆
児童書・童話
大好きな馬の話を絵本や童話のような感じで書かせて頂きました(^^)
【第1話〜シラヒメ編〜あらすじ】
小さな牧場で生まれた真っ白な子馬シラヒメは、優しくお世話をしてくれる牧場のみんなが大好き。
速く走ると喜んでくれる笑顔を見るのが大好き。
成長するにつれて新たにたくさんの出会いがあり、大好きな人が増えていくシラヒメはもっとみんなが笑顔になるよう頑張り続けます。
しかし、大事なレースを前にシラヒメは自分の脚に違和感があるのを感じます。
自分が走らないとみんなが悲しむと思ったシラヒメは、
もう少しだけーー。
と、願い、脚を庇いながらもレースに挑みます。
大好きな人を笑顔にする為に走り続けるシラヒメを、どうぞ見てやって下さいm(_ _)m
2021.11.27(土)
他サイトにて公開・完結
※表紙絵画像は自分で撮影して加工したものになります。無断で保存や使用はお控え下さい。
シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。
以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。
不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。
キコのおつかい
紅粉 藍
児童書・童話
絵本風のやさしい文体で、主人公の女の子・キコのおつかいが描かれています。冬支度のために木の実をとってくるようにお母さんに言いつけられたキコ。初めてのひとりでのおつかいはきちんとできるのでしょうか?秋という季節特有の寒さと温かさと彩りを感じながら、キコといっしょにドキドキしたりほんわかしたりしてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる