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私のグータラ返せ!!
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街の中心は今日も賑やかだ。昼をとうに過ぎた時間だというのに人通りが激しい。
私は市場に来ていた。果物や野菜を山済みにした屋台や飲み食いできるフードを扱っている屋台や壺などの骨董品をシートに広げている人間など様々だ。通りから客を呼び込むための売り手の張り上げ声があちこちから聞こえてくる。私が探しているのはパンを置いている屋台だ。
「市場なだけ人がたくさんいるね」
「……る」
「でも意外だったよ。怜が外に出るなんて」
「……を買……かえ……」
「いくら主食のパンを買うためとはいえ………って怜聞いてる?」
「パンを買ったらすぐ帰るパンを買ったらすぐ帰るパンを買ったらすぐ帰るパンを―」
「お~い……聞いてないな」
頭上でうさぎが呆れながら何かを言っているらしいが気にはしない。
『パンを買ったらすぐ帰る』
私はそれを呪文のように繰り返していた。他の屋台に目移りすることなく私は必要以上にパンを置いている店を目を皿のようにして探している。どこかの屋台の売り手に声をかけられたりもしたが完全無視した。
私は朝から何も食べていない。時折、肉を焼いている香ばしい香りや生クリームの甘い香りが空腹感を刺激することもあった。でも、私は今日の一口目を夢の中に出てきたチーズを乗せたパンにすると決めていた。私は空腹が刺激するたびそれを思い出し、食欲を無理やり押し込めている。。
通りに足を進めていくと一角にパンが置かれている屋台を見つけた。茶色い編み皿がたくさん台に置かれており、そこに何種類ものパンが積み重なっている。私が買おうと思っていたパンもそこにある。
よし、買おう。
「いらっしゃい」
白いエプロンをつけた恰幅の良いおじさんが出迎えてくれた。
「えっと、黒パン2個と白パン3個。クロワッサン3個。ベーグル3個にバイツェンブロート2個」
計13個。少し多めかもしれないが、この際買いだめしておこう。
「はいよ。銀貨4枚ね」
まぁ、それくらいはするか。ジャケットのポケットから赤い財布を取り出し銀貨を渡した。
「まいどあり。少し重いけど気をつけて」
そう言ってたくさんのパンが入った茶色い紙袋を渡してくれた。紙袋にはパンがぎっしり入っており、どうにかパンすべてが収まっている状態である。パン14個も入っているため受け取ったとき腕に負荷がかかり少しよろけかかる。
しかし、持てないほどではない。
「でもちょっときつい」
さすがに両手を塞がれていると歩きにくい。
「おい」
「前にも言ったと思うけど」
「あ~、はいはい、制約ね………ちっ」
「舌打ちあからさますぎるって」
相変わらず地獄耳だ。
「怜、忘れてない?」
「は?」
どの持ち方が一番楽か何回も持ち直しながらうさぎを見上げる。
「君にはノアがあるじゃんか、念動力の」
「あ」
すっかり忘れていた。わざわざ両手に抱える必要なんてないんだ。
「でも私は一度に一つのものしか動かせないけど」
「パンを動かすんじゃなくて紙袋を動かすんだよ」
たしかにパンを包んでいる土台を持ち上げたほうが一番手っ取り早い。私は右手で紙袋のそこに触れノアを発動した。一瞬で紙袋は私の手元から離れ、ふわっと浮いた。
「ちょっと重い」
宙に浮かせているとはいえ、重さが右腕にかかり手が震える。私の手が震えると紙袋も少し震えるように動く。
「でも、こっちのほうが幾分ましかも」
ゆっくり歩けば30分くらいは大丈夫だろう。
よし帰ろう。即座に帰ろう。脇目も振らずに家を目指そう。
そしてはやく夢の中の再現料理をしよう。
主人公補正なんて知るか。左手の拳を握り締めそう決した。
「誰か!泥棒よ!」
女の叫び声が聞こえた。
泥棒?
目を向けると通りのほうから目元までニット帽をかぶった男を女が追っている。男は走りながら財布を握り締め、そのまま懐にしまいこんでいるのが見えた。
「誰かその男をつかまえて!」
女のせっつく声に周りが反応し、数人が男の行く先を阻もうと立ち塞がる。男はそれをどこか余裕のある態度で、ニヤニヤと笑っていた。一斉に男に飛び掛った瞬間男がその場から消えた。
「!?」
周りが困惑する中、男は別の場所いつのまにか移動していた。
「なっ、俺の財布がない!」
男に飛び掛った人間の一人が慌てて懐をまさぐっている。男のほうを見ると手には黒い財布を握り締めている。それをニヤニヤと馬鹿にするような笑いを浮かべながらこれ見よがしに懐にしまった。そしてまたその場から消え、今度は見上げなければ確認できない空中に移動した。
飛んだ?いや違う。あれは瞬間移動のノアだ。男は空から地面へ、地面から空中へと消えては移動を繰り返している。男はそのまますれ違う人々の懐から財布をくすねて続けこちらに近づいてきた。男を捕まえようと行き交う人々は足を止めるが目にも止まらぬ素早い動きに誰もが翻弄されている。
「うわ、こっちに近づいてくる」
「みたいだね」
顔がひきつる。私は関係ない。絶対に巻きこまれない。
そう何回も頭の中で唱えながら財布をひったくっている男を素通りしようと思った。私はどうぞお通りくださいと言わんばかりに通りの脇に体を寄せた。周囲がどうしようか騒ぎ立てているのに対し私は冷静に男を見据えている。右手はノアで浮ばせたパンが入ってる紙袋を浮かばせ、左手は財布が入ったジャケットのポケットに手をつっこんでいる。
男が近づいてくる。ポケットの中にある財布をがっちり掴んでいるため盗まれることはないだろう。
男が素通りしたらこのパンを抱えて家に帰る。
当初の予定通りだ。なにも問題はない。
「怜、近づいてくるよ」
「わかってる」
私はじっとその場から動かず、嵐が過ぎ去るのを待った。
もう男は私の目前までやってきた。そして男が私のすぐ傍まで来たと思うとすぐに消え、向こうに移動した。
「……………は?」
その瞬間、右手が一気に軽くなった。さきほどまでたしかにあったパンが入った紙袋が消えていた。
「なんで?」
「怜、怜」
愕然としている私にうさぎが声をかけた。
「あそこ」
うさぎが示した方向に目をやるとあの男が私が買ったばかりのパンの紙袋を抱えていた。
「なっ」
男は腹が空いていたのか一番上に重ねてあった黒パンをその場でむしゃむしゃ食べていた。ぐしゃりと乱暴な手つきで抱えているため、せっかく買ったパンが何個もぽろぽろ地面に落ちていく。
「な、な……私のパン」
わなわなと震えている私を男は鼻で笑い、見せ付けるようにして落ちたパンを踏みつけた。
「!」
男は持ち運ぶため数個のパンを紙袋に残し、また瞬間移動した。
私は踏みつけたパンを見つめる。もう食べられそうにないほどぐちゃぐちゃになっている。冷えていた頭の中が徐々に沸騰しそうなほど怒りがこみ上げていくのがわかる。
ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。
往復1時間も歩くにも関わらず、せっかくここまで来てパンを買いに来たんだぞ。
オマエに食わせるためじゃない。しかも、オマエが食ったパンは私は帰ってさっそく食べようと思っていたパンだぞ。
「返せ」
パンを返せ。金返せ。ここまでの労力返せ。体力返せ。
むかつくむかつくむかつくむかつく。
色々むかつく。
なんで私こんな目に遭ってんだ。なんで一回外に出たら面倒ごとに必ず遭遇するんだ。
私はただグータラ生活送りたいだけなのに。私が何したって言うんだ。
「……しの」
「怜?」
体の震えが止まらない。うさぎが心配そうに近づいてくる。
「わた……しの……」
すべてのことにむかつく。
無意識に体が動く。私はうさぎを右手で思いっきり掴み、左足を踏み出し身体を反らし反動をつけた。
「私のグータラ返せ!!」
そう叫びながらあの男めがけて思いっきり投げつけた。
「うぎゃあああああああ!!」
予想通りのうさぎの大絶叫。しかし、その大絶叫は周りには聞こえていない。
もちろん、あの男にもだ。
ばこん!
ものの見事に男の頭に命中した。男はそのまま地面に倒れ、気を失った。うさぎは気を失いはしていないようだが、目を回している。
(そして当たったし!)
投げた私が言うのもなんだが、本当に当たるとは思わなかった。
私は市場に来ていた。果物や野菜を山済みにした屋台や飲み食いできるフードを扱っている屋台や壺などの骨董品をシートに広げている人間など様々だ。通りから客を呼び込むための売り手の張り上げ声があちこちから聞こえてくる。私が探しているのはパンを置いている屋台だ。
「市場なだけ人がたくさんいるね」
「……る」
「でも意外だったよ。怜が外に出るなんて」
「……を買……かえ……」
「いくら主食のパンを買うためとはいえ………って怜聞いてる?」
「パンを買ったらすぐ帰るパンを買ったらすぐ帰るパンを買ったらすぐ帰るパンを―」
「お~い……聞いてないな」
頭上でうさぎが呆れながら何かを言っているらしいが気にはしない。
『パンを買ったらすぐ帰る』
私はそれを呪文のように繰り返していた。他の屋台に目移りすることなく私は必要以上にパンを置いている店を目を皿のようにして探している。どこかの屋台の売り手に声をかけられたりもしたが完全無視した。
私は朝から何も食べていない。時折、肉を焼いている香ばしい香りや生クリームの甘い香りが空腹感を刺激することもあった。でも、私は今日の一口目を夢の中に出てきたチーズを乗せたパンにすると決めていた。私は空腹が刺激するたびそれを思い出し、食欲を無理やり押し込めている。。
通りに足を進めていくと一角にパンが置かれている屋台を見つけた。茶色い編み皿がたくさん台に置かれており、そこに何種類ものパンが積み重なっている。私が買おうと思っていたパンもそこにある。
よし、買おう。
「いらっしゃい」
白いエプロンをつけた恰幅の良いおじさんが出迎えてくれた。
「えっと、黒パン2個と白パン3個。クロワッサン3個。ベーグル3個にバイツェンブロート2個」
計13個。少し多めかもしれないが、この際買いだめしておこう。
「はいよ。銀貨4枚ね」
まぁ、それくらいはするか。ジャケットのポケットから赤い財布を取り出し銀貨を渡した。
「まいどあり。少し重いけど気をつけて」
そう言ってたくさんのパンが入った茶色い紙袋を渡してくれた。紙袋にはパンがぎっしり入っており、どうにかパンすべてが収まっている状態である。パン14個も入っているため受け取ったとき腕に負荷がかかり少しよろけかかる。
しかし、持てないほどではない。
「でもちょっときつい」
さすがに両手を塞がれていると歩きにくい。
「おい」
「前にも言ったと思うけど」
「あ~、はいはい、制約ね………ちっ」
「舌打ちあからさますぎるって」
相変わらず地獄耳だ。
「怜、忘れてない?」
「は?」
どの持ち方が一番楽か何回も持ち直しながらうさぎを見上げる。
「君にはノアがあるじゃんか、念動力の」
「あ」
すっかり忘れていた。わざわざ両手に抱える必要なんてないんだ。
「でも私は一度に一つのものしか動かせないけど」
「パンを動かすんじゃなくて紙袋を動かすんだよ」
たしかにパンを包んでいる土台を持ち上げたほうが一番手っ取り早い。私は右手で紙袋のそこに触れノアを発動した。一瞬で紙袋は私の手元から離れ、ふわっと浮いた。
「ちょっと重い」
宙に浮かせているとはいえ、重さが右腕にかかり手が震える。私の手が震えると紙袋も少し震えるように動く。
「でも、こっちのほうが幾分ましかも」
ゆっくり歩けば30分くらいは大丈夫だろう。
よし帰ろう。即座に帰ろう。脇目も振らずに家を目指そう。
そしてはやく夢の中の再現料理をしよう。
主人公補正なんて知るか。左手の拳を握り締めそう決した。
「誰か!泥棒よ!」
女の叫び声が聞こえた。
泥棒?
目を向けると通りのほうから目元までニット帽をかぶった男を女が追っている。男は走りながら財布を握り締め、そのまま懐にしまいこんでいるのが見えた。
「誰かその男をつかまえて!」
女のせっつく声に周りが反応し、数人が男の行く先を阻もうと立ち塞がる。男はそれをどこか余裕のある態度で、ニヤニヤと笑っていた。一斉に男に飛び掛った瞬間男がその場から消えた。
「!?」
周りが困惑する中、男は別の場所いつのまにか移動していた。
「なっ、俺の財布がない!」
男に飛び掛った人間の一人が慌てて懐をまさぐっている。男のほうを見ると手には黒い財布を握り締めている。それをニヤニヤと馬鹿にするような笑いを浮かべながらこれ見よがしに懐にしまった。そしてまたその場から消え、今度は見上げなければ確認できない空中に移動した。
飛んだ?いや違う。あれは瞬間移動のノアだ。男は空から地面へ、地面から空中へと消えては移動を繰り返している。男はそのまますれ違う人々の懐から財布をくすねて続けこちらに近づいてきた。男を捕まえようと行き交う人々は足を止めるが目にも止まらぬ素早い動きに誰もが翻弄されている。
「うわ、こっちに近づいてくる」
「みたいだね」
顔がひきつる。私は関係ない。絶対に巻きこまれない。
そう何回も頭の中で唱えながら財布をひったくっている男を素通りしようと思った。私はどうぞお通りくださいと言わんばかりに通りの脇に体を寄せた。周囲がどうしようか騒ぎ立てているのに対し私は冷静に男を見据えている。右手はノアで浮ばせたパンが入ってる紙袋を浮かばせ、左手は財布が入ったジャケットのポケットに手をつっこんでいる。
男が近づいてくる。ポケットの中にある財布をがっちり掴んでいるため盗まれることはないだろう。
男が素通りしたらこのパンを抱えて家に帰る。
当初の予定通りだ。なにも問題はない。
「怜、近づいてくるよ」
「わかってる」
私はじっとその場から動かず、嵐が過ぎ去るのを待った。
もう男は私の目前までやってきた。そして男が私のすぐ傍まで来たと思うとすぐに消え、向こうに移動した。
「……………は?」
その瞬間、右手が一気に軽くなった。さきほどまでたしかにあったパンが入った紙袋が消えていた。
「なんで?」
「怜、怜」
愕然としている私にうさぎが声をかけた。
「あそこ」
うさぎが示した方向に目をやるとあの男が私が買ったばかりのパンの紙袋を抱えていた。
「なっ」
男は腹が空いていたのか一番上に重ねてあった黒パンをその場でむしゃむしゃ食べていた。ぐしゃりと乱暴な手つきで抱えているため、せっかく買ったパンが何個もぽろぽろ地面に落ちていく。
「な、な……私のパン」
わなわなと震えている私を男は鼻で笑い、見せ付けるようにして落ちたパンを踏みつけた。
「!」
男は持ち運ぶため数個のパンを紙袋に残し、また瞬間移動した。
私は踏みつけたパンを見つめる。もう食べられそうにないほどぐちゃぐちゃになっている。冷えていた頭の中が徐々に沸騰しそうなほど怒りがこみ上げていくのがわかる。
ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。
往復1時間も歩くにも関わらず、せっかくここまで来てパンを買いに来たんだぞ。
オマエに食わせるためじゃない。しかも、オマエが食ったパンは私は帰ってさっそく食べようと思っていたパンだぞ。
「返せ」
パンを返せ。金返せ。ここまでの労力返せ。体力返せ。
むかつくむかつくむかつくむかつく。
色々むかつく。
なんで私こんな目に遭ってんだ。なんで一回外に出たら面倒ごとに必ず遭遇するんだ。
私はただグータラ生活送りたいだけなのに。私が何したって言うんだ。
「……しの」
「怜?」
体の震えが止まらない。うさぎが心配そうに近づいてくる。
「わた……しの……」
すべてのことにむかつく。
無意識に体が動く。私はうさぎを右手で思いっきり掴み、左足を踏み出し身体を反らし反動をつけた。
「私のグータラ返せ!!」
そう叫びながらあの男めがけて思いっきり投げつけた。
「うぎゃあああああああ!!」
予想通りのうさぎの大絶叫。しかし、その大絶叫は周りには聞こえていない。
もちろん、あの男にもだ。
ばこん!
ものの見事に男の頭に命中した。男はそのまま地面に倒れ、気を失った。うさぎは気を失いはしていないようだが、目を回している。
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投げた私が言うのもなんだが、本当に当たるとは思わなかった。
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