91 / 115
コンラッド視点
しおりを挟む
コンラッド視点
雨が上がり、静まり返っていた街が普段の活気が戻り、賑わっている。細道から大通りのほうへ顔を出すと見回り中の兵士が目に付いた。やはりのこの軍服は人ごみの中でも見つけやすく、目立つ。おそらく、向こうの兵士も同じ軍服を着ている自分にも気づくはずだ。もし、自分と一緒に後ろの“彼”がこの街のこの場所に一緒にいることが知られると少しやっかいなことになる。
「もう、ここでいいですよ。後は自分で戻れる」
私の意図を汲み取ったかのように彼が後ろから語りかけた。
「いえ、これも仕事です」
私は振り返らずに返した。
「仕事、か」
「その手どうしたんですか?」
「手?」
ずっと気になっていた。器用に手に巻かれているハンカチを指した。彼のものではないことはすぐにわかった。
「これは、少し転んで擦りむいただけですよ」
なんでもないと彼は軽く笑った。
「あまり、無茶はなさらないように。ご自身の立場をもう少しお考えください」
「わかってますよ。わかっているからこその行動だったんですよ」
「彼女は知っているんですか?あなたのことを」
「いいえ、教えていません」
私の堅くした口調に淡々とした口調が返ってくる。周囲はざわざわとした人の声があちこちから流れているはずなのに、今は静かに語る彼の言葉しか耳に入らない。
「コンラッド」
彼が私の名前を呼んだ。さきほど淡々とした口調ではなくどこか馴染みを含ませるような口調で。
「今、ここにいるのは二人だけです。護衛も兵もいない。だから、久しぶりに―」
「私は少し離れた場所います。あなたを送り届けたら、すぐに自分の勤務に戻ります」
今の私は第一部隊の兵士。
それ以上でもそれ以下でもない。その先を言わせないように、遮る。
「わかった」
彼はそれだけ言うと僕を振り返らずに大通りを出た。私は何も言わずに彼を見送る。
もう、私たちは子どもではない。年月を過ぎると己の背負うものの大きさややるべきことの義務を理解しなければならない。
感情だけで動いていい時期はとうに過ぎた。
そう気持ちを引き締めながら自分も大通りのほうへ一歩踏み出す。
雨が上がり、静まり返っていた街が普段の活気が戻り、賑わっている。細道から大通りのほうへ顔を出すと見回り中の兵士が目に付いた。やはりのこの軍服は人ごみの中でも見つけやすく、目立つ。おそらく、向こうの兵士も同じ軍服を着ている自分にも気づくはずだ。もし、自分と一緒に後ろの“彼”がこの街のこの場所に一緒にいることが知られると少しやっかいなことになる。
「もう、ここでいいですよ。後は自分で戻れる」
私の意図を汲み取ったかのように彼が後ろから語りかけた。
「いえ、これも仕事です」
私は振り返らずに返した。
「仕事、か」
「その手どうしたんですか?」
「手?」
ずっと気になっていた。器用に手に巻かれているハンカチを指した。彼のものではないことはすぐにわかった。
「これは、少し転んで擦りむいただけですよ」
なんでもないと彼は軽く笑った。
「あまり、無茶はなさらないように。ご自身の立場をもう少しお考えください」
「わかってますよ。わかっているからこその行動だったんですよ」
「彼女は知っているんですか?あなたのことを」
「いいえ、教えていません」
私の堅くした口調に淡々とした口調が返ってくる。周囲はざわざわとした人の声があちこちから流れているはずなのに、今は静かに語る彼の言葉しか耳に入らない。
「コンラッド」
彼が私の名前を呼んだ。さきほど淡々とした口調ではなくどこか馴染みを含ませるような口調で。
「今、ここにいるのは二人だけです。護衛も兵もいない。だから、久しぶりに―」
「私は少し離れた場所います。あなたを送り届けたら、すぐに自分の勤務に戻ります」
今の私は第一部隊の兵士。
それ以上でもそれ以下でもない。その先を言わせないように、遮る。
「わかった」
彼はそれだけ言うと僕を振り返らずに大通りを出た。私は何も言わずに彼を見送る。
もう、私たちは子どもではない。年月を過ぎると己の背負うものの大きさややるべきことの義務を理解しなければならない。
感情だけで動いていい時期はとうに過ぎた。
そう気持ちを引き締めながら自分も大通りのほうへ一歩踏み出す。
0
お気に入りに追加
985
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
もう二度とあなたの妃にはならない
葉菜子
恋愛
8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。
しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。
男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。
ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。
ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。
なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。
あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?
公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。
ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
婚約者にフラれたので、復讐しようと思います
紗夏
恋愛
御園咲良28才
同期の彼氏と結婚まであと3か月――
幸せだと思っていたのに、ある日突然、私の幸せは音を立てて崩れた
婚約者の宮本透にフラれたのだ、それも完膚なきまでに
同じオフィスの後輩に寝取られた挙句、デキ婚なんて絶対許さない
これから、彼とあの女に復讐してやろうと思います
けれど…復讐ってどうやればいいんだろう
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる