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プロローグ ここはどこ?
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ぱちりと目が覚めた。
仰向けに倒れていた雫は視線動かし、周囲を見渡す。
「ここ、どこ?」
暗い。真っ暗闇とはこのことだろう。どこにも光明が見当たらない。
雫は倒れていた体をゆっくり起こし今一度、周囲を見渡す範囲を広めた。左右、上下、前後すべてだ。しかし、答えはさきほどと同じだった。
異様だ。通常、人間の目はしばらくすると暗闇に慣れ、物の輪郭くらいはおぼろげでも大抵把握できる。しかし目を何回も凝らし、時を待っても何も見えてこない。あるのは不気味なほどの静寂だけだった。
人の声も雑音も何もない完全な無音。これほど気が遠くなるほどの無音は初めてかもしれない。どこかの部屋の中なのか、部屋の外なのかも判断がつかない。
さらにいえば、暑さや寒さも感じなかった。
7月初旬。夏の暑さが本格的になってきた時期。
学校の衣替えをとうに終えた雫はむき出しになった腕や首筋から汗を滲ませながら毎日登下校を繰り返していた。もし、ここが室外なら汗がとうに噴出している。たとえ、この暗闇が夜闇だったとしても生暖かい風が肌に触れているはずだ。でも、今の雫には冷風も暖風も感じなかった。
まるで五感の一つである触覚を遮断されたかのようだった。
「あれ?なんで私が見えるの?」
全体を把握しようと視線や頭を動かしていると、一番の奇妙さに気づく。闇の中にいるにも関わらず、己の姿がはっきりと見ることができた。これほど暗闇に閉ざされた場所にいながら、白い線が入った大きな茶色の襟の白いトップス、襟と同じ色のスカート、白い靴下の上に黒いローファーを身に付けていると視認できた。
自分の身体だけが暗闇に溶け込まず、ただ一人そこにいる異様な状況。
「まぁ、これは置いておいて」
雫は今一度、己の状態を確認するかのように指で白いスカーフを引っ張った。
わからないものを延々と考えてもしかたがない。
自分はどこだかわからない暗闇の中にいる。それなのに己の姿がはっきり見える。
雫はそれを淡々と受け入れた。たった一人だけしかいないこの状況では受け入れるしかなかった。
次に考えるべきことは『なぜ、自分はここにいるか』だ。
自分は見ず知らずの場所にたった一人でいる。
「誘拐?」
本来ならばそれが妥当の答えだろう。しかし、それはあまりにも自分には似つかわしくない言葉だった。様々な理由があるがこの不可解な状況を『誘拐』という言葉だけでは説明しきれない。雫はすぐに思い至った考えを除外する。雫はしばらく唸るように考えあぐね、最終的に一つの結論にたどり着いた。
「夢?」
雫は腕を組み、呟いた。それは誘拐よりも幼稚な答えだった。
でも、夢で片付けてしまえばすべて説明がつく。この不可解な状況すべてを。
雫はその場に仰向けになった。どこともわからない場所で自分から寝転がるなんて決して行儀がいいことではない。でも、これが夢なら行儀なんて関係ない。
もう一度寝て目が覚めたら元に戻って言っている可能性もある。非現実的だが、こんな暗闇でしかもたった一人でいるこの状況では他になにかできることはなさそうだ。一度寝て元に戻っていなかったらそのときはそのときで考えよう。
雫は半ば現実から逃避するかのように無理矢理目を閉じ、眠りに付こうとする。
仰向けに倒れていた雫は視線動かし、周囲を見渡す。
「ここ、どこ?」
暗い。真っ暗闇とはこのことだろう。どこにも光明が見当たらない。
雫は倒れていた体をゆっくり起こし今一度、周囲を見渡す範囲を広めた。左右、上下、前後すべてだ。しかし、答えはさきほどと同じだった。
異様だ。通常、人間の目はしばらくすると暗闇に慣れ、物の輪郭くらいはおぼろげでも大抵把握できる。しかし目を何回も凝らし、時を待っても何も見えてこない。あるのは不気味なほどの静寂だけだった。
人の声も雑音も何もない完全な無音。これほど気が遠くなるほどの無音は初めてかもしれない。どこかの部屋の中なのか、部屋の外なのかも判断がつかない。
さらにいえば、暑さや寒さも感じなかった。
7月初旬。夏の暑さが本格的になってきた時期。
学校の衣替えをとうに終えた雫はむき出しになった腕や首筋から汗を滲ませながら毎日登下校を繰り返していた。もし、ここが室外なら汗がとうに噴出している。たとえ、この暗闇が夜闇だったとしても生暖かい風が肌に触れているはずだ。でも、今の雫には冷風も暖風も感じなかった。
まるで五感の一つである触覚を遮断されたかのようだった。
「あれ?なんで私が見えるの?」
全体を把握しようと視線や頭を動かしていると、一番の奇妙さに気づく。闇の中にいるにも関わらず、己の姿がはっきりと見ることができた。これほど暗闇に閉ざされた場所にいながら、白い線が入った大きな茶色の襟の白いトップス、襟と同じ色のスカート、白い靴下の上に黒いローファーを身に付けていると視認できた。
自分の身体だけが暗闇に溶け込まず、ただ一人そこにいる異様な状況。
「まぁ、これは置いておいて」
雫は今一度、己の状態を確認するかのように指で白いスカーフを引っ張った。
わからないものを延々と考えてもしかたがない。
自分はどこだかわからない暗闇の中にいる。それなのに己の姿がはっきり見える。
雫はそれを淡々と受け入れた。たった一人だけしかいないこの状況では受け入れるしかなかった。
次に考えるべきことは『なぜ、自分はここにいるか』だ。
自分は見ず知らずの場所にたった一人でいる。
「誘拐?」
本来ならばそれが妥当の答えだろう。しかし、それはあまりにも自分には似つかわしくない言葉だった。様々な理由があるがこの不可解な状況を『誘拐』という言葉だけでは説明しきれない。雫はすぐに思い至った考えを除外する。雫はしばらく唸るように考えあぐね、最終的に一つの結論にたどり着いた。
「夢?」
雫は腕を組み、呟いた。それは誘拐よりも幼稚な答えだった。
でも、夢で片付けてしまえばすべて説明がつく。この不可解な状況すべてを。
雫はその場に仰向けになった。どこともわからない場所で自分から寝転がるなんて決して行儀がいいことではない。でも、これが夢なら行儀なんて関係ない。
もう一度寝て目が覚めたら元に戻って言っている可能性もある。非現実的だが、こんな暗闇でしかもたった一人でいるこの状況では他になにかできることはなさそうだ。一度寝て元に戻っていなかったらそのときはそのときで考えよう。
雫は半ば現実から逃避するかのように無理矢理目を閉じ、眠りに付こうとする。
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