105 / 115
「……あのぉ、どうやって家の中、に?」
しおりを挟む
カタン、カタン、カタン。
妙な肌寒さとこの静けさの夜に不釣り合いな音に半分思考が覚醒する。掛け布団を掛けていない首から上が徐々に熱が奪われていくのを感じる。
(寒っ……何だよ、隙間風?この音って家のどこかが軋んだ音?)
この家の中は手入れがよく行き届いているようだが、建物自体は頑丈と言えるものではない。壁には小さな破損やひびがあちこちに入っていて、屋根の塗装が一部剥がれている。その壁のひびに冷風が入り、建物のどこかが軋んだ音がしてもおかしくない。
(その割にはちょっと風が入り過ぎていて、音も軋んだ音には聞こえなかったけど……まぁいいや、眠い)
半分思考が覚醒していても、瞼を開けようとは思わなかった。
再び寝直そうと、掛け布団を顎下まで引っ張った。
コツ、コツ、コツ。
なんか、足音のような軋み音だな。
うつらうつらしている状態でも、耳から音が入ってくる。
でも睡眠の邪魔になるほどの物音じゃない。
私は顎下まで引っ張った掛け布団を頭まで被ろうともぞもぞと再び、掴んだ。
ガタン!
「ひっ!?」
まどろんでいた思考が一気に覚醒する。自分の上に何かが覆いかぶさってきたからだ。
この気配やかすかに聞こえる息遣い、紛れもなく人間であり男。
突然のことに体は硬直し、体中から脂汗が滲み出る。
「な、何?泥棒!?」
恐怖に駆られながらも自分にのしかかってくる男の正体を知ろうと大きく目を見開いた。
私は驚きと混乱のあまり、言葉を失った。
家に不法侵入し、私の上にのしかかっている男は私が知っている男だった。
「……え、な、なにやってんの?あなた」
薄暗がりの中でも特徴的なシルエットで誰だか一瞬でわかった。
それと同時に強い混乱の嵐が頭の中に駆け巡る。
「……う…うっく」
「しかも、なんで泣いてるの?あなた」
私の上に跨がっていたのは昼間会ったばかりのパリピ従兄アーサーだった。
アーサーはなぜか、嗚咽を漏らしながら顔を歪ませている。
ガタン!
大きな音に思わずビクッと体を震わす。
今度はなんだ。
私は恐る恐るその音が鳴っているだろう方向に目をやった。
見ると、閉まっていたはずのドアが風に揺られてひらひらと揺れている。ドアは時にはカタンカタンと音を鳴らしたり、時には強い風にあおられたドアが限界まで開き、ガタンと壁にぶつかったりもしている。
「あ~なるほど、寝てるときに聞いた音って家の軋み音ってなくてドアから出た音だったか…………ん?ちょっと待って、私ドアに鍵かけてたよね」
ドアに鍵は閉めた。閉めたはず。
それなのに、なんでこのパリピ男はこの家に入れてるの?
鍵を掛けたはずのドアをどうやって開けた?
「……あのぉ、どうやって家の中、に?」
パニックで目が回りそうになりながらも私は必死に声を絞り出す。
「っ……!ひっく……う、ふ」
目の前の男は私の質問にショックを受けたかのような反応をして、ますますしゃくりあげて泣く声が派手になり大きくなる。
あのぉ、泣きたいのはこっちなんですけど。
正直、あなた以上に大泣きしたい気分なんですけど。
「……忘れ、ちゃったんだね」
「え?」
「何かあった時のために合鍵を僕らが一つ預かってるってこと、忘れちゃったんだね」
「あい……かぎ?」
忘れたんじゃなくて知らないだよ、私は。
なるほど、合鍵があったから家の中に入れたんだ。謎が解けた。
…………いやいやいや、問題はそこじゃない。
なんでその合鍵を使って家の中に不法侵入してくるんだよ。
こんな夜遅くに。しかもベッドに上に跨がって。
従兄でもこれは普通に警察呼んでもいいレベルだぞ。
「……そんな大事なことを忘れるなんて。やっぱり僕の知ってるレイじゃない」
震える声をだしながら涙を私の頬に落としてきた。
「うわっ、汚っ」
私は落とされた涙をごしごしと拭う。
「……レイはそんなこと言わない」
「は?」
「レイは他人が流した涙を汚いなんて絶対言わない、汚い言葉遣いは絶対吐かない、頭を下げている人間を気持ち悪いなんて、絶対に言わない」
「は?それって」
もしかして、私とバスティアンとのやりとりを見てたのか。
気付かなかった。ていうか、こっそり私の後をつけてきたのか。怖いわ。
「かわいそうなレイ、頭をぶつけたせいでレイの中にあるキレイな心が抜け落ちて、代わりにどす黒い悪魔が頭の中に住み着いちゃったんだね。大切な思い出や記憶もその悪魔にゆっくりと奪われて行ってるから合鍵のことも覚えてないんでしょ?」
「は?悪魔?」
「その悪魔が命令してるんだよね。汚い言葉を吐けって。舌打ちしろって。自分でも止められないんだよね。かわいそうに」
「……いや、違うし」
ツッコミどころが多すぎてどこからツッコんでいいのかわからない。
「安心して、レイ」
すっかり暗闇の中で目が慣れた私は目の前のアーサーの顔をはっきり視認できた。
目が慣れたしまった自分を呪いたい。
「俺がその悪魔を取り除いてあげる。俺がいつものレイに戻してあげるよ」
しゃくり上げていた先ほどまでとは打って変わってアーサーは穏やかで優しい笑みを私に向けていた。ぞっとするなというほうが無理な話だ。なんだその切り替えは。
不気味過ぎる。
妙な肌寒さとこの静けさの夜に不釣り合いな音に半分思考が覚醒する。掛け布団を掛けていない首から上が徐々に熱が奪われていくのを感じる。
(寒っ……何だよ、隙間風?この音って家のどこかが軋んだ音?)
この家の中は手入れがよく行き届いているようだが、建物自体は頑丈と言えるものではない。壁には小さな破損やひびがあちこちに入っていて、屋根の塗装が一部剥がれている。その壁のひびに冷風が入り、建物のどこかが軋んだ音がしてもおかしくない。
(その割にはちょっと風が入り過ぎていて、音も軋んだ音には聞こえなかったけど……まぁいいや、眠い)
半分思考が覚醒していても、瞼を開けようとは思わなかった。
再び寝直そうと、掛け布団を顎下まで引っ張った。
コツ、コツ、コツ。
なんか、足音のような軋み音だな。
うつらうつらしている状態でも、耳から音が入ってくる。
でも睡眠の邪魔になるほどの物音じゃない。
私は顎下まで引っ張った掛け布団を頭まで被ろうともぞもぞと再び、掴んだ。
ガタン!
「ひっ!?」
まどろんでいた思考が一気に覚醒する。自分の上に何かが覆いかぶさってきたからだ。
この気配やかすかに聞こえる息遣い、紛れもなく人間であり男。
突然のことに体は硬直し、体中から脂汗が滲み出る。
「な、何?泥棒!?」
恐怖に駆られながらも自分にのしかかってくる男の正体を知ろうと大きく目を見開いた。
私は驚きと混乱のあまり、言葉を失った。
家に不法侵入し、私の上にのしかかっている男は私が知っている男だった。
「……え、な、なにやってんの?あなた」
薄暗がりの中でも特徴的なシルエットで誰だか一瞬でわかった。
それと同時に強い混乱の嵐が頭の中に駆け巡る。
「……う…うっく」
「しかも、なんで泣いてるの?あなた」
私の上に跨がっていたのは昼間会ったばかりのパリピ従兄アーサーだった。
アーサーはなぜか、嗚咽を漏らしながら顔を歪ませている。
ガタン!
大きな音に思わずビクッと体を震わす。
今度はなんだ。
私は恐る恐るその音が鳴っているだろう方向に目をやった。
見ると、閉まっていたはずのドアが風に揺られてひらひらと揺れている。ドアは時にはカタンカタンと音を鳴らしたり、時には強い風にあおられたドアが限界まで開き、ガタンと壁にぶつかったりもしている。
「あ~なるほど、寝てるときに聞いた音って家の軋み音ってなくてドアから出た音だったか…………ん?ちょっと待って、私ドアに鍵かけてたよね」
ドアに鍵は閉めた。閉めたはず。
それなのに、なんでこのパリピ男はこの家に入れてるの?
鍵を掛けたはずのドアをどうやって開けた?
「……あのぉ、どうやって家の中、に?」
パニックで目が回りそうになりながらも私は必死に声を絞り出す。
「っ……!ひっく……う、ふ」
目の前の男は私の質問にショックを受けたかのような反応をして、ますますしゃくりあげて泣く声が派手になり大きくなる。
あのぉ、泣きたいのはこっちなんですけど。
正直、あなた以上に大泣きしたい気分なんですけど。
「……忘れ、ちゃったんだね」
「え?」
「何かあった時のために合鍵を僕らが一つ預かってるってこと、忘れちゃったんだね」
「あい……かぎ?」
忘れたんじゃなくて知らないだよ、私は。
なるほど、合鍵があったから家の中に入れたんだ。謎が解けた。
…………いやいやいや、問題はそこじゃない。
なんでその合鍵を使って家の中に不法侵入してくるんだよ。
こんな夜遅くに。しかもベッドに上に跨がって。
従兄でもこれは普通に警察呼んでもいいレベルだぞ。
「……そんな大事なことを忘れるなんて。やっぱり僕の知ってるレイじゃない」
震える声をだしながら涙を私の頬に落としてきた。
「うわっ、汚っ」
私は落とされた涙をごしごしと拭う。
「……レイはそんなこと言わない」
「は?」
「レイは他人が流した涙を汚いなんて絶対言わない、汚い言葉遣いは絶対吐かない、頭を下げている人間を気持ち悪いなんて、絶対に言わない」
「は?それって」
もしかして、私とバスティアンとのやりとりを見てたのか。
気付かなかった。ていうか、こっそり私の後をつけてきたのか。怖いわ。
「かわいそうなレイ、頭をぶつけたせいでレイの中にあるキレイな心が抜け落ちて、代わりにどす黒い悪魔が頭の中に住み着いちゃったんだね。大切な思い出や記憶もその悪魔にゆっくりと奪われて行ってるから合鍵のことも覚えてないんでしょ?」
「は?悪魔?」
「その悪魔が命令してるんだよね。汚い言葉を吐けって。舌打ちしろって。自分でも止められないんだよね。かわいそうに」
「……いや、違うし」
ツッコミどころが多すぎてどこからツッコんでいいのかわからない。
「安心して、レイ」
すっかり暗闇の中で目が慣れた私は目の前のアーサーの顔をはっきり視認できた。
目が慣れたしまった自分を呪いたい。
「俺がその悪魔を取り除いてあげる。俺がいつものレイに戻してあげるよ」
しゃくり上げていた先ほどまでとは打って変わってアーサーは穏やかで優しい笑みを私に向けていた。ぞっとするなというほうが無理な話だ。なんだその切り替えは。
不気味過ぎる。
0
お気に入りに追加
985
あなたにおすすめの小説
もう二度とあなたの妃にはならない
葉菜子
恋愛
8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。
しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。
男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。
ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。
ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。
なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。
あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?
公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。
ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら
冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。
アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。
国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。
ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。
エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。
婚約者にフラれたので、復讐しようと思います
紗夏
恋愛
御園咲良28才
同期の彼氏と結婚まであと3か月――
幸せだと思っていたのに、ある日突然、私の幸せは音を立てて崩れた
婚約者の宮本透にフラれたのだ、それも完膚なきまでに
同じオフィスの後輩に寝取られた挙句、デキ婚なんて絶対許さない
これから、彼とあの女に復讐してやろうと思います
けれど…復讐ってどうやればいいんだろう
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
悪役令嬢が死んだ後
ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。
被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢
男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。
公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。
殺害理由はなんなのか?
視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は?
*一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる